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ドキュメンタリー映画『ピナ・バウシュ 夢の教室』アンネ・リンゼル監督

銀座メゾンエルメスのル・ステュディオでの無料の映画上映で鑑賞。ドイツのタンツテアター(ダンス+演劇)の振付家ピナ・バウシュが、ダンスも演劇も本格的には経験のない40人の十代の若者たちと、代表作『コンタクトホーフ』の舞台を、上演に向けて作り上げていく過程を追うドキュメンタリー。

この映画の撮影後、ピナはがんのため68歳で急逝。それを知って見ると、彼女が映画でたばこを吹かしているのが悲しいが、本人の選択ではあるのだろう。

ダンスに参加した若者たちの動機や理由はさまざま。演劇を見るのが好きと知っている学校の先生にすすめられた、自分が何かをやり遂げることができると母親や亡くなった父親に見せたい、少年がバレエダンサーになる映画『リトル・ダンサー』を見てダンスで有名になれるのだと思ったから、いい「出会い」があると思ったから、など。

ボーイフレンド・ガールフレンドがいる、恋愛はしたことない、初恋の彼氏と自分のいとこが浮気していた、移民でイスラム教徒だ、など、背景もいろいろ。

そんな彼らが毎週1回レッスンに集まり、ピナやコーチたちと、そして仲間同士でも信頼し合い、同じ方向を向いて進んでいく。「できない」と言っていたのが、「思い切りやるしかない、やりたい」と変わっていく。

若者たちの、自分を表現することへの戸惑いに共感し、境遇に涙し、強く前向きになっていく姿に勇気づけられる。

高い質を求める振付家でありながら、「本番で失敗してもいい。頑張ったのが大切」と言うピナ。かつて『コンタクトホーフ』で演じ踊ったコーチたちが、レッスンで若者たちにつきっきりで教え、「彼らの踊りを見ると、テクニックはなくても、しょっちゅう泣きそうになる」ともらす。どうしてもつい感動してしまう場面が盛り込まれている。

『コンタクトホーフ』は「男女の愛」を描いた作品であるため、少しずつ人に触れることに慣れさせて、男女の接触があるシーンを作っていく。ドイツでも、人に触れたり触れられたりするのは、慣れないことらしい。

彼らの公演の一部が映画に登場するが、できれば全編ノーカットで見たいくらいだ。ピナ・バウシュが好きな人や、「素人」のダンスや演劇作品の制作やワークショップに興味がある人は必見の映画。

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『ピナ・バウシュ 夢の教室』Dancing Dreams

2010年/ドイツ/89分/カラー/デジタル上映 原題:Tanz Träume

監督:アンネ・リンゼル

撮影監督:ライナー・ホフマン

プロデューサー:ゲアト・ハーグ、アンネ・リンゼル

音楽:ウーヴェ・ドレッシュ、トーマス・ケラー、トビアス・リンゼル、ポール・オベルレ、ティム・ドーンケ

編集:マイク・シュレマー

出演:ピナ・バウシュ、ベネディクト・ビリエ、ジョセフィン=アン・エンディコット

フォトクレジット:© TAG/TRAUM 2010

世界的な舞踏家、ピナ・バウシュのもとに、ダンスも演劇も経験のない40人のティーンエイジャーが集まった。「男女の愛」をテーマにしたピナの代表的演目『コンタクトホーフ』を演じるため、10ヶ月間の無謀とも言える猛特訓が始まる…。志望の動機も様々な少年・少女たち。「できない」「意味がわからない」と、最初はダンスに二の足を踏んでいた彼らも、ピナやコーチたちの指導を受けながら稽古に励み、他者の肌に触れ合い、感情をさらけ出す濃密な時間の中で、動作にキレが生まれ、表情が輝き出し、また彼ら自身も自らの変化に気づき始めてゆく…。2009年6月30日、ピナ・バウシュは68歳でこの世を去る。がんの宣告を受けたわずか5日後のことだった。本作は彼女の生前最後の映像を収めた貴重なドキュメンタリーとなっている。

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