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インタビュー#8 「日本の子ども達はロボットみたいね」その一言が、とても衝撃的でした

今回は、JICA日系社会ボランティア(現 日系社会青年海外協力隊)としてブラジルで日本語を教えた経験を持ち、現在はオンライン教室「アリストテレスの窓」を開講する石森 和麿さんにお話を伺いました。

(私が現役の先生にインタビューをする理由は、こちらの記事に書いています。)

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* プロフィール *
石森 和麿(いしもり かずま)さん
高校まで勉強が大嫌いだった経験から、なんとかおもしろくならないものかと、大学生の時学習塾講師の世界に入る。わかりやすく、且つおもしろい授業をモットーに卒業まで教鞭をとる。
 卒業後、ベンチャー企業に勤務。外国人とのやり取りの中で、コミュニケーションツールである言語の重要性を感じ、養成講座を経て日本語教師になる。日本での日本語学校勤務ののちJICA日系社会青年ボランティア(現日系社会青年海外協力隊)に参加。ブラジルの小・中学校で子供達に日本語や日本文化を教える。
 フリーとして独立後、在日ブラジル人子弟への学習補助や、企業とコラボした外国人従業員への日本語の教育プロジェクトの立上げ、大手学習塾での子供向けの英語指導の他、韓国政府のプロジェクトにも参加、日韓の架け橋となる韓国人学生の教育にも携わる。
現在、コロナ禍において「自分の人生を、自分で考え、自分で歩む人」を育てるためのオンライン教室「アリストテレスの窓」を開講し、邁進中。

学校教育への憤りから、教育業界へ関心を持つ

小学生の頃からずっと勉強が嫌いだったという和麿さん。学校の授業を受けながら「何でこんな勉強をしないといけないのか?」という疑問が生まれ、答えが見つからずに高校生になってからもほとんど勉強しなかったと言います。そのまま浪人生活がスタートし、大学受験のために予備校に通い始めました。

「予備校で、初めて面白い授業を受けたんです。分かりやすかったですし、勉強の仕方や考え方を教わりました。そんな体験と同時に、自分だったら面白く教えられるかもしれないという思いが湧いて大学生の時に学習塾のアルバイトを始めたんです。それが、教育に携わるきっかけですね」

それから大学を卒業し、ベンチャー企業での経験を経て海外へと飛び立ちます。

「海外にはずっと行きたいと思っていて、退職をきっかけに夢を叶えようと思ったんです。金銭的な理由で留学が出来なかったので、仕事で行こうと決めてハローワークを眺めていた時に『日本語教師養成講座』を見つけて、これだ!と思いました。半年間講座を受けながら、色んな現実を知りましたね。日本語教師で生計を立てるのは難しいこと。日本語教師をしてもキャリアアップにはならないこと。そんな中で、唯一キャリアになるのが JICAで日本語教師をすることでした」

ブラジルで見た『日本』

日本語教師養成講座の修了時期とJICAの募集時期が偶然重なり、迷わず応募。その後の2年間、ブラジルの日系団体が運営している私立の小中一貫校で日本語を教えることが決まりました。

「生徒たちは元気いっぱいで、いきなり立ち上がって先生に抱きついたり、鉛筆を削りに行ったり、トイレに行ったりは普通でした。最初は『何だこれ、学級崩壊じゃないか』と思いましたが、徐々にこちらも慣れてきて、自己表現力があるんだなという捉え方に変わっていきました。実際に、子ども達は気になったことがあると質問するし主張もするんです。子どもが他人の勉強の邪魔をしたらもちろん先生は指導しますが、学校にゲームを持ってきたらダメとかそういうことは言いません。やりたいなら休み時間にやって、という感じですね」

日本語を教える傍ら、現地の学校へのマネジメントもしていた和麿さん。ある日、ブラジル学校の先生と一緒に日本人学校へ見学に行くことになります。

「久しぶりに日本を見た感じでしたね。懐かしかったです。規律正しいし、先生の言うことは『はい!』と言って聞く。そんな風に感じていた時、ブラジル学校の先生がぼそっと『ロボットみたいね』と言ったんです。その一言がとても衝撃的でした。確かに言われたことをその通りにやって、それで褒められていたんです。頭の片隅に、日本の子ども達は大丈夫かな?という危機感が生まれました」

コロナをきっかけに、オンライン教室拡大へ

そんな問いを持ったまま、ブラジルでの任務を終えて帰国。山口県の工場の立ち上げに携わりながら、子どもや大人に対して日本語を教える仕事を続けます。その後、ブラジルでの経験を生かしたいとう思いが強まり、2019年冬に独立。

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「オンラインでも日本語を教えていたんですが、子どものお母さんからコロナで休校になったことをきっかけに授業数を増やしてほしいと言われたんです。その時に、人を集めて公開でやろうと思ったのが『オンライン教室』です。せっかくだから、学校で学ばないことをやろうと思って、恐竜や宇宙、気象をテーマに授業をしました。ありがたいことに、保護者からは『視点が変わった』『子どもの可能性を感じた』と言われましたね。

