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連載:「新書こそが教養!」【第47回】『倭国 』

2020年10月1日より、「note光文社新書」で連載を開始した。その目的は、次のようなものである。

■膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
■デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?

★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

現在、毎月200冊以上の「新書」が発行されているが、玉石混交の「新刊」の中から、何を選べばよいのか? どれがおもしろいのか? どの新書を読めば、しっかりと自分の頭で考えて自力で判断するだけの「教養」が身に付くのか? 厳選に厳選を重ねて紹介していくつもりである。乞うご期待!

「倭国」が確立されたのは6世紀初頭

2021年12月23日、上皇が88歳の誕生日を迎えられた。体調は良好で、平静で安定した生活を送られているそうで、誠におめでたいことだと思う。そこで非常に興味深かったのが、「確かな記録が確認できる歴代天皇では、米寿を迎えるのは上皇さまが初めて」と、宮内庁が正式に発表した点である。

江戸幕府に代わって天皇中心の国家を形成しようとした明治政府は、初代の神武天皇の即位すなわち「皇紀元年」を紀元前660年と定めた。神武天皇は、『古事記』によれば137歳、『日本書紀』によれば127歳で崩御したことになっている。他にも『古事記』によれば、第5代孝昭天皇は93歳、第6代孝安天皇は123歳のように長寿の天皇がいた記載があるが、宮内庁は、これらが「確かな記録」ではないと公式に認定したことになる。この発表は、もちろん上皇も認可されているはずだから、注目すべき歴史認定といえるだろう。

1889年(明治22年)、初代枢密院議長・伊藤博文が『皇室典範』を起草した。そこで「皇位継承における万世普遍の原則」が、「皇祚を践むは皇胤に限る・皇祚を践むは男系に限る・皇祚は一系にして分裂すべからず」と法制化された。さらに同年に発布された「大日本帝国憲法」第一条は「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」と定めている。要するに、天皇の系統が永久に日本を統治するという「万世一系」の概念が、初めて明文化されたわけである。

1940年(昭和15年)は「皇紀元年」から2600年に当たることから、全国で神宮や陵墓の整備などの記念行事が開催され、子どもたちは「皇紀2600年奉祝曲」を歌った。現代のSNSでさえ「万世一系」や「皇紀2682年」という言葉を見掛けるが、これらは「確かな記録」ではないと認定されたのである。

本書の著者・古市晃氏は、1970年生まれ。岡山大学文学部卒業後、大阪市立大学大学院文学研究科修了。花園大学専任講師、准教授などを経て、現在は神戸大学教授。専門は、日本史・日本古代史。著書に『日本古代王権の支配論理』(塙書房)、『国家形成期の王宮と地域社会』(塙書房)などがある。

さて、中国の『漢書』によれば、紀元1世紀頃、「倭」と称された日本列島に百ほどの小国があった。『後漢書』によれば、2世紀頃の「倭」の国々は乱れて互いに争い、統治する者はなかった。その争乱状態を終わらせるために諸国が祭り上げた最初の「倭王」が、邪馬台国の女王・卑弥呼である。『三国志』によれば、238年、卑弥呼は当時中国で最も強大な魏に使者を送り「親魏倭王」の称号と金印を得た。しかし、卑弥呼の死後、再び「倭」は混乱した。

『宋書』には、5世紀に5人の倭王(讃、珍、済、興、武)の使者を迎えたと記載がある。これらの5カ国を平定し、6世紀、専制的な「倭国」を建国したのが継体天皇である。この国は欽明天皇に引き継がれ、世襲制が成立した。

本書で最も驚かされたのは、「記紀」における天皇統治の神話・伝承に関る記述が「7世紀以降に造作された空想の産物」だと喝破しながら、それらを相互に比較し、文献や発掘などの科学的データと照らし合わせて、より整合性の高い仮説を導くための「素材」として活用するという古市氏の研究方法である。日本古代史では「虚構」の中から「真実」を推論するわけである!

本書のハイライト

記紀が記す天皇で実在が確実視されているのは、第一五代応神天皇、または第一六代仁徳天皇からであって、それ以前の天皇は後世の造作にすぎない。記紀などに記されている陵墓の所在地と、巨大前方後円墳の集中する地が一致することや、陵墓に比定される古墳の年代観と歴代天皇の治世が近似するという見解から、第一〇代崇神天皇以降の天皇が実在したとする主張もあるが、そうした主張は文献史学や考古学の固有の方法論を無視したもので、学術的には何の意義も有さない(p. 12)。

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