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『NEON NEON』から『NEON TOUR』へ 写真家 中村治インタビュー

「ネオンの写真集にしたい」という思いがあった

-------中村さんがネオンの撮影を始めたきっかけは何だったのですか?

中村:きっかけは、LITTLE MAN BOOKSの大和田さんに「ネオンを撮りませんか?」と言われたからです。その前に、大和田さんがアオイネオンの荻野さんに「ネオンの本を作りませんか?」と言われて。そのために写真がいるだろうということで、大和田さんが僕に話をしたという経緯ですね。

-------最初は、どのように思いましたか?

中村:自分はやはり写真家なので、ネオンの写真をどう撮るか? ですね。仕事であれば依頼内容にあわせて撮っていきますけど、今回は仕事として話があったとは思わなかったんです。大和田さんも商売でやっているわけじゃなく、誰かが作りたい本、大和田さんが作りたい本を作りたいんだろう。じゃあ僕も、自分が作りたい本を作ろうと。その時に大和田さんに聞いたのは、「ネオンに関わる人に話を聞くので、その人の写真を撮ってほしい」ということ。それから、「ネオンがどのようなものかを読者に知ってもらうために、ネオンそのものの写真を撮ってほしい」ということだった。
最初は、街でネオンを撮るっていう話はそんなに出なかった気がするんです。でも、自分の中のネオンと言ったら、新宿…高校生の頃からディスコに行っていたりして、その時の歌舞伎町のイメージ。あとは、ブレードランナーの世界。そういった経験から「ネオンのある街の風景」を撮ってみたいと言った時に、大和田さんも「それがいいですね」と。

-------中村さんの中に、すでに本としてのイメージがあったのでしょうか?

中村:その時から、僕には「ネオンの写真集にしたい」という思いがあったんです。でも、「大和田さんはネオンの写真集を作るという意識はないかもしれない。そこまで求めていないかもしれない」とも思ったんです。でも、それがよい意味での逃げになった。「写真集として完成させなければ」という責任感をそれほど感じていない中で、最初のうちは、ちょっと乗っかっている気分があったのかもしれない。「期待されていないことをやる」というところで、どこか逃げられる、始めやすさみたいなものがあったのかもしれないですね。

-------それは、結果的によい方向に働いたんですか?

中村:よかったんだと思いますね。だから、あんな変な本、『NEON NEON』になったんだと思うんです。僕はやりたいことをやりたい。大和田さんも、やりたいことをやりたい。だから、大和田さんのやりたいことと僕のやりたいことが交わるのがちょっと難しいよねってなった時に、交わらない形で1つになったのが、すごく面白い形になったと思うんですよ。インタビューの人物撮影では、取材者である大和田さんの意思に沿っていくという意識があったんですけど、街の写真に関してはそういうのはなく、自分が撮りたいものを撮りたいっていう、それだけでしたね。

自分の知っている世界が消えていく

-------中村さんが撮りたいネオンというのは、どのようなものだったのでしょうか?

中村:街の中でネオンを撮るとなると、そのネオンはお店の看板だったり企業の広告だったりと、必ずネオン以外の環境も撮ることになる。ネオンの撮影を始める前に、東京の下町で建築用のシフトレンズを使って何年か撮影していたんです。その手法を使うと、ネオンがある程度目立ちつつも、ネオンがついている建物とか、その環境自体をうまく捉えられるんじゃないかと思いました。
ところが、実際に撮影を始めてみると、自分の記憶の中にあった、ネオンに囲まれている新宿の街が消えていたんです。ネオンサイン自体がどんどん減っていて、LEDに置き換わったりとか、ライトボックスの看板広告になったりしている。それでも、わずかにまだネオンが残っていて、それもまたどんどん消えそうになっている。

-------中村さんの記憶の中にある新宿は、もっとネオンも多く、賑やかなイメージだったんですか?

中村:そういう記憶はあるけれど、実際にどうだったかはわからないです。夜の街にはネオンがあるものと、勝手に思い込んでいるところがあったのかもしれない。でも、実際に新宿を歩いてみたら、たくさん残っていると思っていたネオンがほとんどなくなっていることに愕然としたんです。その変化は、20年、30年の間で緩やかに起こっていたはずなのに、高校生から『NEON NEON』の撮影を始めた頃まで、時間が一気にジャンプした。
2011年の震災で政府の電力供給のコントロールのためにLEDが推奨されたり、「ネオン街」という言葉からネオン自体が悪者みたいに捉えられたり。こうした流れの中で、街のネオンがどんどん消えていっていた。しかも、撮影を始めてすぐにコロナ禍になって世の中が止まったので、もともと減りつつあったものがさらに減ってきた。『NEON NEON』の中にも、今はないお店がいっぱいある。あの時に撮っていなかったら、そういうものを本の中に入れることはできなかったんです。

-------失われつつあるネオンという存在は、写真家である中村さんにとって魅力的な被写体だったのでしょうか?

