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アウトドアを通じてスノーピークが提唱する本物の“ライフスタイル提案”

L&G Global Businessは、ホテルを通じて「新たな選択肢」を提案することを目指しています。ホテルというメディアを通じて、人々の生活が少しでも豊かになるような新しい選択肢に出合えるという“ライフスタイル提案”をしたいと考えています。

新しい選択肢を提案するという本当の意味での“ライフスタイル提案”を早くから実現してきた憧れの企業にアウトドアブランドの「スノーピーク(Snow Peak)」があります。「スノーピーク」はアウトドアを軸にアパレルやホテル、オフィス事業など、生活の中におけるライフスタイルの可能性を提案し続けている企業です。これまでの、そしてこれからの“ライフスタイル提案”の可能性と必要性について、「スノーピーク」副社長の山井梨沙さんに話を聞きました。

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山井梨沙/スノーピーク 代表取締役副社長 CDO。スノーピーク創立者の祖父・幸雄氏と現社長の父・太氏を持つ3世代目。幼いころから当たり前のようにキャンプや釣りなどのアウトドアに触れて育ち、ないものは自分で作るDIY精神を植え付けられてきた。ファッション業界を経て2012年にスノーピークへ入社。2014年秋冬にアパレル事業を立ち上げた。現在は副社長としてスノーピークの国内事業を取り仕切りながら、2020年には新たなアパレルブランド「YAMAI(ヤマイ)」をスタートする。

ファッションという山井梨沙の原点

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新潟の燕三条にある「スノーピーク」本社と広大なキャンプ場

龍崎:私たちは「選択肢の多様性のある社会」を作ることを目指してホテル事業を展開しているのですが、アウトドアを軸にいろんな価値提供をしてこられた「スノーピーク」にはとても感銘を受けています。

山井:ありがとうございます。私が「スノーピーク」を通じて次世代に残したいのは“本質的な豊かさ”です。豊かさの中心にあるのは、人と、人から得られる体験価値だと思います。今の世の中には豊かさの定義が一択二択くらいしかありません。だから、多様な豊かさを生み出すというホテルの考え方にはすごく共感しています。

龍崎:そう言っていただけて、とても嬉しいです。アウトドアのイメージが強い「スノーピーク」でアパレル事業を始めるなど、山井さんは衣食住全てにとても関心を持たれている印象です。

山井:私が今の仕事を続けているのは、ファッション業界での失敗体験が根っこにあるんです。もともとファッションが好きで、東京のファッションブランドで働いてきて、将来的には自分のブランドを持つことが夢でした。だけど、今のファッション業界が人の生活を豊かにできるかと考えると、まったくかけ離れていて、すごくショックを受けました。ファッションが好きだからこそ、このままじゃいけないと思って、今やりたいこと、できることを考えた時に、それを叶えられるのが「スノーピーク」という企業だったんです。それで24歳の時に入社をしました。

龍崎:後を継ぐために入社したわけではないんですね。

山井:自分の意思でした。むしろ、大変だから継がないほうがいいと言われて、のびのびと育てられましたから(笑)。自分にやりたいことがあって、それを叶えてくれる原動力がここにあって、現在は副社長として関わらせていただいているわけですが、自分が経営者としてこの会社で働くなんて10年前には想像もしていなかったです。

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2020年にスタートするブランド「YAMAI

龍崎:だからこそ「スノーピーク」でやっているアパレル事業に強い思い入れがあるわけですね。原体験のようなものはあったんでしょうか。

山井:2011年に新潟の本社にキャンプ場ができて、ファッション業界の友人たちと遊びに行こうということになりました。自分としては慣れ親しんだキャンプでしたが、東京へ出て久しぶりのキャンプだったんです。それでいざ準備をしようと思った時に、キャンプに来ていく服が見つからなかったんです。アウトドア業界では男性的でテクニカルな、ファッション感覚のないアパレルがほどんどで、もしかしたら服が壁になってアウトドアにチャレンジできていない人がたくさんいるんじゃないかと感じました。だから、日常でも着られて、アウトドアでも使える服が作りたいというのが入社のきっかけになりました。

龍崎:2020年には「YAMAI」というブランドを始めます。ここにはどんな思いがありますか?

山井:「スノーピーク」のアパレルはファッション好きな男性に気に入られることが多くて、アウトドアベースの洋服を作ってきたのですが、ウィメンズ市場においてはいまだに「ラグジュアリー=ハイファッション」という価値観が強いと感じています。ハイファッションからすれば、アウトドアは下に見られがちで、それが悔しかったし、メンズは頑張ったので、同じように新しい価値観を女性にも提案したいと思って新しいブランドを立ち上げることにしたんです。

「自然の中で人の本来あるべき姿を取り戻すこと」

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龍崎:「スノーピーク」のあらゆる事業でも、これから展開する「YAMAI」でも、根底にはアウトドアの思想があると思うのですが、アウトドアにはどんな可能性があるんでしょうか。

