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少々効率の悪い熱機関である僕らとか

 はじめての人に軽く自己紹介をする際、音楽が好きで、とよく言ってきた自分であるが今年は新譜を全く聞かなかった。
関西に住んでいたころ、少し歳上の知人が『今のサブカルについていけなくなっている、という感覚を覚えることがあって、ちょっと怖い』とこぼしていたことをふっと思い出す。
熱量をあげてあーだこーだと話し、大事にしていたことが、ものの一年ぐらいで急に失われるって、冷静に考えると結構きつくないですか。
小沢健二が『犬は吠えるがキャラバンは進む』本人筆のライナーノーツで、
 ーまず僕が思っていたのは、熱はどうしても散らばっていってしまう、ということだ。そのことが冷静に見れば少々効率の悪い熱機関である僕らとかその集まりである世の中とどういう関係があって、その中で僕らはどうやって体温を保っていったらいいのか?
と書いている。当時、小沢健二は25歳。再発された同アルバム(改題され『dogs』に)には上記のライナーノーツは付属されていないのだけど、これは、大人になったらなかったことにしたくなるような、青春の気持ちでしょうか。

オノマトペ大臣もこんなツイートしてました。

好きなことが無くなっていっている、という訳ではない(だらだらと書いたが音楽以外のサブカルチャーに時間を割いているだけでは)。
東京は僕にとって、2年住んでもお邪魔させていただいています、という感覚が抜けない街だけれど(今思うと、大阪は自分に本当に丁度いい街だった)、そんな街に住みながら生きた2019年の記録として、好きだったものやことを以下に記します。

・バチェラー・ジャパン シーズン3 (amazon prime video)

恋愛リアリティショーを良く見た一年だった。『あいのり african jouney』『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』、そして『バチェラー・ジャパンシーズン3』。テラスハウスに至ってはよく行くお店で常連たちとの会話が毎週盛り上がるあまり、イベントも開催した。

鑑賞したり話したりするだけでも十分に面白いと思ったのだが、せっかくなのではじめに恋愛リアリティショーについてのパワポを作って『テラスハウスを観る理由』をプレゼンをした。自分が鑑賞しているのは上記3番組ぐらいなのでデータ数が少ないような気もするが、それでも3番組を並べると特性が出てきて面白く考察できた。内容が気になる方は第二回開催時によろしくお願いいたします。プロレス〜格闘技で例えるネタが思いついたのだけど絶対に伝わらないと思って削除した。一応書いておくと新日本プロレスのストロングスタイル=初代あいのり、と考えるというものです。バチェラー・ジャパンは総合格闘技黎明期〜PRIDE。ごちゃごちゃ言わんと誰が一番強いか決めたらええんや。岩間恵さんがヒョードルと言いたいだけです。強さ、強さってバチェラーが何回も言いますし。
 『バチェラー・ジャパン シーズン3』はとにかく語りがい(≒ツッコミ)しかないのが恋愛リアリティショーとして抜群に優れているところ。東京ポッド許可局でマキタスポーツさんが定期的に仰られている「悪性のエンターテイメント」の一例だと思います。ただ、ツッコミとか軽い怒り以上の感情が湧き上がって来る瞬間もあって、EP7、ウェディングドレス姿の岩間恵さんとのプールサイドでのデートにて、
『いやでも無茶苦茶なノリに対しても結構ついてきてくれるんかな、というのもめっちゃ気になってて』
『無茶苦茶なノリ?』  
『うん』
『うーん。わからん』
『じゃあ試してみるわ』
という会話の後に急にプールに飛び込み『おいでよ』というバチェラー、そして焦りながらも飛び込む岩間恵さん、プールから上がった後にバチェラーが自分のブカブカのワイシャツに着替えさせる、という一連のシーンは「あは!」と変な声をあげて笑った後、『何を見せられているのだろう』という不思議な気持ちになりました。岩間恵さんは山梨の人らしいのだが、バチェラーとの会話では時々、関西弁ニュアンスになるところもすごいです。

・「拝啓 長濱ねる様」
 大森靖子の長濱ねるへのラブレター(『月刊エンタメ』連載「もはや!絶対彼女」第一回)

