時系列について(2550字)
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時系列について(2550字)

岸辺

ゲンロンの運営する動画配信サービス「シラス」内に、SF作家の菅浩江さんが創作関係の講義などを行う「菅浩江のネコ乱入!」というチャンネルがある。そこで「お題の写真を1000字で描写してみよう」という課題があり、提出した「ストランド」という文章の添削を受けた。

『ストランド』(提出した文章)

夜明け前なら車も通らないだろうと、男は道の真ん中へ飛び出した。中途半端に乾いた服からはまだ海水が滴っていた。一晩中動いたせいで身体は疲れきっている。
男に電話があったのは、ナイトダイビングのツアー客をホテルに送り届け、缶酎ハイを飲みながら店でウエットスーツを洗っていたときだった。船を停泊させているヨットハーバーから、鯨がいるから来てほしいと連絡が入った。外に出て港を見下ろすと、いくつか明かりがみえた。残っていた酎ハイを飲み干し港へ向かった。迷い込んでいたのは若いハナゴンドウだった。

道路の中央線に沿ってまっすぐ歩いていると足裏に痛みが走った。小さな石を踏んでいた。皮膚に痣のようなものはできたが血は出ていない。鯨を助ける際に脱いだサンダルは物珍しさに集まった雑踏に巻き込まれ、海から上がるとなくなっていた。店まで大した距離ではなかったし、男は裸足のまま戻っていた。アスファルトの両脇には荒涼とした砂地が広がっている。放った小石はタンタンと荒地を飛び跳ね、苔玉のように身を寄せ合う雑草の茂みへ消えた。
鯨は助からなかった。男たちは港の外へどうにか向かわせようと陸から音を出したり、水面を棒で叩いたが駄目だった。次に小型ボートで沖の方へ追い立てようとしてみたがそれも上手くいかなかった。ハナゴンドウは停泊している船に丸く突き出た頭部をぶつけると、クキュウと甲高い声をあげた。そこに海を回遊する豪壮な姿はなかった。警官や市役所の担当者は到着しても野次馬たちを制止するか、斜路に座礁したハナゴンドウに男たちと一緒に海水をかけてやるくらいしかできなかった。そして水族館の職員が着いたころには鯨の声はすっかり弱々しいものへと変わり、職員の一人が「もう駄目だな」とこぼすと、ほどなくおとなしくなった。

腕時計のアラームが鳴る。午前のツアーに向けて起きなければいけない時間だった。結局、ウエットスーツは洗濯途中のままだ。送迎車の清掃やツアーリストの準備、提携しているホテルへの連絡もまだだった。アラームを止めて歩く速度を上げる。すると港から返す潮風が男の背中をさすった。夜が明ける。次第に桃の薄皮のような空色が目の前へ広がっていった。まっすぐな一本道がはっきりと現れる。だが道のりは遠い。何もかも小さく感じる朝だった。【了】

指摘されたポイント

提出した文章は「男が港に迷い込んだ鯨を助けるために一晩中奮闘したあとの帰り道」の描写である。

主に指摘を受けた点
・現在と過去が入り乱れていて、時制がわかりづらい。

提出した「ストランド」を現在(黄色)と過去(青色)に色分けしたのが以下となる。
画像1

上から順に黄色1、青色1と振り、それらを時系列順に並び換えてみる。
(時系列順:青1→青3→青2→黄1→黄2→黄3→黄4)

『ストランド』(時系列順に並び換え

男に電話があったのは、ナイトダイビングのツアー客をホテルに送り届け、缶酎ハイを飲みながら店でウエットスーツを洗っていたときだった。船を停泊させているヨットハーバーから、鯨がいるから来てほしいと連絡が入った。外に出て港を見下ろすと、いくつか明かりがみえた。残っていた酎ハイを飲み干し港へ向かった。迷い込んでいたのは若いハナゴンドウだった。
鯨は助からなかった。男たちは港の外へどうにか向かわせようと陸から音を出したり、水面を棒で叩いたが駄目だった。次に小型ボートで沖の方へ追い立てようとしてみたがそれも上手くいかなかった。ハナゴンドウは停泊している船に丸く突き出た頭部をぶつけると、クキュウと甲高い声をあげた。そこに海を回遊する豪壮な姿はなかった。警官や市役所の担当者は到着しても野次馬たちを制止するか、斜路に座礁したハナゴンドウに男たちと一緒に海水をかけてやるくらいしかできなかった。そして水族館の職員が着いたころには鯨の声はすっかり弱々しいものへと変わり、職員の一人が「もう駄目だな」とこぼすと、ほどなくおとなしくなった。
鯨を助ける際に脱いだサンダルは物珍しさに集まった雑踏に巻き込まれ、海から上がるとなくなっていた。店まで大した距離ではなかったし、男は裸足のまま戻っていた。

夜明け前なら車も通らないだろうと、男は道の真ん中へ飛び出した。中途半端に乾いた服からはまだ海水が滴っていた。一晩中動いたせいで身体は疲れきっている。
道路の中央線に沿ってまっすぐ歩いていると足裏に痛みが走った。小さな石を踏んでいた。皮膚に痣のようなものはできたが血は出ていない。
アスファルトの両脇には荒涼とした砂地が広がっている。放った小石はタンタンと荒地を飛び跳ね、苔玉のように身を寄せ合う雑草の茂みへ消えた。
腕時計のアラームが鳴る。午前のツアーに向けて起きなければいけない時間だった。結局、ウエットスーツは洗濯途中のままだ。送迎車の清掃やツアーリストの準備、提携しているホテルへの連絡もまだだった。アラームを止めて歩く速度を上げる。すると港から返す潮風が男の背中をさすった。夜が明ける。次第に桃の薄皮のような空色が目の前へ広がっていった。まっすぐな一本道がはっきりと現れる。だが道のりは遠い。何もかも小さく感じる朝だった。【了】

まとめ

単純に順番を入れ替えただけなので、所々表現やつながりでおかしいところはあるが、全体としてスッキリしたような印象はある。
今回の課題に取り組むにあたり、最初に浮かんだのが「鯨は助からなかった」の一文だった。そこから何故助からなかったのか、鯨に男はどう関係しているのかなど過去を考えていき、そこから今(お題の写真)がどうなっているのかを書いていった。ただ、私のようにあまり文章のうまくない者はまず時系列に書いて、それを分解して並び換えていく方が伝わりやすいのだろうと思った。

そして、何よりそもそも今回の課題は描写のトレーニングだったので物語性は主軸ではなかった。語彙や表現など1000字で描写しきることに自分自身が耐えきれなかった部分も含め、今後の課題だった。

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岸辺
作家/沖縄出身/ゲンロンSF創作講座。「プロフィール」欄にnote内での作品をリスト化していますので、ご覧ください!