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地方が復活する「魔法の杖」はないから泥臭く続ける 木下斉×糀屋総一朗対談(下)

ローカルツーリズム代表の糀屋総一朗がさまざまな方をお迎えして語り合う対談、第1弾はエリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下斉(きのした・ひとし)さん。対談の後編はまちづくりや地域創生に携わる上で持つべき考え方についてです。

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地域にあったファイナンスが必要

糀屋:ファイナンスも含めた組織体、事業の地域、仕組みの作り方。お金が地域に循環するのには、どういう仕組を作ればいいかを考えていかなきゃいけないと思ってます。地域地域でフィットするファイナンスの方向性ってあると思うんですよ。

木下:町の事業の難しいところは、いいときはいいけどその後落ちる、というところですね。最初頑張っていいものを作っても、地元側に運営能力がなかったりして、続かない。山谷あるところを越えていかないといけないっていうのがありますね。そういう意味では、ちゃんと計画を形にし、変化をも作り出せる運営力こそ要でもあります。

同時に、資金調達面では伝統的に地場企業が金融機関融資によって資金調達をして、エクイティ政策や事業売却などのエグジット戦略などを意識するような選択肢を最初から考えていないところも多いです。せっかく良い運営をやっている地域でも、資金調達を行い、事業実績をもとにして創業チームの資産価値を作り出す構造などができていないということも少なくありません。

ーー資金、オペレーションの両輪が必要ということなんですね。

内と外、絶妙なバランスの落とし所を考える

木下:事業がうまくいっているときにも、地域の中で必ず内紛が起きてくるんです。うまくいかなくても揉めるのですが、いいときも危険(笑)。「あいつが成功するのは許せない」みたいな、成功してる人を引きずり降ろそうとする勢力が出てくる。そういう人たちが出てくると物事がまたおかしくなってきます。

私も若い頃にそのような経験を多数したこともあり、複数の地域で関わり合いつつ、山谷を相互に支え合うような仕組みも必要なんだろうなと思ってます。アメリカでは複数地域が連帯して、上位団体が網羅的にサポートするという取り組みもあるんですよ。地元の力学に任せていたら失敗してしまうところを他の団体がカバーする。それもあって、私も今から13年ほど前にエリア・イノベーション・アライアンスという団体を発足して、稼ぐまちづくりをしている地域の連携や、情報配信、研修事業などを行うようになりました。

とはいえ、もう10年以上やってきているので、初期メンバーは私も含めてみんな年をとってきています。だから次なる世代、仕掛けにシフトしていこうと思っています。人間の人生って短すぎるんですよ(笑)。ある程度強制的にバトンタッチしていく仕組みも必要だと思います。「この人がやっているから」と属人的になってしまうと、いろんなことが変えにくくなるので。

――都市部よりも地方でこういった問題が起こっているのは、どういった要因があると思われますか?

木下:まぁ本来はは地方も都市も関係ないのですが、単純に人口の少ない、多いというのはあると思います。地域ってほとんど全員の顔が見えている状態で、具体的な問題が見えまくるので、露骨な問題に発展しやすいんですよね。匿名性がないから。地元ゴシップがエンタメみたいなところもあるので。それが繰り返されていくと、事業にも少なからず影響が出てきます。都市部は人口が多いので、そもそも全部の把握なんて不可能だし、まぁ問題が起きたらその集まりから離れて、別の集まりに所属していけば良い。そういう意味で問題がライトに解決するのはあると思います。

濃縮された地域コミュニティの中でやる気のある人やプロジェクトが、地元の足を引っ張るような罠にかからないように、先回りして仕掛けていく。これをできるだけ上の人が配慮することが大切になります。やはり動いている地域は、首長など政治家のトップも、地元の組織の高齢の方々も、比較的寛容性があり、柔軟性がある方が多く、よそ者を適切にリスペクトされます。だから外からの人も地元をちゃんとリスペクトできる。どっちがどっちというよりは、互いに信頼してやっていける仕掛けが重要だと思っています。

糀屋:MINAWAをやるだけでも、地元の人との協力、お互いのリスペクトが必要だというのはひしひしと感じますね。

問題解決の「魔法の杖」なんてない

木下:事業については、ある程度中長期でみていった方がいいですよね。いいときだけ売って、だめになったら切り離す方法は一番儲かるとは思いますが、結局地域の事業としてはあんまり長持ちしない。地域という議論は50年、100年の計というのが基本ですからね。ちゃんと短期的にもしっかり事業として成立するけど、中長期でどんどん価値が高まっていくような仕掛けを意識していかないといけないんですよね。

そういう意味では、本当に今成果が出ている地域というのは、50年、100年前の仕掛けが大変花開いている。私も拙著「福岡市が地方最強都市になった理由」で分析している福岡市とかもまさに、今やもう亡くなられている100年前、50年前の人々の挑戦が今、大きな成果につながっていたりします。

糀屋:ほんと、中長期の視点重要だよね。

木下:よく「HPを新しくすれば」とか「この建物を建てれば」みたいに地域の人は期待したりしますけど、なにか一つのことを一発やれば地域再生になる、みたいなそんな魔法の杖みたいなもの、ないですからね。

そういった中長期の視点を持った上で、地元で事業を回していくという部分のキャパシティ・ビルディングは重要です。オペレーションの部分もしっかり設計していかないと。地味なことですが、それがとても大切。

