恐怖の階段再び
入院22日目 午前
リハビリ16回目
リハビリは、日曜・祝日を除いて毎日行われる。
頑張って松葉杖の練習を重ねた結果、平地の歩行は自信がついた。
それに伴って1週間前から、日中に限ってだが、フロアー移動や別階のトイレまでの移動が、車椅子ではなく、松葉杖で移動してよいことになったのだ。これは喜ばしいことである。
しかし「付き添いあり」の条件つき。
それまでは、車椅子移動で自由にスイスーイと、1人でトイレに行っていたのだが、ナースコールを押して、看護師さんにトイレまで、付き添いをお願いすることになった。
意外とこのお願いする行為が、私は気が引けて苦手なのだ。
一日も早く上達して「付き添いあり」が解除される様に頑張らねばならない。
松葉杖での、初めての階段下り練習で、足がすくんで汗だくになっていた私。
その後、練習の成果が出て、リハビリ室に設置された練習用階段では、汗だくにならずに、上り下りができるようになっていた。
ちょっと自信さえついていた。
そんな私に、また壁が立ちはたがる。
「今日は本物の階段で練習してみましょうか。」
理学療法士さんと階段まで移動する。
ちょっと薄暗い空間で、床はツルッとしたプラスチックタイルだ。そんな7〜8段くらいある階段と対峙する。もうこの時点で、階段に負けている私がいた。
理学療法士さんにピッタリ付いてもらい、ゆっくりと上り始める。
5段上がりあと少し!と思ったところで、焦りが出た。足が思ったより上がっておらず、身体が前のめりになってしまいバランスを崩してしまう。
反射的に両手の松葉杖を手放し、階段に手をついていた。
心臓がバクバクいってる。
しばらく動けない。
「上がる時に躊躇がありましたね。そんな時は慌てないで、一呼吸置いてから次の一歩出しましょう。」
理学療法士さんの鋭い観察眼に脱帽だ。
なんとか上の踊り場まで上がると、また汗だくになっていた。そして気持ちは凹んでいた。
さぁ、次は苦手な下りだ。
階段を見下ろすと、さらに恐怖心が膨らんで足がすくむ。それでもなんとかヨチヨチで、最下段まで辿り着いた。
ぐったりした私に、理学療法士さんの声が心に沁みる。
「まだ、階段から落ちてケガをした時の記憶があるので、恐怖心が出るのは仕方がないんです。少しずつ、成功体験を重ねていくことが大切です。」
そうよね。怖いのはしょうがない。「階段怖い」の記憶に、「階段下りれた大丈夫」の記憶を上書きしていくしかないのだ。
今しばらく階段との戦いは続きそうだ。
克服できるのか、私。