中村:写真家なので、記録として残していくことに喜びを感じるという面はあります。自分が生きている環境の中で、過去に知っていたものがどんどん消えていこうとしている。自分の知っている世界が消えていこうとしている。そういう状況を捉えることは、写真家にこそできることなんじゃないか、と。自分が生きている街や都市を撮るというのは、ずっと下町や中国でやってきたことでもあって。1つの都市をずっと見続けて、それを写真に落とし込んでいくという、どこかでやりたかったことが、ちょうど今回一致したところはありますね。
当たり前ですけど、ネオンって施工の時期が違うんですよね。必然的にいろいろな時代のものがあるというのが、すごく面白いんです。同じ時代に撮っているのに、いろいろな時代のネオンが撮れる。そして時間の経過とともに、店の姿とか、来るお客さんも変わっていく。写真は「今」という一瞬を撮っているわけですけど、そういう時間の経過…長く引き延ばされた時間みたいなものが写ればいいな、と思って撮っています。写真は一瞬だからこそ、そこに引き延ばされた時間が写り込む。物自体というよりは、こうした時間感覚のようなものに興味があるんです。

-------中村さんがネオンの撮影に行っても撮らなかったり、撮ったけれども本には載せなかったり、っていう写真もあるわけですよね。その違いというのは何ですか?

中村:古いネオンであれば、さっき言った…時間とか時代の蓄積を感じられるかどうか。新しいネオンであれば、その時代を引き受けているように感じられるかどうか。そういうものをあまり感じなかったら、撮らないか、撮っても載せないっていうことになるのかもしれないですね。今回は撮影しなかったような新しいネオンでも、自ずとそこにいろいろな歴史が乗ってくると思うので、20~30年後に僕が同じ感覚で見たら撮りたいと思うかもしれない。それは、あくまでも自分の感覚でしかないんですけどね。他の人が撮ったら、おそらく違う選択になると思う。それは、いろいろな人が、それぞれの感覚で撮ればいいと思います。

-------その選択の結果が、『NEON NEON』という形に結実したわけですね?

中村:最終的には600ページ、写真のページが450ページくらいある本になって。大和田さんも荻野さんもそんなに求めていなかったのかもしれないんですけど、撮影していくうちに、自分の中ではあれだけの量が必要になっていった。はじめから、こういう風に撮りたいっていうのはなかったんですが、撮りながらいろいろなものが見えてきたり、考えたりしていった感じですね。

記憶の中に刻まれた光

-------中村さんがネオンを撮る時に感じる感情的なものとは、どのようなものなのでしょうか?

中村:なぜ撮りたいのかとか、どういう手法で撮るのかとか、そういうことを抜きにして、ネオンのあの光そのものに、すごく関心、興味があります。写真家だから、光がないと物を写すことができないので、普段から光はすごく意識するんです。その上で、ネオンが発する光自体が、理屈なしにすごく好きだなって思う。それはなぜかと考えると、ガラス管の中にアルゴンガス・ネオンガスが入っていて。ネオンガスだと赤になって、アルゴンガスだと青になる。そして、ガラス管に色を吹き付けて、その組み合わせでいろいろな色が表現できる。その光の質に、僕は惹かれるのかなと思っています。

-------すごく物質的な光であるということですね。

中村:それには、ネオンがガラス管だっていうこともあって。ガラス管の両側に電極をつけて、壁から数cmとか10cmくらい離して設置される。そうすると、360度全方向に光が行くんです。何も遮蔽物がない前面とか上とか下に、ガラス管の中で柔らかく拡散された光が広がっていく。そして、広がった光は壁にも当たる。壁に当たった光が、またいろいろな方向に拡散される。壁の色によって、色が変わったりもする。あの光の柔らかさが、僕にとっては、すごく惹かれるものなんです。
あのもわーっとした明るい光って何なんだろう? と思った時に考えるのは、焚火の火とか、いろりの火とか。火の、温かさの感覚に近いものを、どこかで目が感じて、脳を刺激してるのかなって思うんです。人類が昔、原始時代とか縄文時代とかに狩りに出て。夕方遅くなって日も暮れて、ここで獣に襲われたら…っていう心配もありつつ家路を急いでいた時に、遠くのほうに、村とか自分の家から柔らかい光が漏れている。そういうところで安堵して、家に帰って光に当たる幸福感みたいなものが、どこか記憶の中に刻まれているような気がして。昼間に一生懸命に働いて…原始時代でいうところの狩りをして…労働をして終わった時に、あの光の元に帰りたいっていう意識がすごくある気がする。だから、ネオンは働く人たちを魅了してきたのかな、と思うんです。LEDには、そういう作用があまりない気がするんですよね。ネオンの光に惹かれるのはなんでなんだろう? って考えると、そういう風に思いますね。

-------それが、現代におけるネオンの1つの役割だったということですか?

