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トミヤマユキコ「ネオ日本食ノート」22

「お母さん」感あふれまくりのトルコライス――池尻大橋「三好弥」のトルコライス
 
 今回も「大人のお子様ランチ」ことトルコライスを調査したい。というのも、前回取材した奥渋谷「TORICO」のトルコライスがあまりに洗練されていたため、逆にめちゃくちゃ庶民的なトルコライスも食べてみたくなったのだ。まあるいお皿に炭水化物と揚げ物がどっさり載ったトルコライスを、古き良き定食屋って感じのところで食べられたら最高だな……。

 東京でトルコライスを食べられる店はいくつかあるが、本場長崎のトルコライスに近いものが食べられて、なおかつ趣のある定食屋ということになると、池尻大橋「三好弥」に絞られる(わたし調べ)。ちなみに、三好弥は我が家から徒歩で10分もかからない。近い。

 東急田園都市線「池尻大橋」駅の東口から、中目黒方向に伸びる商店街の中に三好弥はある。食品サンプルの並ぶガラスケースの中によくわからない人形が紛れ込んでいるタイプの、非常に心なごむお店だ。そしてガラスケースの前には、「当店イチオシ」「トルコライス¥1,030」の文字が添えられたトルコライスの看板が出ている。

 店内に入ると、奥に厨房、手前に客席、という配置になっており、混雑時には2階席も解放されるようだ。客席からチラっと見える厨房では、コック服を着たおじさまが忙しそうに立ち働いている。長年一緒に働いている仲間なのか、ほとんど言葉を発することなく、あうんの呼吸で作業を進めているのがなんともかっこいい。

 「一番搾り」のビールグラスに注がれた水を飲みながら、壁に貼られたメニューを眺めた。やはり三好弥的にはトルコライスがイチオシメニューのようで、お店の誰かが書いたのであろう「トルコライス」の文字が味わい深い。右へ行くほど小さくなっている。かわいい。

 そしてとうとうお待ちかねのトルコライスがやってきた。ああ、想像していた通りの、定食屋のトルコライスである。お皿の半分近くをドライカレーが占めており、その上にとんかつが鎮座し、サイドにはナポリタンとサラダが控えている。トルコライスのとんかつにはデミソースが基本だが、三好弥のとんかつはプレーンなまんま。カリリとした衣の歯触りを楽しみたかったので、しょうゆを少しだけ垂らして食べた。

 そしてお次はドライカレー。炒めたご飯には「パラパラ系」と「しっとり系」があると思うのだが、わたしはなんでもかんでもパラパラならいいってもんじゃないだろうと思っていて、三好弥のしっとりドライカレーはけっこう好きだ。ついでに言うと、具がミックスベジタブルなので、どことなくお母さんが作ってくれた感がある(実際はおじさまが作っているのだけれど)。いつも思うが、ネオ日本食には、名高いシェフが作りました、みたいな装いは似合わない。庶民のごはんとして長く愛されるためには、いくばくかの「お母さん感」が必要なのだ。

 三好弥のトルコライスにおける「お母さん感」は、ナポリタンを食べるとさらに加速する。なんと、ドライカレー同様、ナポリタンにもミックスベジタブルが使われているのだ。いかにもお母さんがやりそうなことである。「こっちにも入れたんかい!」と笑顔でつっこみながら食べるしかないやつだこれは。そして極めつけは、トルコライスなのに味噌汁がついてくるのである(洋モノだろうが和モノだろうが必ず味噌汁をつける店のすばらしさというのは、声を大にして言っていきたい)。

 ネオ日本食を食べるときに感じる「お母さん感」。それは実母とはまた違った、「イメージとしてのお母さん」がもたらす感覚である。お腹ぱんぱんになるまで食べさせようとしたり、健康のためにちょいちょい野菜を足してきたり、和洋を無視して味噌汁をつけてきたり。お母さんはわれわれをいつまでも育ち盛りだと思っている。もうそんな歳じゃないよと言っても、聞く耳を持たない。そんなお母さんの愛に包まれて、わたしは三好弥をあとにした。

三好弥
地図:東京都目黒区東山3-14-2 中里ビル 1F

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