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アイドルが好きなら、ヘッドフォンは2つ以上買うのを勧めたい話

これはアイドル文化を楽しむ上で、1つの楽しみ方を提案したいという記事である。

アイドルの楽しみ方というのは様々な楽しみ方がある。ライブに行くのもいいし、握手など接触を楽しむのも1つだ。その中に楽曲派と呼ばれる楽しみ方もあるが、ご存知だろうか。リリースされている楽曲に対して、メロディや歌詞、曲のアレンジなどを聞き込んでその素晴らしさを考える、という楽しみ方である。

アイドルの音楽というのは、時として稚拙な音楽として扱われてきた。実力の無い女の子に楽曲以外の衣装や振り付けを施すことで売る姑息な商売とされてきた歴史がある。

しかし、この数年、プロの編曲者の中でも「アイドルの楽曲は他の編曲より思い切ったことをしても怒られないのではないか」という声が聞こえ始めているのだ。


そこで、ヘッドフォンを2つ以上買うのをお勧めしたい。

 

まず1つは、通常の出勤やジム、部屋で聴く用。これは自分の好みの音で音楽が聴けるものなら、Airpodsでもなんでも構わない。普段使い用と考えてよい。

もう1つ、1万円以上のモニターヘッドフォンと呼ばれるものを用意するのをお勧めしたいのである。

通常のヘッドフォン、イヤフォンというのは、メーカーであったり、シリーズによって実際の音源に対して、低音を強くするなど様々な効果を与えており、昨今の流行で言えば、SONYやBEATS by Dr.Dreなどは明確に低音に対してブーストをかけた音を再生出来るものが流行っていると言える。

一方、モニターヘッドフォンというのは、あくまでも限りなくフラットに音源の音がよりクリアに解像度高く聞こえるという特性があります。つまり、楽曲を隅々まで楽しむためにはもってこいのヘッドフォンなのです。

 

【ただし、変態に限る】

そんなに隅々まで楽しめるなら、モニターヘッドフォン1つあればいいんじゃないかと言う人もいるかもしれないが、それを勧めないのには理由がある。

ものすごく疲れるのだ。

普通のヘッドフォンだったら流し聴き出来るような細かい音までモニターヘッドフォンでは聴こえるわけで、単純に音の情報量が多くなる。その分だけ脳の負担がかかるため、長々と聴くのにはまるで向かない。

ましてや、普通の人は普通のヘッドフォンで聴いているものをわざわざそんなヘッドフォンを使って聴くのはただの変態の所行といっても良いだろう。

 

【沼の入り口はよく見るあのヘッドフォン】

さて、そんな変態の仲間入りを前にしたあなたに見てほしいのがこのヘッドフォンだ。

赤いラベルにSONYの文字、誰もが一度は見た事あるMDR-CD900STである。

多分、多くの人がレコーディングの現場で使っているのを見るかと思うが、なにせこのヘッドフォン、頑丈で、ほぼ全てのパーツが販売しており、修理が容易という点と、どこのスタジオでも使っているという点で、スタンダードと言えるのだ。

特徴としては、中音域、ボーカルの声の辺りが非常に高解像度に聴こえるため、ボーカルレコーディングでは特によく使われているというものになる。

ただミュージシャンが使っているからと、すごく良い感じに音楽が聴こえると思って買っていった人がイメージと違ってがっかりしたという声も少なくない。何故ならこれがモニターヘッドフォンだからである。

それまで使っていた、あるいは自分が良い音、と思っていた音と、モニターヘッドフォンの良い音は全く別世界の音なのだ。

 

【何を基準に選べばよいのか】

まず、携帯なりデジタルオーディオプレイヤーになるべくいい音のいつも聴いている音源を用意する。YoutubeのMV等ではなく、ストリーミングサービスを使う場合には可能な限り音質を最高にしておいてほしい。

いつも聴いている音源というのは、ジャンルによっても音の作りがかなり変わってくるため、自分が求めているものが変わる可能性があるからだ。個人的には3曲程度、ロック、ヒップホップ、アイドル辺りを選択している。

そして、大型の家電量販店なり、ヘッドフォン専門店に駆け込む事を勧める。今から実際のヘッドフォンを聴き比べるからだ。MDR-CD900STを繋いで聴くと、そのヘッドフォンがいつも使ってるものとはまったく違う事が分かるだろう。

じゃぁ、何を基準にするべきかというと、この辺りを参考にしてほしい。

・音の解像度

・音の分離感

・空間の広がり

先述した中にも出てきたが、「音の解像度」というものは音の細かさである。もちろん元の音源の解像度にもよるが、ヘッドフォンの性能によっても再生した時の解像度感というのは大きく異なってくる。

