『BGM』をつくる旅──東北フィールドワークレポート〈4〉
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『BGM』をつくる旅──東北フィールドワークレポート〈4〉

『BGM』のベースとなった(?)2017年5月に行われたロロ主宰・三浦とミュージシャン・江本の旅を記録する東北フィールドワークレポート、第4弾は山形編。何を隠そう、ほぼ山形旅行です。(文&写真・もてスリム)

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翌朝、ほとんど始発の電車に乗って山形に向かう。東京から山形は約2時間半360キロ。到着予定時刻を二人に伝えて眠る。山形は雲ひとつない快晴。駅前まで江本さんと三浦さん、そして原田さんが迎えにきてくれて、原田さんの家に向かう。

どうやら昨日のインスタライブは原田さんの家のリビングから配信されていたらしい。原田さんの家で朝食をご馳走になって出かける準備をしていると、いつの間にか江本さんが色紙にサインを描いている。原田さんのお母さんがサインを飾っておきたいのだという。江本さんが描いた「江本祐介」の隣には三浦さんのサインも描かれている。三浦さんには「三浦直之」という字を崩したサインがあるのだが、江本さんにはサインがないから単に名前を描いているだけだ。その後折角だからと言われ、ぼくも同じ色紙に「もてスリム」と描いておいた。お母さんには申し訳ないが、ぼくの名前があることでこの色紙の価値は暴落するだろう。

今日は半日かけて原田さんが山形を案内してくれることになっている。まず向かったのは旧県庁として知られる山形市文翔館。今日はたまたま文翔館前の広場で錦鯉の品評会が行われているそうで、原田さんがそれを楽しみにしているのだという。この品評会は全日本愛鱗会山形県支部が開催しているもので、年に1度、しかも1日しか行われない、非常にプレミア感の強いイベントだ。早速会場に向かってみるとそこには10個ほどの青いビニールプールが並んでいて、それぞれのプールの中で錦鯉が泳いでいる。来場者はお世辞にも多いとはいえず、子どもを連れた家族や愛鱗会の人々がウロウロしている。どう見ても地味な、というか、地味すぎるイベントなのだが、いざ錦鯉を見てみると面白いもので、それぞれの模様や色合いに目を奪われてしまう。品評会を楽しみにしていた原田さんは「鯉、飼いたいっすね」と言っている。三浦さんも「いいなあ」なんて言っているが、東京のマンションで鯉を飼うのはなかなか難しかろう。

会場に20代の男性がほとんどいなかったからなのか、愛鱗会のおじさんが妙に優しく話しかけてくれて、定期的に刊行している雑誌までプレゼントしてくれる。「若い内から始めておくといいよ」。ぼくらは勧誘されているのだ。「いまは海外でも品評会が盛んに行われてるからね。8年くらい続けたら、海外の品評会に連れていってもらえるから」とおじさんは言う。しかも「錦鯉って大体いくらくらいなんですか?」とか何とかあれこれみんなが尋ねるものだから、おじさんも乗り気になってしまう。余程ぼくらが熱心に鯉を見ていると思われたのか、しまいには品評会の取材に来ていたテレビ局の人々もやってきて、三浦さんにカメラを向けている。「どうでしたか?」「いやあ、いいですね」。鯉に興味津々の青年という感じだ。結局あの映像は本当に放送されたのだろうか……?

文翔館は大正5年につくられた英国式のレンガ造りの建物で、国の重要文化財に指定されているのだという。かつては県庁舎そして県会議事堂として使われていたが、いまでは無料公開され、館内では山形県の歴史や文化を伝える展示が行われている。山形県出身の文豪を紹介するコーナーもあり、そこで阿部和重の名前を見つけた三浦さんは急に興奮しはじめている。「(阿部和重の作品に登場する)神町はここらへんにあるってことか!えー、行きたいなあ」と地図を眺める三浦さん。神町に行くなら、早めに移動せねばならない。

文翔館を出てテクテク歩きながら原田さん思い出の地を巡るツアーが続く。文房具屋、本屋、百貨店──。かつて本屋の中にあったという喫茶店はいまでは学生が自習できるフリースペースになっていた。店員さんがかわいいという理由で連れてこられた和菓子屋の店員さんは確かにかわいい(そこで食べたかき氷も美味しかった)。ぐるりと街を一周し原田さんの家に戻ってくると、今度は車に乗って山寺に向かうことになった。

江本さんの要望で郵便局に寄るために車を停めると、なぜか原田さんが江本さんのギターを引っ張り出して歌い始めた。ついには車を降りて駐車場でギターを弾いている。ぼくは原田さんの素性を全く知らないのだが、とにかくこんな感じで、突然のグルーヴがすごい人なのだ。そこからしばらく車を走らせて山寺の近くに着き、登山口からだいぶ離れた駐車場に車を停める。車の中で少し作業をしてから遅れて3人に元へ向かおうとすると、Instagramで例によって江本さんがインスタライブを始めている。せっせと階段を上っていく3人の姿は面白い。昨晩は360キロ離れたところで見たインスタライブを、いまは数百メートル離れたところから見ている。3人と合流すると、いつの間にか江本さんが笠を買って被っていた。山寺の頂上につく頃にはすっかり疲れてしまって、ろくに何かを祈ったりすることもできない。

遅めの昼食をとって山寺を出ると、意外と時間が過ぎていることに気がつく。夜は会津にいなければいけないし、どうやらホテルの大浴場に入れる時間には制限があるらしい。夕食を食べる時間を考えるとあまり時間が残されていない。しかし三浦さんたっての希望で神町には行ってみたいということで、車は神町に向かった。急げ急げというものの、途中でリサイクルショップを見つけてすぐに寄り道をしてしまうのだからどうしようもない。しかも、貴重な時間を割いて訪れたリサイクルショップはマイルドヤンキーの溜まり場みたいなところで、品揃えは全然よくなかったのであった。神町に到着し阿部和重作品に出てくるというパン屋に向かうがなんと定休日。「マジかー……」。三浦さんはがっかりしている。折角なので神町の駅に向かって記念写真を撮った。神町駅はどこかノスタルジックだ。江本さんは神町駅前でまたマンホールを撮影している。もしかすると今回のフィールドワーク一番の収穫は、江本さんがたくさんのマンホールを撮れたことなのかもしれない。

ホテルのチェックイン期限が迫っているぼくらは急いで会津若松に向かわねばならない。手を振って原田さんと別れ、車は加速する。きちんと計画を決めないまま始まったフィールドワークだったが意外とどうにかなるもので、誰かの記憶を辿るような毎日が続いている。誰かの話を聞きながらその土地を巡るというのは普通のことのようでありながら不思議なことでもあって、薄っすらとお互いの記憶をシェアして混ぜ合わせているような感覚が生まれるのだ。

明日は東北最後の訪問先となる会津若松を朝から回ることになっている。が、そもそもぼくらはきちんとホテルにチェックインできるのだろうか。到着予定時刻を確認し「ギリギリかもね」「急がないと」なんて言いながら車は会津へ近づいていく。「あれ……!この道路の感じ、ここらへんにブックオフあるんじゃない?検索してみようよ」「あ、ありますねこのあたり」「あ!あれだよ!ブックオフあった!」。どうやら会津に着くまではまだまだ時間がかかりそうだ。

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もてスリム|MOTESLIM
1989年東京生まれ。編集者/ライター。
おとめ座。よく食べ、よく歩く。
@moteslim
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