 大森靖子のことはメジャー1st『絶対彼女』の時からずっと好きなのだけれど、この文章は本当に良かった。
ー欅坂46というグループは、この問題児的な感情を拡張して表現している部分があり、メンバーが秋元康さんにインスピレーションを与え、そうして完成した楽曲もまた若いメンバーの心に影響を与え、禍々しくも美しい、DOPEなアイドルを作り上げた。それは私の理想にも少し似ていて、なおかつ私の活動より途方もなく大規模で、幾つの孤独を肯定しているのだろうと羨ましくもなり、「私の活動って意味あんのかな?」まで思った
と欅坂に対する思いを綴った後、長濱ねるについて
ー頑張ってることがダサい、という今の若者の風潮がある。「アイツやってんな〜」と自分を過剰に魅せる人を嘲笑する。ねるちゃんは、“頑張ってる”をあたりまえにこなすことによって、その今っぽい風潮の中ですら、頑張ってる感なく死ぬほど頑張り続けたメンバーだ。
と語る。
かつて大森さんが好きなアイドル像について「サイボーグ型の人が好き」と言っていたことがある。道重さゆみさんを敬愛する大森さんだから、言わんとしてるニュアンスはすぐに理解できるが、長濱ねるさんについては僕も「自然体で上手くやれる人なんだろうな」という印象を持っていた(1sr写真集「ここから」のあとがきに媚びていると見られるのが嫌だったということを本人が記しているらしいが)。
僕みたいな野暮天が視ると、自然体のかわいさの人でも、大森さんが視ると頑張ってる感なく死ぬほど頑張り続けた人に観えるのだ。

・自動車が左側通行といつ知ったか?
(後輩のテラダくん)

 今年は大学の後輩のテラダくんとよくツイキャスライブをやった。ラジオなど、人が話している音声をひたすらに聞いた年でもあったので(おすすめポッドキャストなどは後述)、その真似事みたいなことをしたかったんでしょう。テラダくんは兵庫県明石市出身、僕より3歳年下で、ドラゴンボールとかスラムダンクとかいわゆる「ジャンプ漫画」を読んだことがなく、母が筋肉少女帯のファンという男だ。今年のツイキャスにて彼が残した名言はたくさんあるのだけど、一番印象的だったのは、18歳になり、自動車教習所に通ってはじめて自動車が左側通行と知ったという話だ。これは自分の友人が自動車教習所の場内での走行中にて右車線を数回走行、講師に怒られたことから自動車が左側通行だと知った、という話を面白話としてしたところ、テラダくんが「自分も全く同じことをしました」と告白したことから始まった。僕にいじられまくったテラダくんは「学校で教えられていないことを常識と言わないで欲しい」「常識と考えることの恐ろしさを考えたほうがいい」などと真っ当なようなことを主張していた。ちなみに僕は6歳ぐらいには自動車が左側通行ということを認識していたと思うのですが、みなさんはどうですか(僕が少数派だった場合謝ります)。

