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【特別公開】 はじめに 稲田俊輔『おいしいもので できている』

はじめに

 人は誰しもおいしいものを食べるのが好きだと思います。ですがその中には一定数、常軌を逸してそれが好きな人たちがいるような気もします。そして僕自身もその中のひとりだというはっきりとした自覚があります。

 この「常軌を逸した」人々は、人生における時間やお金、そしてそれ以上に「気持ち」の使い方の優先度が思いっきり食に向いています。そしてその興味は往々にして、おいしいものだけでなくおいしいかどうかもわからないもの、時には決しておいしくはなさそうなものにまで向けられるのです。

 だからそれは「グルメ」というのとは少し違うと思っています。実際自分もそうですが、こういう人々の多くはグルメと呼ばれることを良しとしないのではないでしょうか。グルメって、おいしいものを食べるのが好きというよりはむしろ、おいしくないものを食べることが嫌いな人たちなんじゃないだろうか、と思うことがあります。もっと言えばそれはその「おいしくないもの」の範囲が極端に広い不幸な人々なのではないか、とすら。

 常軌を逸して食べることが好きな人々の振る舞いや言動は、そうではない人々から見ると時に滑稽だったり、不可解だったり、驚きに満ちたものだったりするかもしれません。この本は、そんな人間のひとりからは世の中の食べ物がどう見えているかの自己症例報告のようなものです。

 そして実のところ誰だって多かれ少なかれ何かしら、好きな食べ物に対しては、ひときわ強い愛情を持っていると思うのです。この本には世の中のいろいろな食べ物に対する様々な偏愛が描かれています。その一部分にでも共感してもらえればもちろん嬉しいのですが、この人ちょっとおかしいんじゃ、と驚いてもらっても笑ってもらってももちろん嬉しいのです。

 そこに悪意が介在しない限り世の中にまずいものなんて無い、というのが僕の信念です。世界はおおむね、おいしいものでできている。そのことに気づいたら、日々の生活はきっともう少しだけハッピーなものになるのではありますまいか。僕がこのタイトルに込めたささやかな主張は、つまりそういうことです。

帯付き_書影

おいしいもので できている』稲田俊輔 初のエッセイ集、好評発売中!

飲食界随一のエンターテイナー、稲田俊輔(イナダシュンスケ)による初のエッセイ集。どんな食べ物にも喰いつき、「おいしさ」をトコトン暴きだす天才!
人気店「エリックサウス」創業者、飲食店プロデューサー、自称変態料理人=イナダシュンスケが、ど定番の「おいしいもの」一品ずつを語る。

これを読めば、食事は最高のエンターテインメントになる!
食べ物への偏愛が注ぎ込まれたエッセイ集。ミニマルレシピ4点付き。


■目次より
幸福の月見うどん / 一九六五年のアルデンテ / サンドイッチの薄さ / 手打ち蕎麦の困惑 / ヤマモトくんのおやつ、キリハラくんのおやつ / ホワイトアスパラガスの所在 / 菜っ葉とお揚げさんのたいたん / カツレツ贔屓 / コンソメスープの誇り / チキンライスの不遇 / 幕の内大作戦 / 史上最高のカツ丼 / ストイック宅配ピザ / 小籠包は十個以上 / カツカレー嫌い / 天ぬきの友情 / 食べるためだけの旅 / ビスクの信念 / お伽噺の醤油ラーメン / ポテトサラダの味 / ポトフとpot-au-feu / 麻婆豆腐の本質 / ミールスの物語 / 誰が為のカレーライス / かっこいいぬた / ミニサラダの永遠 / から揚げ稼業

■収録レシピ
・東海林式チャーシュー「改」とチャーシュー麺
・ミニマルポテトサラダ
・塩漬け豚のpot-au-feu
・ミニマル麻婆豆腐

《全篇書き下ろし》

■プロフィール
稲田俊輔(イナダシュンスケ)
鹿児島県生まれ。京都大学在学中から料理修業と並行して音楽家を志す。卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。音楽でも一度はインディーズレーベルよりデビューを果たすもいつしか見切りをつける。以降は飲食に専念することになり、和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店25店舗(海外はベトナムにも出店)の展開に尽力する。2011年には、東京駅八重洲地下街にカウンター席主体の南インド料理店「エリックサウス」を開店。現在は全店のメニュー監修やレシピ開発を中心に、業態開発や店舗プロデュースを手掛けている。和・洋・エスニック、ジャンルを問わず何にでも喰いつく変態料理人として、またナチュラルボーン食いしん坊として、ツイッター(@inadashunsuke)などで情報を発信。過去のブログ「サイゼリヤ100%☆活用術」が話題となり、書き手としても人気を博す。
著書に『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社新書)、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』、『だいたい1ステップか2ステップ!なのに本格インドカレー』(ともに柴田書店)がある。

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