中村:そうですね。高度経済成長を支えてきた人たちにとって、昼ガンガン働いて、夜の街にいっぺん吸い込まれてから家に帰るっていうのがスタンダードだったと思うんです。ネオンの光に誘われて行くと、酔っ払ってちょっと気持ちよくなるとか、欲が振り切れたところにある風俗店とか、パチンコとか、ゲームとか。でも、それらはすべて今なくなりつつあるものですよね。風俗店も減ってきていると思いますし、パチンコもゲームも、全部少なくなっている。それに伴って、ネオンもまたどんどん減っていっている。そこには時代の要請があるんだと思いますが。

-------一方で、若い世代を中心にネオンが見直されていますよね?

中村:新しいお店でネオンを設置している若い人たちに聞くと、光が柔らかくて温かいとか、ホッとさせるとか、実家に帰ってきたみたいな感覚になるとか、おばあちゃん家に帰ってきたみたいとか、そういう言葉を聞くんです。だから、若い人の方が、ネオンの光のそういった感覚に敏感なのかもしれない。コロナ禍で、外に出られない、実家に帰れない、人と集まれないという状況があったときに、ネオンの光に惹かれる思いというものが普段よりも強くなってきたのもしれない。
ネオンを通して街を見ていくと、そういうものが見えてくるのが面白いなあと思うんですよね。かつ、そういうものを写真によって捉えたい。作品としてまとめた時に、あまりそこに引っ張るというわけじゃないんですけど、意識の中で勝手に見えてくるといいなと思います。そういう作業が面白くて、熱中しているのかもしれないですね。

どんどん「再現の世界」になっていく

-------コロナ禍では、街に人がほとんどいなかったりしましたが、最近は街に人がたくさんいると思います。その辺りの違いはありますか?

中村:コロナから丸4年経っているので、大学1年生だった子も卒業して社会人になっているわけじゃないですか。失われた30年とか、それも終わったと思うんですよ。高度経済成長を支えた経済のしくみの中で、夜の街ができて、バブル崩壊後もその残り香で30年間やってきたんですけど…それはもう根こそぎなくなったと考えてもいいんじゃないか。ここ20~30年で起こったことが全部流れて、ネオンとか夜の街を必要とする人たちが明らかに変わった気がするんですよね。歩いてる人も、飲みに行く文化も変わりましたし、夜の街が明らかに変わっているという印象はあります。あと、外国人が多いとかね。その中で、作るものは確実に変わってきていますよね。

-------ネオンを取り巻くプレイヤーが入れ替わったと?

中村:そうですね。それに伴って、過去にあった日本のよさのイミテーションみたいなものが増えている気がする。例えば赤提灯をバーっと並べるとか、ガード下風にするとか。ああいうのって、失われた30年がもう完全に終わったっていう感覚だからこそ、今、新しく見えるものですよね。けれど、それは新しいものを作るというよりは、すでになくなったものを再利用している。必ずしも、新しい表現、新しい店づくりではない。なぜそれをやりたがるかっていうと、失敗できないプレッシャーがあるんだと思うんですよ。その時、レトロっていうのはすごく利用しやすいコンテンツなんだと思う。時代はもう確実に変わって流れていってしまったということを前提にして、長いスパンで時代を捉えるようなもの。今の時代だからこそできるものを作り上げる人が出てきて、街が変わっていくというものを見たいと思うんですけどね。

-------街の登場人物は大きく変わったのに、場所…環境がまだそれに追いついてないところがある?

