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政府が提供する「最速データ」から読み解く、コロナ禍の地域経済

こんにちは。ヤフーのオープンコラボレーションハブ「LODGE」です。

LODGEは地方自治体のDX支援の一環で、オンラインイベントの開催などを行っております。

2021年8月18日に開催された、「V-RESASで可視化する、コロナ禍の地域経済 ~人流と消費の動向から地域経済の現在を見てみよう~」のアーカイブ動画およびイベントレポートをご紹介します。

登壇者:
Takram 代表取締役/デザインエンジニア 田川欣哉氏
ヤフー株式会社 データソリューション事業本部 大屋誠
ヤフー株式会社 オープンコラボレーションハブLODGE 徳應和典

アーカイブ動画

45分のショートサイズのイベントです。
是非、実際に「V-RESAS」の画面を見ながら、動画をご覧ください。

田川欣哉さん:
株式会社Takram 代表取締役・デザインエンジニア
テクノロジーとデザインの幅広い分野に精通するデザインエンジニア。主なプロジェクトに、日本政府の地域経済分析システム「V-RESAS」のディレクション、メルカリのCXO補佐など。
経済産業省・特許庁の「デザイン経営」宣言の作成にコアメンバーとして関わった。経済産業省産業構造審議会知的財産分科会委員。

PDCAや意思決定の迅速化を目指す 
官民コラボで政府「最速」のデータ提供

今回のテーマは、地域経済分析システム「V-RESAS」。田川さんはV-RESASの立ち上げ時、2020年度にコンセプト・UI/UX・可視化などのディレクションを担当されていました。

はじめに、RESASとV-RESASの違いについてご説明いただきました。
双方ともに、内閣府 地方創生推進室ビッグデータチーム、経済産業省 地域経済産業調査室によって運営されています。

RESAS
「Evidence Based Policy Making」を基盤に2015年に誕生。膨大なデータ量が特長。分類も多様で、さまざまな観点からデータの比較・分析が可能。
田川さんは「あらゆるデータを元に、年に一回異常がないかを細かく確認する」人間ドックに例えています。

V-RESAS
RESASを親サービスとして2020年に誕生。V-RESASの「V」は、「Vital Signs of Economy(経済のバイタルサイン)」を表現しています。

新型コロナウイルス感染症が収束の気配を見せない中「地域の事業者や行政が、必要とするデータを把握できるように」と設計されました。スピード感を重視し、利用者がデータを適時適切に参照できるように設計されており、PDCAや意思決定の迅速化を目指しています。

「人間ドック」RESASに対し、V-RESASは「バイタルサインモニター」だと田川さんは表現します。

田川さん:
 お医者さんは、心電図や血圧計などを随時見ることで「何か異変があるのでは」と迅速に判断しますよね。精密ではないけれども、随時更新されている。これがほぼV-RESASのコンセプトを言い表しています。
定期的にご覧になっていただくと、いろいろな世の中の動きが頭の中に入ってきますし、異変に気が付きやすくなります。こうした感度を得た状態でニュースを見ると頭に入ってくることが違います。

人流データも細かく見れますし、人流以外のデータとクロスしてみることで、動きを予測してみることができます。

目指すは政府最高のスピード感
V-RESASの活用で何ができるのか

V-RESASの特徴は大きく分けて次の3つです。

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一つ目は、新型コロナウイルスが地域経済に与えた影響を分析できること。中でも大きな打撃を受けている業種の一つ、サービス産業の分析に特化しています。

二つ目は、更新頻度の高さ。国や省庁が公開するデータの大半は年次や月次単位で、状況が日々変化する感染症対策には不向きといわざるを得ません。V-RESASは最速で週次、人流など一部データは日次で公開されるものもあり、「政府最速で高い更新頻度を目指す」を目標としているそうです。

三つ目が、民間データをフル活用する点。民間企業とコラボレーションし、データを1カ所に集めて「データベース」化することで、人流や消費活動をはじめ、雇用・宿泊・イベントといったサービス業全体を見渡すことを可能としています。全国トレンドはもちろんのこと、47都道府県ごとに公開されているため、各自治体の方々にも有効なツールです。

