大きな木の看板の小さな喫茶店
あの日、私は泣いて目をはらし父と珈琲を飲んでいた。
駅前にある大きな木の看板の小さな喫茶店。
珈琲の香りに包まれた店内は、静かにゆっくりと時間が流れていた。
連日母の怒りが収まらなかった。
日頃の不平不満がいっきに噴き出したのだろう。
布団の中で泣いていた私を、父が外に連れ出してくれたのだった。
あれから何十年と時が過ぎ去り、今でも故郷の駅前にはあの小さな喫茶店が残っている。
確かあの頃は、少し年配の男の方が珈琲を淹れてくれたと記憶している。
今はカウンターの中に若い女性が2人いる。
もしかしたら娘さんがお店を継いだのだろうか。
大きな木の看板はどっしりと落ち着いた色に変わり、あれから時が流れたことを感じさせた。
最近ふと綺麗な模様入りのコーヒーカップで珈琲が飲みたくなった。
いろいろなコーヒーカップが棚に並んでいる、いわゆる昔ながらの喫茶店に行ってみたくなった。
お客さんの雰囲気でマスターがコーヒーカップを選んでくれる喫茶店。
今の私はいったいどんな珈琲カップの雰囲気なのだろう?
まさかポケモンやムーミンやネコのカップは出てこないと思うのだけれど。
若い頃、ブルーのお花の少し渋いカップが運ばれて来た時は、何だか少しがっかりしたのだが。
今ならそんなカップが似合うようになったのかも知れない。
最近はお店のロゴ入りのマグカップやプラスチックカップ、あるいは紙コップで飲む珈琲が多くなっている。
自分でボタンを押して買う珈琲はお値段も手頃だから、その便利さについつい買ってしまう。
だだ今ドリップ中、マシンがニコリともせず良く働いてくれる。
そんな時代と共に、昔ながらの喫茶店が街からだんだん姿を消して行く。
あの時父と私は珈琲を飲みながら、いったいどんな会話をしたのだろう?
何だか思い出も一緒に消えて行くようなそんな気がする。
電気炊飯器を母に買って帰ったのだけは覚えているのだが。
お茶にしましょう
今日は猫珈琲でいいかにゃ
コーヒーカップはおまかせにゃ
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