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『OUTSIDE』インバル・ピント、森山未來、モラン・ミラー:隔離後の人間を描いたダンス・演劇映像

日本・東京とイスラエルとで撮影した映像を組み合わせたダンス・演劇作品。出来がよい。約8分。

映像の最後のクレジットを見てやっと気付いたのだが、原作のEtgar Keret著『Outside』は、アメリカの『The New York Times』の「デカメロン・プロジェクト」の中の一作として発表された、短編小説というよりはショート・ショートでも言うべき、皮肉の詰まった小気味よいフィクション作品だ。

読むのにもしかしたら登録が必要かもしれないが無料のはず。英語だが、本当に短いのですぐに読める。著者はイスラエル出身。

「デカメロン・プロジェクト」はもちろん、14世紀イタリアの作家ボッカッチョの連作集『デカメロン』から来ている。この本は、ペストを逃れてフィレンツェのある場所に集まった人々が暇を持て余して互いに物語を語って聞かせるという趣向になっている。タイトルは「10日」という意味だそうだ。

小説『Outside』は新型コロナウイルス感染症対策のために120日間、自宅に隔離状態だった人々が、外出禁止令が解除されてからも外に出てこようとせず、警察と軍隊が市民たちを力ずくで家から出そうとする話だ。

映像作品では、森山未來がいわゆるブラウン管テレビの中にいて、政治家として人々に外出するよう命じる。日本語のせりふを話す(いわば演劇パート)。

そのテレビが置いてある部屋の中で、モラン・ミラーが一人でかなりだるそうに過ごしている。起き上がったものの、今にも眠りこけそうだ。高度な身体の使い方をして踊っているのに、だるそうな様子を醸し出しているのがうまい。

森山未來がブラウン管の中で背広の上着を脱いでノースリーブの服になると、突然、自分が狭い箱の中に閉じ込められているのに気付く。箱の中を上下や重力がないかのように動き回るが(いわばダンスパート)、逃れられないようだ。本人は驚いて威厳を保とうと努めながらも不安そうだ。

モラン・ミラーがいる部屋では、壁が近づいていって部屋が狭くなっていく。彼女が押しつぶされそうになる手前で動きが止まったようで、終わる。

映像の後半のせりふで、原作では最後に書かれている次の文章が印象深い。

There's nothing to be afraid of. It's like riding a bike: The body remembers everything, and the heart that softened while you were alone will harden back up in no time.

実はここの直前では、ヨーロッパなどの街中でもよく見掛ける物乞いの人について、「あなた(読み手、聞き手)はプロ並みに無視できる」と語られている。

つまり、外出を拒んでもいったん外に出てみれば、隔離以前を思い出す、隔離中は心が柔らかくなっていたのに、すぐに隔離前の冷たく硬い心を取り戻すだろう、という皮肉なのだろう。

The body remembers(体が覚えている)という表現が、ダンスの観点から特に面白い。

音楽がかなり好き。美術も演出も、さすが、話題になるコンテンポラリー公演を多く行う彩の国さいたま芸術劇場が関わっているだけあり、凝っている。

期間限定でYouTubeで全編公開中の模様(下にリンクあり)。

作品情報

2020年7月22日(水)14:00より2020年8月31日(月)まで日本先行公開

原作/監督:エトガル・ケレット 『外』
振付/監督:インバル・ピント
ナレーター/俳優/ダンサー:森山未來
ダンサー:モラン・ミラー
音楽:阿部海太郎
翻訳:秋元孝文
主催:イスラエル大使館
協賛:Factory 54
後援:Mishkenot Sha'ananim、Dalia and the late Professor Yossi Prashker、河出書房新社
協力:彩の国さいたま芸術劇場
会場協力:株式会社ワコールアートセンター
Special Thanks:ZAZ10TS, Herzlia Museum, Israeli Opera


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