山井:まず、前提として、文明社会の中で日々私たちは情報に支配されています。IT化が進み、自分の感覚に頼らなくても、人とのコミュニケーションがなくても、生活できる世の中になってしまっています。この今の状況が普通じゃないと思うんですよ。かつては自然に身を置いて暮らしている中で、雪が降るとなるとその支度をするとか、日々自然のなかで先を見て考えることが当たり前でした。現代はそれをやらなくてもいい時代になってしまいました。

龍崎:「スノーピーク」は“野生”というキーワードを提唱していますよね。

山井:そうなんです。キャンプを通じて自然の中で人を本来あるべき姿に戻し、人と人をつなげること。それがわれわれのミッションです。それは、超原始的な営みそのものです。まず、自然に入って自分の寝床を作り、食料を調達して、火を囲んで食事をする。それによって野生や人間性を取り戻せると考えています。

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観音崎京急ホテルにできたグランピング施設

龍崎:ホテルという軸で言えば、観音崎京急ホテルにグランピング施設を作られました。あそこではホテルとキャンプのどちらでもない新しい価値観を提案したと思います。

山井:あれも洋服の話と一緒で、寝袋で寝るのが嫌でキャンプを諦めている人がいるんじゃないかという発想が原点にありました。だったらホテル的なしつらえで、キャンプとは異なるサービスながらも、海が一望できる自然の中に身をおいて、焚き火をして、本来あるべき人の姿に戻るハードルを少しでも下げらたらいいなと。

龍崎:「スノーピーク」がやっている事業は全て“人が自然にかえりやすくするための手段”なんだと感じます。私たちはライフスタイル提案ができる“メディアとしてのホテル”を掲げていますが、たくさんの新しい価値観を提案し続けるという点で、これはすごく発散的だと思っています。一方で、「スノーピーク」は幅広い事業をやりながらも、全てが同じ収束点に向かっている。それが「スノーピーク」の強みなんだと思いました。

山井:ほんとうにキャンプって最強なんですよ。キャンプは都会でもできるし、衣食住すべてが含まれるわけですから。

ホテルとキャンプ、住空間の境界線

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キャンプイベント「Snow Peak Way 2019 in 十勝」の様子

龍崎:都会の話がありましたが、ここ最近、一定の場所に定住することなく生活できる人が増えてきて、ホテルと住環境の境界が曖昧になっていると感じています。

山井:そうですね。私自身も1年のうち200日くらいは家じゃないところで過ごしています。2カ月くらいは海外にいますし、もしも年会費を払っていろんな土地に住むことができるサービスがあれば、使いたいですよね。もちろん、味気ないホテルではなくて、その土地で出会える選択肢とホテルを通じて出会いたいわけですが。

龍崎:ホテルって一般的にはホストとゲストの関係性が明確に分かれていると思われがちですが、私は家じゃない場所で泊まることができるのなら、それはホテルの本質だと思っていて、キャンプもホテルの一つの形だと思っています。

山井:たしかに、ホテルではホスピタリティとかサービスとか、お客さまとの関係性が生まれがちですよね。「スノーピーク」ではSnow Peak Wayというキャンプイベントを年間30回以上やっていて、毎回300人ほどのユーザーさんが来てくれるのですが、そこでは私や社長を含めて全員が同じ一人の人間として接することができる。優越がなくて、言いたいことも言える。それは完全に自然の力だなと思います。

龍崎:テントを使ったオフィス事業もされていますが、会議室でやる仕事とは違って、本質的な話ができそうですもんね(笑)。だけど、自然の定義は難しいですね。たとえば、ここにある明治神宮は自然に見えるけれども、都会だとも言える。自然には摩訶不思議な力がありますが、自然の線引きってどこにあるんでしょうか。

山井:それは、自分次第という部分もありますよね。たしかに明治神宮でも東京だからとと肩肘張っちゃう人もいるでしょうし。キャンプは、その切り替えのスイッチが入れやすい場所なのかもしれないですね。

地方活性化のためにできること

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龍崎:私たちは北海道の層雲峡という場所でホテルを運営しています。この街ではローカル・スタディツアーようなイベントをたくさん行っているのですが、「スノーピーク」も地方活性化のための取り組みをたくさんされています。ここにはどのような目的がありますか。

山井:私たちの本社がある新潟の燕三条は金属加工業が盛んな地域です。もともと創業者でもある祖父が金物の問屋業をやっていて、自分が好きだったアウトドア用品を地場の職人さんと作り始めたのがブランドのスタートです。祖父が登山用品、父はキャンプ用品、私がアパレル事業というふうに3世代にわたっていくつかのジャンルにおいて、産業のプラットフォームとして地元の技術を世界に発信し続けてきました。おかげさまで、その実績からうちの地域でもやってほしいというお声をいただくようになり、お手伝いをさせてもらう機会が増えてきたんです。

龍崎:地方の産業を活性化する「LOCAL WEAR」事業もありますね。

山井:あれは完全に私の自発的な企画です(笑)。自然資源の活用は自治体が問題意識を持って取り組むことが多いのですが、洋服産業に関しては、産業が衰退し続けているのに誰も手を打たなかった。それをなんとか知ってもらって、次のアクションを増やす人が増えてほしいと思ったんです。

