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ローカルツーリズムマガジン刊行にあたって

ローカルツーリズム株式会社代表の糀屋総一朗です。今回、この「ローカルツーリズムマガジン」刊行にあたり、なぜ私が地域事業に取り組んでいくのかの思いをお伝えしたいと思います。

「ローカルエリート」が未来の変革者になる時代

ひょんなことから福岡県宗像市にある離島・大島に宿泊施設「MINAWA」をつくり、島で悪さをするイノシシをペットフードにするなど、事業をはじめて気づけばもう2年がたちました。その間に私自身は鎌倉から福岡に移住し、新しい家族との生活をはじめ、この2年は人生の大きな転換点となりました。

地域での事業に携わった2年の、長くはない時間。この間、社会的に老化していく地方の衰退のリアルを目の当たりにし、山積みされた課題に何度も愕然とさせられました。しかし同時に都市にはない、地方がもつ広大な可能性にも気づかされ、私は43歳にして地域事業にすべてのリソースを傾け、フルコミットすることを決意しました。

その過程で、地域に暮らす人々は、自分たちが住む地域の可能性をまったくといっていいほどわかっていないし、地域がもつ素晴らしい可能性や価値にまったく魅力を感じていないと気づいたのです。地域住民は何十年とその土地に暮らしているので、都市生活者が魅力を感じる大自然や郷土料理、文化伝統がいつも身近にあるため、それを「当たり前」のものととらえているのです。

「地方消滅」という衝撃的な言葉が語られるほどまでに、地域が衰退している状況の原因は何だろうか? もちろん、産業構造と人口構造の変化によるところは大きいのですが、同時に地域住民がシビックプライド(郷土への誇り)の醸成や、地域産業を活性化させるような人への教育をしてこなかったことが大きいのではないかと考えます。その背景には、地域の人が地域の魅力に気づけていないという大きな問題があります。

少子化と高齢化が同時並行で加速する日本において、地域産業を作り出す人たちがいなくなることは、地域の魅力を消滅させて、ひいては日本の魅力を失うことに直結します。日本の魅力の多くは地方のもつ魅力なのですから。

そういった観点から、これからの日本に必要な人材は、これは私の造語になるのですが「ローカルエリート」だと考えます。

ローカルエリートは、従来の偏差値主義のエリートのように正解のある問いを効率的に解くことに長けた人ではありません(もちろんそうした能力に長けていてもいいわけですが)。まさに逆で、地域の衰退という、解があるかわからない難問に対して仮説をたて、身銭をきって地域に投資し、地域の衰退をくい止めるきっかけをつくり、外と内をつなぐことで今までになかった価値観を地域に取り込み魅力的な産業を興せる高度人材です。

90年代からの人口オーナス(負担)期に突入した「老化する日本」において、地域で活躍するエリート人材を育てていかないかぎり、地域の産業は痩せ細り、地域の衰退は加速度的に進んでいくでしょう。

アメリカに次のような言葉があるそうです。

悲観的な人間は『風が出てきた』と嘆き、
楽観的な人間は風が止むのを待つ。
しかし、現実的な人間は帆を調整するのだ。

まさしく日本の地方のありようを示しているように見えませんか?

地方で暮らす人々は、「地元には魅力のあるものなんて何もない」と嘆き、せっかくの価値あるものを眠らせたままにしています。高齢化が加速し、新しいことを考え行動する人がいなくなり、誰かがなんとかしてくれるだろうという楽観主義(いや、これは傍観主義ですね)に陥っている。

これから地方に必要なのは、みずから帆を動かし、一緒に帆を動かす人を地域に呼び込める「現実主義者」ではないでしょうか?

岩手のオガールプラザの岡崎さんが渋沢栄一の「論語と算盤」をもじり、「片手にそろばん、片手に志」と言っています。お金の話もできて、情熱をもった変革者たるローカルエリートがさまざまな地域に必要なのではないでしょうか。

ローカルツーリズムマガジンは「地方創生のレシピ集」

ローカルツーリズムマガジンは、地域創生に関わる人たちに向けたメディアです。様々な地域で活躍するローカルエリートの先人達の取材や対談を通して、その想いや地域のリアルを伝えていきます。また、「現実主義者」が帆を動かすときに強い支えとなる実践的で具体的なナレッジも発信していきます。

もちろん、このメディアが地方創生をするための解答を提示することは不可能でしょう。地域ごとに風土が違いますし、制約条件も違うのですから、地域創生にただひとつの解決策などありえません。他の地域で成功している事例をそのままパクって真似をすれば成功するかといえば、そんな安易なやり方でうまくいくとは思えません。

でも、たとえば料理レシピ集は実際に料理をつくる際にはとても役立つものではないでしょうか? レシピ集は、料理の方向性や指針であって、絶対にレシピ通りにつくらないといけないわけでありません。レシピ集を参考にして、料理をする人が住む土地やその人の好みに応じて自由に、地元の野菜を加えてみたり、好みのスパイスを入れたり、地元の窯元の器で料理を彩ったりしてもいいわけです。

地域創生についても、そのようなレシピ集があったら意外と利用価値があるのではないでしょうか。レシピ集を参考にして、各地域の風土にあわせてカスタマイズし新しいレシピをつくり、地域の事業をより価値の高いものにしていく。

ローカルツーリズムマガジンが、すでに地域で活躍する人たちや、これから地域で事業を興したいという人たちにとって、それぞれの地域らしい新しいレシピをつくるインスピレーションを与える存在になってくれたらと願ってやみません。

ローカルツーリズムマガジン創刊者 糀屋総一朗

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