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黒い海苔と黒いピアノ

ピアノを一つ置いた舞台に、暗闇の中からの現れた男性。

2000人程の人の前で、初めて披露する。

一つのピアノと、自分の指だけが頼り。

ピアノには、譜面などなにもない。

割れんばかりの拍手のなか、一礼をして、静寂に包まれる。

背筋を伸ばし、指をピアノに触れようとした瞬間。

空気や時間が止まった。

溢れる感情が、1音目の音色とともに会場に伝わっていった。

もう号泣だった。

努力とか賛美とかを超えた。

魂の演奏だった。

会場が一体となって音を紡いでる。自分の気持ちが音としてピアノのから鳴っているような感覚になった。

この日、最高の拍手が響き渡った。

徳永義昭さんは、両手でピースサインを作り、最高の笑顔だった。

退席途中に手を胸にやり、【緊張した】というジェスチャーが愛らしくで、優しさが伝わった。

並大抵のことでは、ラ・カンパネラを2000人の前で弾くコトは出来ない。

それを目の当たりできた、奇跡の時間だった。

海苔網を引く太い指は、ラ・カンパネラを弾くの太い指になった。自然の厳しさが優しさに変わった夜だった。

ノリ漁師・徳永義昭さん
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