中村:そうですね。レトロブームとして過去の時代を引き受けたとして、そこからもう1つ超えてまったく新しいものになっていくにはどうしたらいいんだろう? っていうことを考えるきっかけにネオンがなればいいな、と思っています。これから、どんどん「再現の世界」になっていくと思うんですよ。例えばAIがやっていることって、人間が過去にやってきた蓄積を、今の時点ですごくブラッシュアップして再提示している。新しい作業はしていないんですよね。そして、街もそういう風に変わりつつあるというのが、実感としてあるんです。だから、そこを一歩変えるにはどうしたらいいんだろう? っていうことなんです。

-------ネオンに触れた若い人たちの中で、ただの再現じゃない新しい出会い、化学反応みたいなものが生まれてくれば、ということですね。

中村:そういうことの材料になれればいいな、とは思います。それが一番幸せなことですよね。

周辺部には古いネオンが多い

-------変化を見続けるという意味では、『NEON NEON』から『NEON TOUR』へ、継続して撮影を続けているわけですよね?

中村:はじめは、『NEON NEON』でやり残したことをやろう、と思って。やり残したことっていうのは、さっき言ったような、人間の感覚…なぜ人はネオンのような光に惹かれるのか? その惹かれて設置されたネオンが、どういう人を惹きつけて、どのように続いてきたのか? まとまった時間がそこにあったとしたら、その時間というのは何だったのか? 『NEON NEON』では、どこかでネオンを説明しなきゃいけないという意識があったんですが、その意識を取り払った時に、撮影している中で見えてきた時間というものをもう少し撮ってみたい。ネオンが経てきた…伴走してきた時代を撮ってみたいという思いが出てきて。そうすると、また別の手法で、もう一歩俯瞰した地点から写真を撮るということをやってみたいな、と。『NEON NEON』の撮影の後半に、そう思い始めたんです。

-------『NEON NEON』の撮影の後半は、横浜でしたよね?

中村:そうですね。最後、時間切れで横浜がそんなに撮れなかったので、「横浜のあの店はないの?」ってよく言われたりとか。そういう意味でも、やり残したことがあった感じがすごくしていた。あとは、横浜のネオンに惹かれたっていうこともあるんです。横浜のネオンは、他の地域のネオン、日本の赤提灯的な文化とはちょっと違う。それは横浜が港町で、アメリカだけじゃなく、ヨーロッパにも意識を向けていたこととも関係しているんじゃないか。幕末から明治にかけて、ヨーロッパに行くのは横浜からで、帰ってくるのも横浜で。横浜に新しい文化があったということは、ネオンからも見えてくる気がします。
時代を捉えるという意識を持つんだとしたら、横浜を見続けるというのが面白いかもしれないと思って、横浜のネオンで1冊作ろうと撮影を始めたんです。そうしたら、1冊にするほどネオンが残っていなくて。1つの地域を深く見れば面白いものが見えてくるんじゃないかと思ったんですけど、1つの地域じゃ成立しないくらい過去のものになっている。それは『NEON NEON』で散々感じてきたことのはずなのに、また同じことをやろうとしていた。だから、それは諦めるしかないなっていうことを、横浜を1年くらい撮り続けた時に思って。今は、3年前、4年前に撮影したネオンをもう1回撮るとか、関西にも行ったり、もう少し広い地域を回ったりっていうように方向転換した感じですね。極小なところで捉えていこうと思っていたのが、逆になった形です。

-------実際に広げてみて、いかがでしたか?

中村:面白いですね。これまで東京周辺とか横浜周辺しか見てなかったんで。東京周辺といっても、主に東京・横浜。あとは福生とか、23区をちょっと超えたくらい。あとは大宮とか。千葉も、そこまで行ってないですかね。けれど地方に行ってみると、その地方ごとの独特な雰囲気があって。街が違えば、住んでいる人も言葉も違うし、食文化も違う。食文化が違うと、生活スタイルが変わりますからね。かつ、中心街はネオンが残っているんですけど、周辺部にもけっこう残っている。東京もそうなんですけど、名古屋も大阪も、ドーナツ状に間があまりなくて、中心部と、そこからしばらく離れた場所、周辺部にまた現れてくる。大都市の一昔前のものが消えていく、または残っていくっていうのは、そういう形をとるんだろうなっていうことをなんとなく感じましたね。時間をかけて周辺まで届いて、時間をかけて消えていく…。真ん中はいろいろなものがあるのでまだ残るとして、消えていく流れがまだ及びきれていない周辺部がまだ残っている、っていう感覚がある。

-------周辺部が、消えることからも取り残されている感じですね。

中村:だから、周辺部には古いネオンが多い。それが面白いなと。昔からネオンをつけていたところは老舗が多くて、そういうお店はお客さんに長く愛され続けているのでそう簡単には潰れない。老舗は強いんですよね。昔から「あそこにある」って意識されてるところって、人が集まるから。そういう店が各地に点々とあって、これまで残ってきた。反対に、周辺部には新しいものはそんなにない。集客力がないから、新しいものを作れない。作っても数が少ない。似た店舗が増えると、人が少ないから競合になってしまう。1つの文化…ネオン文化というものがあるとして、どんな場所でもきっとそういうことが起こるんだろうな、と思います。それを類型的にまとめた人はまだいないと思いますけど。