V-RESAS利用のポイント

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V-RESASを利用する際のポイントは以下です。

・定期的に、人流・飲食・消費などをチェックする
・人流とそれ以外のサービスの動きに着目する
・地域ごとの比較を行う

自分の自治体と近いところを並べて比較することで、自身の地域だけの特徴なのか、連動しているのかも把握することができます。

「人流」を3つに分類、可視化

V-RESASの画面を見ながら「コロナ禍」の影響を見ていきます。

田川さん:
連日の報道にもあるように、新型コロナウイルスの抑制には人流を抑えることが重要だとされています。しかしながら、人が集まらなければサービス業は成り立ちません。人流を抑制しながら、経済も成り立たせる。とても難しいトレードオフ関係になっています。

V-RESASを使うと、人流にも種類があることが見えてきます。

・日用品や食品の購入など、生活圏内の移動(グラフ青線)
・通勤などの中距離移動(オレンジ線)
・観光、およびビジネス出張などの県をまたぐ移動(赤線)
3つを可視化して解説します。

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上のグラフは、2020年1月から2021年7月のデータをコロナ禍以前の2019年と比較したもので、数値がゼロに近いほど、いわゆる「ビフォーコロナ」の頃に近いことを示しています。

中距離(オレンジ)と県またぎ(赤)の移動は明らかに減少しており、特に最初の緊急事態宣言が発令された2020年4月の県またぎの移動は、約80%減となっています。

一方、生活圏内移動(青)はビフォーコロナよりも逆に活発化している面も見て取れ、一概に「人流」といってもさまざまな面があることが分かります。

飲食業は「業種」によって傾向が変わる

V-RESASは、POSシステムやクレジットカードの決済データとも連動しています。例えば、東京でソーセージや焼き肉といった肉の加工製品の売れ行きが伸びていることから、外食が難しくなったため家庭内で食事を楽しむ人が増えたのではないか、という仮説が立てられます。

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コロナ禍で大きなダメージを負った産業といえば、飲食業が思い浮かびます。飲食店検索サイトRetty提供のデータをV-RESASによって細かく分析してみると、ファミリーレストラン、ファストフード店などは比較的善戦をしている一方、居酒屋やバーといった業態は予想通りマイナス70%台という大きな影響を受けていることが分かります。

徳應:
カフェ、スイーツ、中華、ファミレスといった昼間に行くお店と、夜がメインになりそうな居酒屋や鍋料理では差が出るものなのだな、ということがデータから分かりますね。

田川さん:
まさにおっしゃるとおりなんです。第1次の緊急事態宣言のときは、等しく全体が落ちました。ファミレスとファストフードだけは別なのですが、昼間の行動も含め全体的にガクンと減ったんです。
これが、時間を経過するごとにバラけてきている。飲食店の皆さんの置かれている状況が、個別化しているということになりますね。ランチで強い中華、カフェ、スイーツ、ファミレスなどはまだ良くて、居酒屋や、昼間あまり食べない鍋料理、会合に使われるところなどが苦戦しています。

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田川さん:
今年は「緊急事態宣言」もしくは「まん延防止等重点措置」が発令中の状態が続いていますので、人々の検索行動は非常に抑制的になっていますね。去年の第1次緊急事態宣言では人流が全国的に約6割くらい抑制され、前代未聞の状況になりました。現在、それに近いところまで落ちてきています。特に居酒屋、バーなどが顕著に検索行動が抑えられ、皆さんが「新しいところに行っていない」ということが分かります。

「風が吹いている」ECは二桁台で推移

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田川:
一方、ECを全国平均で見ると、ずっと二桁台で来ているんです。ここはとても風が吹いているという形に読み取れます。ワクチンが普及して人々の行動が解放されてきたときに、このプラスのトレンドがそのまま維持されるのか、それともゼロに近づいていくのか注視したいポイントです。

自治体で働く方の活用事例は?

V-RESASは内閣官房とTakram社含む民間企業の合同プロジェクトで立ち上げられました。立ち上げ当初、「どういうシーンでV-RESASを使ってみたいですか?」と自治体の皆さんにかなり広くインタビューを行い、実装に反映したそうです。

ここから、自治体の方の業務におけるV-RESASの実践的な活用法について、様々な例示をいただきました。

定期報告の際に

地域の現状を定期報告する際に、V-RESASは役立ちます。

田川さん:
V-RESASは見やすくまとまっているので、この画面をそのままプロジェクターに投影して、地域トレンド、全国トレンドを定期レポートの中に入れていくとよいのではないでしょうか。時短に繋がるほか、出席者で同じ画面を見ながら話せるメリットもあります。
レポートする相手の方にV-RESASの読み解き方をレクチャーしてご覧になっていただくようにすれば、より時短に繋がります。会議ですぐ本論に入れるメリットもあります。

