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仮想定規の小劇場ミュージカル「After Ever Happily Ever After」:私が書くあなたと私の物語

多彩・多才なメンバーがオリジナル楽曲で歌って踊るミュージカル公演を行う演劇集団「仮想定規」の本公演「After Ever Happily Ever After」。子どものときに出合った童話の「その後」はどうなったのか?観客は、懐かしくも見知らぬ、しかしやはりどこか覚えのある登場人物たちに再会する。

仮想定規は2016年に活動を開始し、青木砂織氏が演出・脚本・美術など、ほんだまこと氏が音楽を担当している。これまでに、イギリス・スコットランドのエジンバラで海外公演も行った。本作も、2020年3月にアメリカ・ニューヨーク公演を予定している。

50人に満たない観客席に、壁も天井も真っ黒な舞台。つるしてあるのは、何冊かの本だ。舞台の床に置いてあった、舞台の正面(垂れ幕のある部分)を模したようなものが、冒頭、2人の役者によって、立てて設置される。それは縦糸が張ってあるようになっていて、その隙間から手が出てきたり、役者が出てきたりする。

言葉でうまく表現できないのだが、この大道具や、役者が手にしたり身に着けたりしている小道具などの美術が素晴らしい。

舞台に現れたのは、『赤ずきんちゃん』『白雪姫』『ピーターパン』『ピノキオ』など、有名な童話や児童文学の「主役」「準主役」「脇役」たち。しかし、私たちがイメージするよりも年を取っていたり、超絶美人というほどでもなかったり、どこか様子がおかしい。

聞けば、ピーターパンが奪われた影を、ウェンディがピーターパンに縫い付けてあげるときに、間違えて別の影を縫い付けてしまったことで、悪い影が物語の世界を支配しようとしているらしい。

どうやら、昔読んだきりでその後再び本を開こうとしない、読者である「私たち」=観客にも、この事態に対する責任があるかのようなほのめかしがなされる。

登場人物たちは、影から世界を、子どもたちを解放しようと、動き出す。

劇の後半は、何通りかの結末が用意されており、毎回、選ばれた観客の一人が、役者が本をめくっている間に「そこ」と指定したページに挟まれたしおりに書かれている文字によって、どの結末になるかが決まる、という趣向。

私が見た回は「H」の結末となった。なかなかハードなストーリーで、頑張って涙をこらえなければならなかった。

音楽もとても良くて、中盤の「イマジネーション~♪」という歌詞の歌で、手話をしながら歌い踊る場面では、なぜか急に泣けてきた。なぜなのかはよく分からない。

後半に本格的に登場する青木砂織氏の演技はすさまじく、尋常ではない。あれほどの演技をするには、よほどの毒を知っていなければできないのではないかと思えるのだが、同氏が書く脚本による舞台全体は、暗さもあるが、前向きで健全だ。人間という存在を諦めず、信じたいという強い気持ちが表れているようで、ほっとして、温かい気持ちになる。

役者本人にまつわるエピソードを盛り込んだと思われるせりふもあり、この役者陣だからこそ成り立つ作品になっている。青木氏が言う「言葉は怖いよ」というようなせりふは、ご本人の実感が伴ったものだと思う。

最後には、観客と役者の中間のような存在として舞台を眺めていた役者が舞台に上がり、一人残った影をなぐさめる。ミヒャエル・エンデの児童小説『はてしない物語』は、読んでいると、自分が読者であり、同時に本の中の登場人物であり、さらに書き手(作者)でもあるかのような錯覚に陥るが、この「After Ever Happily Ever After」(めでたしめでたしのその後)にも、そういった効果がある。

1回見ただけでは咀嚼しきれない部分もあるし、結末が毎回違うということで、リピートしたくなる作品だ。

東京・下北沢公演は、残すところ、明日と明後日の11月3日(日)13:00/ 17:00、11月4日(月・祝)15:00。その後、11月27日(水)18:00に岩手公演、2020年3月4日(水)~8日(日)にニューヨーク公演を予定している。

▼公演の詳細▼

公演ちらしのイラストがかわいい。切り抜くと、着せ替え人形になるようだ。

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