・TVODの焼け跡ラジオ 
 TVOD(コメカ+パンス)、姫乃たま、高岡洋詞

百万年書房Live(http://live.millionyearsbookstore.com)
にて、「ポスト・サブカル 焼け跡派」という連載が行われていた(現在は公開終了になっており読むことができない)。こちらの連載を元にまとまった本が今月1月31日に発売(https://www.amazon.co.jp/dp/4910053123/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_0WudEbVHFGJSY)
ということで紹介文を引用すると、
ーTVODは1984年生まれの男性ふたりで構成されたユニットである。僕らはバブル景気に沸く80年代後半に幼少期を送り、連続幼女誘拐殺人事件、阪神大震災、地下鉄サリン事件、神戸連続児童殺傷事件と社会不安が続いた90年代に少年期を過ごし、アメリカ同時多発テロ事件と続くイラク戦争をテレビ画面の向こうに眺めながらゼロ年代に青年になった。20世紀にギリギリ間に合ってしまったせいで、旧時代の価値観を抱えながら21世紀を生きることになった最後の世代が、僕らの世代なのではないかと思う。(中略)本書で僕たちTVODは、20世紀にギリギリ間に合ってしまった世代なりの視点で70年代以降の日本のポップミュージックの軌跡を辿り、現在に至るまでのひとつの文化的精神史を描くことを試みた。
この紹介文で面白そう、と感じた人は間違いなく面白い内容(記憶が定かでないのですが大塚英志『おたくの精神史』《名著!》で語られていないことを語る、というような記述があったはず、違ったらすみません)。
それぞれの時代(10年ごとのディケイドで区切っていないところもいい)において、人物に焦点を当てることで語っていくというスタイルなのだがこの人選が素晴らしい。1973-1978年は「矢沢永吉、沢田研二、坂本龍一」、1979-1988年は「ビートたけし、戸川純、江戸アケミ」。
個人的にいわゆる『はっぴいえんど史観』はもう飽き飽きするほど語られているし、偽史でもあると思っているので、こうした語り口が出てくるのは大歓迎!ということでTVODには大注目しておりました。
 そして始まったのがこの『TVODの焼け跡ラジオ』。TVODに元地下アイドル・ライターの姫乃たまさんと、フリー編集者・ライターの高岡洋詞さんを加えたこのポッドキャストは毎回ざっくりとしたテーマ(エモについて、主体性について、共感について等)を設定して1時間程度語っていく番組。上記の「ポスト・サブカル 焼け跡派」の連載よりも小さな日常に根ざした疑問や考えていることを言語化、議論していこう、という内容でより自分好みな味わい。ラジオというのは話している人間のパーソナリティがある程度わかったりしていないと楽しめなかったりするのだけれど(僕は姫乃たまさん以外のお三方は不勉強ながら全く知らなかったです)、毎度テーマに沿って会話が流れていくので非常に聴きやすいつくりです。それぞれ世代の違う4人がテーマについて、ゆるやかにスイングしたりしなかったりする様子がとても面白く、今年ベストラジオとさせていただきます。特におすすめなのは(#002エモについて前編〜#003エモについて後編)。まだ8回ほどしか配信されていないので是非第1回からお聞きいただきたいです。
 先日国分寺に遊びにいくことがあって、TVODコメカ氏のお店、早春書店を訪れた。とても良い古書店でコメカ氏ももちろん店頭に立っておられたのだけど、いきなり成人男性から『ポッドキャスト聴いてます』って言われると怖いだろうなと思ってそそくさと本を購入して退店してしまった。自意識過剰だ。


・POP LIFE: The Podcast
三原勇希×田中宗一郎

#017 『どこからマンガの話をしよう?』〜#019『マンガを語る言葉をみつけていこう』

田中宗一郎氏のベストワークだと思う。
僕(91年生まれ)は熱心なスヌーザー読者というわけではなかったが、10代の時に読んだスヌーザーのいくつかの特集号やsnoozer presents『The Essential Disc Guide 2004』にはお世話になったという気持ちがある(あとclub snoozerも何度か行ってます)。
ただ、タナソウさんが露悪的に振る舞う時の文章(≒かまし)があんまり好きになれないな、と思うことがあったりしたのも事実。
しかし、このPOP LIFE: The Podcastは三原勇希さんとゲストとの雑談という形なので、「カルチャーに詳しいおじさんの話」をいい感じに聞けます。
2010年代を語った本『2010s』を共著した宇野維正氏との回などもいいのですが、タナソウ氏が現在追えていない、という漫画カルチャーの回(ゲスト:シャムキャッツ夏目くん、西村ツチカさん)が最も面白かったです。ちばあきお『プレイボール』の見開きとコマ割りをミニマルテクノのDJに例えるとこは最高。読んでいた漫画に『GALS!』『NANA』などの矢沢あい作品を挙げる三原さんに強烈な同世代感を感じました。男子だったけど僕は『GALS!』も矢沢あいも読んでました。
アーカイブから最新回までずっと聞いていると三原さんがタナソウさんの扱い方をわかっていくという過程も楽しめます。

・アニメ『どろろ』
第五話「守り子唄の巻・上」 第六話「守り子唄の巻・下」

https://youtu.be/KzH1KYSU8dg

最後に映像作品も。
アニメは全然見なくなってしまったのだけど、久しぶりに真面目に視聴しようと思い『どろろ』は見ていました。が、この第5話〜第6話視聴後、凄いものを見たというショックからかこれ以上はないだろう、という気持ちからか7話をほどほどに見て視聴をやめてしまった(いまだに完走していません)。第6話をみたときにこれは『追憶編や、るろ剣の追憶編やぁ〜』と思ったのですが、監督がまさしく同じ方みたいですね。
そうこうしていたら実写版るろ剣も追憶編のエピソードが入った最終章を上映するそうな。観てもないのに言うのはよくないけど、『守り子唄の巻』は超えられないだろうなと思う。


記事執筆、ポッドキャスト収録に関わる参考資料の購入などに充てさせていただきます。