子ども達と関わる時に大切にしているは『考える力』『発言する力』『協働する力』です。今は答えのない世の中なので、学ぶ中で答えを求めるのをやめて、とにかく意見や考えを言ってもらうことに力を注いでいます。子ども達の発言に対して『それ、良いアイディアだね!』と言うと、面白い答えがどんどん溢れてくるんです。そして、チームで何かに取り組む時には、子ども達とよく話し合いをします。そんなことを続けていると、段々と子ども達は発言するようになるし、他の子達の話も聞くようになるんですよね」

とにかく今はオンラインでの授業で子どもと接する時間が幸せだと話す和麿さん。子どもとの関わりで、特に印象的だった場面についてこう語ります。

「初めて参加する時って、誰でも緊張しますよね。ある女の子は大人しく静かに参加していたんですよ。僕もその子に対して無理にしゃべってもらおうとはしなかったんですが、授業を重ねていくと、徐々に変わっていったんですね。発言する場面が増えていって、ある時『はい!』って手をあげた時は、本当に嬉しかったです。

基本的に否定はしないので、『そうじゃない』とか、『答えが違うよ』とかは言いません。もし答えがある問いだとしたら、『アイディアをちょうだい』と言うんです。例えば、1+1の答えは2ですよね。だから、3って言ったら間違いになる。でも、1+1をどう計算するのかをまだ習っていないのであれば、答えはわからない訳です。これは当然のことだし、答えが合っているのか間違っているのかはどうでもいいと思っています。

『俺はみんなの意見が聞きたいんだ。教えてくれ!』って言うんですよ。そうすると、それぞれが思う答えを言ってくれます。そして、理由も教えてくれる。そんなやりとりを繰り返していきます。その上で、『これを一緒に勉強しよう』と言ってスイッチの切り替えをします」

子どもが家の中にいながら受けることができるオンライン教室。親御さんが近くで聞いていることもよくあるそうです。

「受けてくれた子の保護者からはダイレクトに感想をもらったりもします。その中で『初めて息子の良いところに気付けました』という言葉をもらったことがあって、嬉しかったですね。オンラインだからお母さんが近くで聞いていて、自分の息子が意味わかんないことを言うんじゃないかとヒヤヒヤしている訳です。

ある時、授業の中で『水って何でできてる?』って僕が問いかけた時に、「僕知ってる!水兵リーベ僕の船!」って元素記号を言い始めた子がいました。お母さんは「なんでそんなの知ってるの?」と驚いていましたね」

同じ想いの人と共に、より良い教育を目指す

まだまだスタートしたばかりのオンライン教室を、これからどんな風に進化させていきたいと思っているのでしょうか。和麿さんの中にある、ビジョンをお聞きしました。

「これを継続させていくためには、僕だけが両手を広げて抱えているだけだとたかが知れていますから、どなたかに一緒に入ってもらって、一緒にやる。僕と同じことなんて出来ないってみんな言うんですけど、僕と同じことをする必要は全くなくて、みんなそれぞれに良いところある訳だから、自分なりのやり方で良いと思うんです。

一緒にやりたいと思うのは、愛のある方。その愛情を最大限に出して、どういう接し方が子どもに対してできるのかを一緒に考えていきたいですね。そして、どんどんキャパを広げていきたい。

今僕がやっているオンライン授業は、本来学校の勉強としてできるのが一番だと思っています。でも、学校という組織を変えていくことは難しい。これは、全国の学校現場で戦っている同志と話す中で感じたことです。

大切にしているのは個々のエモーショナルな部分。気持ちや弱さを見てあげたい。集団で20人くらいに対して授業をしたらきっと大規模にはしやすいと思うけど、僕は多分そのやり方を好きにはなれないと思うんですよね。学校とは相互にネットワークみたいに繋がって、子ども達はそれぞれの良いとこ取りが出来たらいいなと思っています。そういう世の中にしたいですね」

最後に、なぜ教育にそこまで情熱を注ぐのか、その理由を伺いました。

「子どもに限らず、相手が感じているモヤモヤした霧がパッと晴れる瞬間が好きなんです。そのお手伝いが出来た時に、喜びを感じますね。ただ、それを見ているだけだと嫌なんです。自分自身もそういう瞬間を感じたくなりますね。だから、僕も変わり続けていないと全然ハッピーでいられないな、という感覚があります。だから、動き続けるしかないかな。止まれないですね(笑)」

ー 和麿さん、ありがとうございました!

偶然にも、インタビューをした数日後にクラウドファウンディングを開始。
https://camp-fire.jp/projects/view/257395

和麿さんが手にしたお金は、きっと、多くの子ども達の好奇心を刺激する学びへと変化します。

インタビュー後記もご覧ください。

最後までお読みいただきありがとうございます(*´-`) また覗きに来てください。