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ひと夏の人離れ

命を喰らうのが怖いから人なのだろうか。

キャンプファイヤーの炎の中に大きな蛾が入って行く。あまり注目はされなかったけど様々な小虫も焼けただろう。その炎を使って私達は可愛らしくマシュマロを焼いておしゃべりしたり歌ったり踊ったりして夜を過ごした。
普段蓋された自然がそこかしこに見えた。古いトイレには見たことないほどの虫が集まっていて吐くかと思ったし、きらきら瞬く星空はあまりにも数が多くて暗闇と熱気と夜風で興奮がおさまらない。私の家のトイレにあんなに虫がいたら毎晩用を足すのは難しい。あの星空と夜の空気もマンションの5階の屋上へ持ち込んだら足元の街並みは寂しそうに私を見上げた。たくさんの目が空中散歩する私を見送っていた。

キャンプに申し込んでおいたから、と父が言ったのは夏休みが始まる前日。(何を勝手に)と思ったけど都会は暑すぎるから別にいいや。うちの家族はこの中年男だけだ。一カ月の間、顔を合わせるのはどうだろう。
すれ違いたい。すれ違い続けた持て余してる甘いものと。プリント用紙で切った人差し指の切り傷からぽたり、命を喰らえない程臆病だから人なんだろうな。匂わないように息を潜めて、そうやって『恋』と言いながら生物に触れたくて苛立っている。

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