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『スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話』フランス映画

1990年代から実在する、自閉症の若者たちに生活の場を提供するフランスの施設「Le silence des justes」の活動と危機を基に作られた映画。

世界的に有名な俳優ヴァンサン・カッセルが施設を運営する主人公ブリュノを演じ、社会で働けずにいる若者たちに職業訓練の場を与える団体を組織し、施設にスタッフを派遣している、ブリュノの友人であるマリク役を、これまた著名だという俳優レダ・カテブが演じた。

自閉症の子ども・若者たちの役は、自身がそうである人が映画制作チームとワークショップを行ったり、自閉症の家族がいる人がオーディションを受けに来たりして、演技は素人だった人たちが務めた。

公的機関が見放して対応しない重度の人たちを赤字経営で受け入れ、その親たちや医療・福祉・法律関係者から頼りにされているのに、ある日、国の役人(官僚)がやって来て、無認可で危険で無責任だからと施設を閉じるよう迫る。

その危機は回避されるが、だからやっぱり民間にやらせておけばいいということではもちろんなく、本来は公的機関が税金を使って行うべき。フランスでも日本でも。

移民国家(と言っていいと思われる)フランスでその仕事を国の代わりに担っている人たちが、ユダヤ教徒やイスラム教徒というのも、なんだか示唆的だ。

赤字で、多忙過ぎて休む間もなく、人の命を預かっているから一時も気が休まらず、自身が暴力を受けることもある。当然、誰もができることではない。なぜ彼らはするのか?と思うが、子どもたちが前向きに元気になり、できることが増え、保護者から感謝されている場面を見ると、そういうことなのかなあと思う。

その最たるハイライトが、自閉症の子ども・若者たちが発表会でダンスを踊る場面だ。信頼して人に触れ、周囲や内なる声に耳を傾け、それに体を任せて動く姿は美しい。泣いた。

おそらく、自閉症の少年ヴァランタンの視界を再現していると思われるぼんやりと処理した画面が何度か現れる。知覚や認識に特徴があって、困難が生じていることを表現しているのだろう。

自分や家族がそういう状態だったらと想像すると、他人事とは思えない。また、今は違っても、将来、自己や病気で困難を抱えることになるかもしれない。それもあって、優しく忍耐強いブリュノたちの姿を見ていると、感謝と涙がこみ上げる。

作品情報

2019年フランス/114分
原題:Hors normes
配給:ギャガ

監督・脚本:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ

出演
ブリュノ役:ヴァンサン・カッセル
マリク役:レダ・カテブ


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