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映画『レ・ミゼラブル』ラジ・リ監督:「移民問題」とは?テロや暴動はなぜ起こるのか?

ヴィクトル・ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』の舞台で、現在は「移民」が多く住み、犯罪が多発する、パリ郊外のモンフェルメイユ。同地で育ち、今も住みながら、その地の人々を捉えたドキュメンタリーを撮ってきた監督による初長編作品。

2019年の第72回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。第92回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネート。

前妻がモンフェルメイユに異動になり、同居している子どもに会いに行けるように、同じ地区へ異動してきた警察官は、昼間に見回りをする二人組と仕事をすることになる。

職権乱用で少女を触り、むやみに怒鳴り、「移民」たちを「取り締まり」の対象として下に見て、各グループのリーダーと話しに行き、危ういバランスを取ろうとする同僚たちにうんざりする警察官。

ある事件をきっかけに、事態は悲劇的に悪化していく。

映画の公式サイトによると、監督は事実を基にこの映画を作ったそうだ。幻想の中の「フランス」っぽさを演出したフランス映画ではなく、同国の現実を映した傑作。

冒頭では、サッカーのワールドカップでのフランスの勝利が描かれる。人種にかかわらず「一体」となったように見える国民たち。しかし、決して「一体」とはさせてもらえない人々がいる。「移民」や、その子、孫たちだ。

事件や作品全体の鍵を握る少年イッサは、最初の方で、警察署で父親に泥棒とののしられ、その後、休暇でアフリカに行ったときに遭遇したエピソードを「トラウマ」として友人たちに語り、うそだと一蹴される。盗みを働いた人が周りの人々に非難され、焼き殺されたという、彼の話は、ストーリーの伏線になっているのかもしれない。

それぞれ立場は違っても、同じように自分たちの都合ばかりを優先する大人たちに、子どもたちの怒りが爆発する。最後のイッサの表情を忘れることができない。

ラストで選択を突き付けられるのは、観客だ。きれいごとでは済まされない、生きるか死ぬか、何を守るのか、何を生きる上での軸とするのか、が問われている。

「乱暴な移民は怖い」「犯罪はいけない」「暴動やテロは許せない」。そう思うのは止められないし、責められることでもないが、決して人ごとではない。

旅先の異国で、おそらく外国人だからという理由だけで嫌な思いをしたことは何度かある。封じ込めた怒りや悲しみを覚えている。

それでも憎しみまでは生まれなかったが、もし、自分が生まれ育った国で、毎日、一瞬一瞬、ただ肌の色が違う、親が発展途上国から来た、言葉になまりがある、貧しい、といったことが原因で、理不尽な行為を受け続けたとしたら?憎しみを募らせて爆発させる行為に走ることはない、と言いきれるだろうか?

一方で、警察官たちにも家族がいて、人としての生活があって、命がけで仕事をしている。

移民を受け入れ、域内を自由に行き来するというEUの理念と政策が崩れてしまったのは、不満をくすぶらせる状況に人々を追いやってしまっていたのが一因ではないだろうか。これは、「外国人」へのひどい対応や差別が露呈している日本にとっても、無関係ではない。

そして、差別や迫害をする側も、経済的にも精神的にも「余裕がない」生活を強いられている場合もあるのだろう。

小説『レ・ミゼラブル』が描いたのは200年ほど前のフランスだが、現在の世界でも別の形で闘いが続いている。人間の真価が問われる闘いが。

作品情報

2019年製作/104分/G/フランス
原題:Les miserables

監督:ラジ・リ
脚本:ラジ・リ、ジョルダーノ・ジェデルリーニ、アレクシス・マネンティ
撮影:ジュリアン・プパール
編集:フローラ・ボルピエール
音楽:ピンク・ノイズ

出演:
ダミアン・ボナール(ステファン役)
アレクシス・マネンティ(クリス役)
ジェブリル・ゾンガ(グワダ役)
イッサ・ペリカ(イッサ役)
アル=ハサン・リ(バズ役)
スティーブ・ティアンチュー(「市長」役)
ジャンヌ・バリバール(警察署長役)
アルマミ・カヌーテ
ニザール・ベン・ファトゥマ


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