見出し画像

#5_どうして現地人材はすぐに離職してしまうのか

 今回は、前回少し触れた「経営の現地化」の中の、「人材の現地化」について取り扱いたいと思う。昔からよく聞くテーマだが、思う様に進んでいない企業が多いように感じる。

 その背景の一つとして、離職率の違いが挙げられる。少し昔のデータで恐縮だが、下記のグラフで見ても、日本の転職回数はアジアの他国と比べて圧倒的に少ない。「現地の人間は折角育成しても、すぐに辞めてしまう」とはよく聞く話で、結果、経営幹部は日本人で固められてしまう。また、その幹部の顔ぶれが、現地の人間からは「頑張って働いても経営幹部になれない」という“ガラスの壁”になっている。やる気のある社員から辞めてしまう悪循環が起きているケースも多いのではないだろうか。

キャプチャ

 この状況を打破すべく、タレントマネジメントや研修制度の充実など、現地の社員のロイヤリティ向上に取り組む企業も多いと思う。それらの取り組みの重要性は疑うべくもないので、今回は別の視点から、とある建設会社A社の事例をご紹介したい。

 A社は、ODAの海外インフラ工事に対応する形で、比較的早い段階から海外展開を行い、世界各国に拠点を構えている。その中でも、ベトナム拠点は600名ほどの人員を抱えており、その大半が現地の人間で構成されている。A社では、1990年代にベトナムで学校を開設し、技術教育にあたっており、卒業生から一部の社員の採用も行っているため、現地での雇用が活発なのである。

 A社のベトナム拠点の方と話す機会があり、その方の話が非常に印象的であった。A社においても、ベトナム拠点での離職率は日本と比べると圧倒的に高く、優秀な人材ほど辞めて独立するという。だが、その状況に対して全く悲観的ではなかった。A社では、辞めて独立していった社員との関係が続いており、案件の融通や共同施工が頻繁に行われているのだという。

 確かに優秀な人材が抜けていくことは避けたいことである。だがA社は「社員が辞める」ことを前提としながらも、自分たちが大切にする技術を、現地の人間と向き合い、教え続けることで、大きな繋がりを作っているのだと思う。

 日本とは全く異なる環境の中でも、「目の前の仲間と誠実に向き合えているか」という単純で難しい問いと向き合い続けることが大事だと、勇気づけてくれる事例である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?