-------なぜそこにネオンが残ってきたのか? ということですね。

中村:そうですね。ネオンでも、環境に合っていないものって違和感になるから、たぶん取り外されてきたんだと思うんですよ。あんなに目に痛いものが、住宅街にガンってあるところもあるんです。けれど、それが紛争の種にならずに30年とか維持されてきたというのは、なにかしら許容されてきたということだと思う。だから、その環境自体も伝えたいって思ってるんですね。同じような環境の中で、他の店が全部潰れてる中で、なぜここは残ってきたんだろう? とか。なぜこの一角はこんなに盛り上がってるんだろう? とか。
だから、あの光…ネオンの光が届く範囲にある環境っていうのは、理由があって残っているという感じがするんです。そういうのって、写真に撮るとはまるんですよね。逆に、はまらないところは撮ってないし、そもそもネオンが残っていかないんじゃないか。『NEON TOUR』は、そういう一歩引いた見方ができるものにしたかった。とはいえ、あまり引き過ぎるとタイトルに「ネオン」がある意味がなくなっちゃうので、その辺のせめぎ合いで撮っている感じですね。

意識はそれぞれのネオンが造られた時代に飛んでいる

-------確かに、『NEON TOUR』では引きの写真が多くなっています。どこからどこまでを切り取ったのか? というのは、すごく重要なことですよね。

中村:重要です。自分の中で、そこにすごく緊張感があるんです。ネオンの光をある程度浴びないといけない。けれど、浴びすぎて見えなくなってもいけない。ネオンの間合い、自分の中での距離感みたいなものがあるんですよ。近すぎるのは『NEON NEON』でやったので、今回はもう1つ違う感覚で撮りたいと思っています。

-------もう少し離れたところから?

中村:そうですね。『NEON NEON』から新しい『NEON TOUR』に再収録するものもありますけど。感覚が合っているところもあるし、ただ引いてるというだけで感覚が合っていないところもあるので、そういうのは入れてなかったりします。実際、そういう風に撮ろうと思ってないから、『NEON NEON』の頃は横位置の写真を撮っていないんですよ。どういう意識で撮るか? っていうことに沿っていないと、撮れないんです。だから今は、『NEON NEON』でやったような縦位置を撮るのが逆にちょっと苦痛というか。縦位置は、Instagramの材料として撮影しているくらいですね。

-------『NEON TOUR』では、『NEON NEON』の頃とはネオンとの距離感がかなり変わっているということですか?

中村:距離感は変わりましたね。『NEON NEON』は、時代の中にいるんです。コロナ禍とともに作った、っていう。『NEON TOUR』は、身体はもちろん今の時代にいるんですけど、意識はそれぞれのネオンが造られた時代に飛んでいる。『NEON NEON』は、消えつつある古いネオンから新しいネオンへという意味で2つ繋げて、新しい『NEON』と古い『NEON』の間のスペースに自分たちが立っているという意識だったんです。今度は、新しい古いというよりは、それぞれの時代を旅していくっていう。だから『NEON TOUR』というタイトルで。

-------空間を移動しながら、時間も移動している?

中村:時間の旅、みたいなものになるといいですね。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいな…100年ぐらい前にネオンができたんですよね。スコットランドの化学者ウィリアム・ラムゼー(William Ramsay)さんが作って。日本に上陸してからも、そろそろ100年になるんじゃないですかね。

-------中村さんとネオンとの出会いは、どこか必然的なものであったような気がしています。

中村:僕はタイポロジー的…類型学的な撮影の仕方が好きなので、そういう意味でネオンはよい被写体になっています。ネオンという被写体を利用して、タイポロジー的に街を撮影していった時に何が見えてくるのか? ネオンという被写体が、街を比較、読解するための1つの基準になっている。そんな便利な被写体が、大和田さん、荻野さんにたまたま与えられた。こうしたきっかけを作ってくれた人たちと僕とで意識が違うというのも、面白いところですね。コロナ禍はいろいろな人に変化をもたらしたと思うんですけど、その長い期間に1つのことを考えるとか、見続けられたっていうのは、すごくよい経験だったと思います。


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LITTLE MAN BOOKS
LITTLE MAN BOOKSは、ふつうの人のために本を作って販売する、小さな出版プロジェクトです。 http://www.littlemanbooks.net