ギターで言うなら、解像度が低いとどこの音を弾いているかぐらいしか分からないものが、解像度が高くなると、ネックに触れた空気感や弦の振動のニュアンスまで伝わるようになる。例えていうなら、モザイクのかかった画像がどんどん鮮明になるというのが分かりやすいだろうか。

「音の分離感」というのは、音1つ1つが個別に聴こえるかどうかである。分離感が悪いと、音はごちゃっとした一個のまとまりでしか聴こえてこない。しかし、分離感の高い音ならギター、ベース、ドラムもバスやタム、ハイハットなどが綺麗に分かれて聴こえてくるのだ。

これが、クラブサウンドのような複雑なものだとしても、分離感が高いとどのタイミングでどんな音が鳴っていて、今までは気付かなかったような音の仕掛けがあることに気付くのである。

最後に「空間の広がり」というのは、ヘッドフォンは右耳と左耳に装着するものだが、実際の音源で考えると音場と定位という概念がある。ライブ会場とアリーナのようなコンサート会場では空間の広さが違うように、その音源がどういう広さで鳴っている音なのか、各楽器はどういう位置で鳴っているのかが異なってくる。

バンドで言うなら、ドラムは真ん中なのか、ギターやベースの位置は右左どっちなのかに始まり、実は一曲の中でギターの音は右から左に移動したりなど、その位置さえも編曲の中で大きく変わることもある。

これらを意識して、ちゃんとそういう違いが聞き取れるかというのをMDR-CD900STを基準に聴き比べてほしいのだ。

実際、主なモニターヘッドホンというのは、1万〜3万ぐらいというのが売れどころである。それ以上の値段のものは再生環境そのものをさらに良くする必要もあるだろう。


【何故、アイドル好きに必要か】

楽曲派という概念は、ハロプロの文化から派生したものである。2002年に始まったハロプロ楽曲大賞というものがあり、その年リリースされた楽曲に対して、メッセージと共に投票が出来る企画となっている。2010年以降、ハロプロに限らずアイドル楽曲全般にこの門戸が開かれるという流れがあった。

そもそもハロプロ楽曲大賞というのが発生した由来は、当時のハロプロの楽曲は、ダンス☆マンのディスコサウンドに始まり、鈴木Daichi秀行、小西貴雄、高橋諭一、永井ルイ、渡部チェルなど様々な編曲家が古今東西の様々なジャンルのアレンジを妥協する事無く注ぎ込んでおり、その音楽的な多様性というのが、ライムスター宇多丸のマブ論へと繋がっていくという時代の始まりであった。

稚拙な音楽と思われていたアイドルという音楽ジャンルにおいて、不釣り合いなほどきちんとした編曲、あるいはそれを解体して再構築することで全く別なアイドルという音楽にしたもの、ある種のキメラ的な新種を文脈として扱う文化として広がっていったのだ。

つまり、アイドル楽曲を楽曲派として読み解くには、アイドル曲の知識だけではなく、古今東西の音楽ジャンル、最新の海外のヒットなど様々な知識というのが当然として必要となるし、それを分解してニュアンスを汲み取るためには解像度、分離感、空間性の高いモニターヘッドフォンが必要となるのである。

 

アイドル楽曲大賞2018年のメジャー部門1位は、sora tob sakanaの「New Stranger」だったが、サウンドプロデュースを手掛ける照井順政のポストロックとエレクトロニカをベースにしたサウンドに加え、8bitミュージックをイメージしたチップチューンの技術が取り入れられ、さらに進化した姿が見れる。

先日リリースされたBEYOOOOONDSの「眼鏡の男の子」は作曲家の星部ショウがリリースノートでも明かしている通り、チップチューンとHIPHOPのトラップというジャンルを混ぜて作られている。ピコピコとしたコンピューター的な音のチップチューンの要素は比較的分かりやすいが、トラップの要素は曲の構成とトラックの一部のラインに分解されている。恐らく相当トラップを聞き込んで、概念としてどういうものかを理解していないとこれを読み解くのは難しい。

いぎなり東北産の「BUBBLE POPPIN」は一見、EDMの作りに見えるが、サビは80年代のダンスミュージックであるHi-NRGやテクノポップに近い。同じディスコサウンドの系譜にある別なジャンルを織り交ぜて作っている。特にシンセサイザー主体の場合、各ジャンルの特徴的な音色やリズムパターンを知っていると掴みやすい。

 

現場で楽しいのも、MVの推しが可愛いのも重要だが、アイドルの楽曲というのは世界的に見ても独自の音楽性を誇っている。その魅力を語るために是非、ヘッドフォンを買ってほしいのだ。

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