意思決定のシーンで

行政において予算の策定、それを実行した後の評価は重要なタイミングです。V-RESASをエビデンスとして有効活用してほしいと田川さんは話します。

田川さん:
先に説明した通り、飲食店の業種レベルまで細かく見ることができますので、「今なぜこの予算の枠が必要なのか」「ここに支援が必要だ」といったことをロジカルに説明する際に、エビデンスとして使っていただくことも有効だと思います。

データをダウンロードして資料に

ヒアリングの中で「WEBサイトで見れるのもいいが、やはりパワーポイントに貼りたい」「自前で持っているデータとV-RESASのデータをクロス集計してみたい」といったニーズもあったそう。
そのために、グラフをダウンロードできる機能を実装しました。

CSVでダウンロード、別データとのクロス集計に

V-RESASに公開されているほぼ全てのデータがCSVのファイルでダウンロード可能です。二次加工をして使っていただくことができます。定期的にデータをダウンロードし、別のデータと組み合わせてロジックを作るシーンでも有効です。

全国の平均データとの差異を見る

比較の機能もあります。「お気に入り」機能を用いて、常々見るデータのパネルを並べて表示できます。

田川さん:
例えば「熊本県の飲食のデータ」と「全国の平均のデータ」を並べると、トレンドの違いを見ることができます。
こういった地域間比較機能は、自治体では非常にニーズが高いところです。例えば熊本と同じ人口、経済規模の地域を出して比べることで、対策の解像度を上げることもできます。

「変化の兆しに気づく」ことが行動を変える

田川さん:
V-RESASを見続けることで、感覚が芽生えてきます。「なんかちょっと変わってきたな」「これまでと違うな」ということに気が付くと、変化の兆候を読み取れるようになります。例えば第五波が落ち着いた後、もう少し踏み込んだメッセージをしていくのか、今後の施策などを考えていくときにも有効だと思います。

徳應:
数値の羅列だけではなくて、都度リアルタイムに可視化されるというところが、兆しをつかむのに優れていますね。まさにダッシュボードなので、これをもとにレクやブリーフィングがおこなわれるということは、とても想像しやすい使い方です。ありがとうございました。

刻々と変化する状況は、検索ワードにも現れる

ここからは、ヤフーが提供する「DS.INSIGHT」を用いてコロナ禍のトレンドはどう見えていたかを見てみます。

「DS.INSIGHT」では、ヤフーが保有する行動ビッグデータ「検索と位置情報」を掛け合わせた分析が可能です。

DS.INSIGHTもV-RESAS同様、スピード感を持ったサービスとなっており、「昨日お台場でレストランの検索をした人」といったデータも知ることが可能です。

こちらを使って一年前(2020年8月)と現在(2021年8月)の港区の人流を比較したところ、月単位では今年、1時間単位では去年の方が多いことが分かり、ここから「去年は、出かけても短時間で帰宅していたのでは」といった仮説を導くことができます

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また外食が難しくなった現在でも、「レストラン」というキーワードで検索している人は一定のボリュームを保っています。年代別で分析してみると、20代はコロナ禍前後でほぼ変わらないものの、50代ではむしろ上昇していることが分かります。

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検索ワードのボリュームによってそのトレンドを知ることもできます。

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例えば「コロナ」という単体のキーワードでの検索ボリュームは初期をピークに減少していますが、時間の経過に伴って「コロナ 初期症状」「コロナ 潜伏期間」といった言葉が増え始めています。

現在は「コロナ ワクチン」や、30代~40代の女性においては「子ども コロナ 症状」というキーワードが増えています。

大屋:
検索件数は少なくても、今検索数が伸びているものを注視すると、人々の関心の移り変わりを把握することができます。自治体の対策や、経済に対する影響を深堀することで、より精度の高い対策ができるのではないかと思います。

ヤフー行政コミュニティでは、行政のデータ活用に役立つ情報や、行政におけるヤフーデータ活用事例のご紹介をしています。

アーカイブ動画はこちら

V-RESASを使った分析・活用方法について、田川さんにご紹介いただきました。今後の地域経済の動きを知るヒントとしてお役立ていただければと思います。

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LODGEは、地方自治体のDXを支援するオンラインイベントの開催や人材マッチングをおこなっております。イベント共催やDX人材についてのお問合せなど、お気軽にご連絡ください。

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