糀屋:限られた人材の中でやろうとするから、事業もなかなかまわらないし、エネルギーも使うんですよね。僕が関わっている事業の中でも、主にオペレーションを担ってくれている人と、投資家である僕の方向性が一致しない、ということもある。でも地方は代わりの人がいないということもあり、その中でもやっていかなきゃいけないから、どこで折り合いをつけるのか。めちゃ大変だし、まだまだ発展途上だなと思ってます。一つだけでもものすごくエネルギー使うし、そこでくじけちゃう人もたくさんいるんだろうなと思う。

「餅は餅屋」と任せられるか

木下:オペレーションの設計については、メリハリも必要ですよね。集客やプライシングはある程度一部の人に集権的に持っていく、ということも重要だと思います。

糀屋:「みんなで決める」ということの弊害にみんなが気づいてほしいですよね。集権的なところとそうじゃないところのメリハリをつけること、ハイブリッドでバランス調整をしていくことをしていかないといけないなと思っています。

木下:みんなで決めない、は大切です。事業はあくまで投資している人、事業に携わる人達で意思決定すべきで、地元の合意形成とかは厳密には必要ないです。まぁ地元で喧嘩する必要はないですが、聞くべき話と聞いてはいけない話があるわけです。

特にマーケット感覚というのは大切で、マーケット感覚を無視して、地元の感覚だけで決めると大抵失敗します。地元が大歓迎していたはずの商品、サービスなのに、実際にやったら誰も買わないなんてことはザラにあります。重要なのは地元合意形成ではなく、顧客のターゲティングであり、そのお客さんがちゃんと喜び、対価を支払ってくれることなのです。マーケットでの対話こそ大切。地元の声の大きい人が納得したからといって事業になるわけでもなく、ましては外からのお客様が納得するわけでもないのです。

10年後に地元が良くなっているからこの値段をつける、という考え方なら問題ないですが、「自分がどう思われるか」しか気にしてない人は、「なんか安く大盤振る舞いしたほうがいい人顔できる」と思って安い値段にしちゃうことがあります。間違ったプライシングは、二度と値上げできないので大変です。高いものを安くすることはできても、安いものを高くするのはほぼ不可能なので要注意です。事業の採算性がつかないものの多くは、プライシングを間違って八方塞がりになっているものばかりです。

糀屋:自分たちのものさしだけでやってたら、どんどんシュリンクしていっちゃう。やっぱり「餅は餅屋」にできるかですよね。

泥臭く、やり続けるしかない

木下:ようやく最近、今までの「地方創生」と違う方向性のものが評価されるようになってきていますが、それをやっている人もUターン、ないしIターンの人が大変多いです。そしてそれらを効果的に引き受け、地域の力に変えることに抵抗のない地元の人達が多くいる地域です。ちゃんと足元経済とともに、都市圏経済、場合によっては海外まで含めたマーケット感覚をもっていくと、地方には可能性ばかりが見えてくることになります。

今まで通りにいかないことはむしろチャンスで、前例にとらわれずに、未来に向けてあるべき姿で挑戦できることでもあります。「地方だから嫌だ」みたいなイメージも昔と比較すればものすごく変わっています。Z世代は都市も地方もフェアに捉えていて、良い地方企業であればネットで調べて、社長のSNSもチェックして、新卒、転職どんどん希望者が出てきています。昔のように都落ちみたいなイメージは全くなくなっています。彼らのほうが柔軟で、学ぶことばかりです。

これからは上の世代ではなく、下の世代にこそ学ぶべきで、そういう思考になれば地方はさらに良くなっていくでしょうね。むしろ都市よりも地方こそ生産力があり、独自性を作りやすく、可能性があるのです。これまでの150年は日本国内では工業、大都市が注目されてきましたが、これから変わっていくと私は確信しています。そこに向けて投資し、事業を作っていき、連帯組織を育てていきたいと思います。

日本国内だけでなく、東アジア全体が少子高齢化に悩んでいるので、自ずと国際的な連携の枠組みになっていきます。私の本も台湾、韓国、中国で翻訳され、様々なフォーラムなどにも呼ばれるようになってきています。20年前には思いもしない変化ですが、これもまたいち早く衰退してきた日本の地方の取り組みが、いよいよ国を超えて参考になっていく時代になったということでもあります。これはとてもおもしろいことです。

糀屋:ほんとそうですよね。いかに今までの考えにとらわれずに、目の前の事象をしっかり見て、地に足ついて泥臭くやっていくか。地域の仕事に関わってほんと、地味で大変で泥臭いことばっかりだなって感じてます。

木下:いろいろと言ってきましたが、宮崎駿さんの名言で「大事なことって、たいてい面倒くさい」という言葉があります。地域での取り組みも同様なんですよね。大事なことほど、地味で、手間がかかって面倒くさいのです。ほとんどが泥臭いことしかないですよね。だけど、それをここ20年以上この分野で向き合ってきたら、ものすごい発展を遂げてきていると実感しています。誰も地域なんて言っていなかったのに、ものすごい数の人達、企業が地方にも関心をもち、国際的な関心にまで発展している。つまりは、全て積み上げでしかないのだと思います。江戸時代に400の農村再生をした二宮尊徳の言葉で「積小為大」という言葉がありますが、何事も大きなものは小さなものを積み上げて成立していることを示しています。

小さな変化でも地域で作り、積み上げていくと、10年、20年するとものすごい違いになっていく。そういう積み上げを諦めないのが大切だと思い、これからも続けていきたいと思っています。

(取材・構成 藤井みさ)


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