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佐渡のものづくりを生かした「LOCAL WEAR SADO」

山井:少し話が戻ってしまうのですが、昨年の夏に文化人類学者の先生に「なぜ人はキャンプをするのか」という話を聞きに行きまして。先生いわく、文明が発達して人間性が衰えてしまった理由の一つが、農耕民族になったからだというんです。農業革命によって自分の家の前の畑を耕すという定住生活が始まったわけで、それより前の時代には人間は狩りをしながら移住をしていたらしいんです。その歴史の方が長くて、本来人間は定住よりも移住の方が性に合っているんじゃないかという話でした。

龍崎:たしかに、季節ごとに移住するような生活があってもいいですよね。

山井:そうすれば地方も盛り上がりますからね。あと、そろそろ東京に人が住みすぎていることに気がつかないいけないと思うんですよね。一方では、地方から人がいなくなって工場も農業も潰れて伝統産業がなくなってきている。もしかしたら仕事とかインフラとかの整備ができていないことがその理由かもしれませんが、自然のなかに身を置いて生きることが人間の価値なんだよということは、これからもいろんな手段を使って送り続けたいと思っています。

龍崎:層雲峡のホテルをやっていると「ここには何もないよ」と言われるのですが、それって消費者目線でしかないなと。一方的な消費者ではなく、自給自足的な価値観を持つことで、その街にどんな魅力があるのかを見つけることができると思うんです。だから、層雲峡の支配人には「マタギ(狩猟者)になれ」とずっと伝えているんですが(笑)。

山井:いいですね(笑)。私も新潟の魚を知ったら、東京でお寿司を食べなくなりました。これもやっぱり資本主義経済とビジュアル訴求によって、東京じゃないと食べられないみたいな幻想を抱いているからなんですよね。本来は魚が獲れた場所で食べるのが一番いいはずですからね。なかなか道のりは長いと思うんですが、こうした価値提案は続けなければいけないと思います。

龍崎:そうですね。地方が自分たちの魅力を見出して提案することはすごく難しいと思います。その街のいいところを聞くと十中八九「自然が豊かなところ」と答えるのですが、それは日本中どの地域に行っても同じことで、もっと明確な方向性を見出さなければいけない。ホテルはその発信のためのいい媒体になれると思っています。

本物のライフスタイル提案とは?

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龍崎:今回のテーマでもありますが、“ライフスタイル提案”という言葉があります。私たちが「HOTEL SHE,」を通じて提案している“アナログカルチャーのある暮らし”ってファッション的というか、生活の中においてはそれほど大きな役割を担えていないと感じています。最近は産後ケア施設みたいな、本当の意味で泊まった方のライフスタイルを変えられるようなホテルをやりたいと思っています。老人ホームなんかもそうですね。地方の仕事創出にもつながるし、より本質的な“ライフスタイル提案”をホテルや住空間を通じてやりたいんです。

山井:すごくわかります。病院とか老人ホームって、どうしてあんなに閉鎖的なんだろうって。あんなところにずっといるの絶対に嫌じゃないですか。

龍崎:「スノーピーク」で病院やらないんですか?

山井:昔からいるお客さまの年齢層が上がってきて、それこそ“キャンプ葬”してほしいっていう声が増えてきたんですよね(笑)。だけど、それより前に老人ホームいいなって思いました。

龍崎:療養のために軽井沢に行くような感覚で、自然の中で人間らしさを取り戻すための施設こそ「スノーピーク」がやる意味がありそうですよね。

山井:老人ホーム一緒にやりましょうよ。あと、私は学校教育が大嫌いで、小学校も苦手だったんです。教育に関しても本質的な価値提案をしたいなって思っています。

龍崎:是非やりたいです!私も教育やりたくて。「スノーピーク」の幼稚園があったら絶対子どもを入れたいです。

山井:実は教育は少しずつ準備し始めているんですけどね。サマースクールもやりたいですし。最初からキャンプ道具一式をそろえるのはかなりガッツのある家族だけだと思うんです。だから、こういう機会を通じて自然の良さに気がついて、家族全員がキャンプを好きになるとか、自然の中で子どもの成長が見られるとか、そういった相乗効果も生めたらいいなって思っています。

龍崎:それが本質的なライフスタイル提案ですよね。今日はほんとうにありがとうございました。まずはサマーキャンプしかしたことがない私もキャンプに行ってみようと思いました(笑)。

山井:ぜひ次回は新潟に来てください。アテンドしますから(笑)。


対談を終えてーー
スノーピークの見せるビジョンは簡潔でした。野生に還って、人間性を取り戻す。そのために関わる人々が、自身のアプローチでブランドを拡張していく。原点に収束する強いビジョンがあるからこそ、スノーピークのライフスタイル提案はここまで広く受け入れられ、人々の生活に根を張っていくのだろうと感じました。

(文:角田貴広、対談写真:小野瑞希、提供写真:SNOWPEAK)


【過去の対談一覧】


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