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ストレスやメンタル不調にも効く!おすすめのコンテンポラリーダンスのワークショップ

「今・ここ」の身体と環境を感じながら踊るコンテンポラリーダンスは、「今・ここ」の自分の状態や周囲の環境を感じ取ることで改善できるストレスやメンタルヘルスの不調にも良い効果をもたらします。最近疲れているかも?というときに行くと、少し体や心が楽になるダンスのワークショップを紹介します。

コンテンポラリーダンスがストレスやメンタルに良い理由

「コンテンポラリーダンスがストレスやメンタル不調に良い効果をもたらす」と書きましたが、「ダンスやその他の芸術活動がメンタルヘルスに良い」ということは、一般的に言われているようです。ただ、その理由として、(例えばジャズダンスなどではなく)特にある種のコンテンポラリーダンスが良いとか、なぜなら認知行動療法に通じるところがあるとかいう記述は、私が調べた限りでは見当たりませんでした。

私はダンサーでもダンスの研究者でもありませんし、精神医学や心理療法の専門家でもありません。しかし、ある種のコンテンポラリーダンスと、マインドフルネスを含む認知行動療法には親和性があると考えています。

コンテンポラリーダンスは「定義」するのがほぼ不可能で、人により捉え方は異なります。しかし、私の理解ではそれは、たとえ振付が決まっていても、踊っている「今・ここ」で生成するものを大切にするダンス、です。現に、コンテンポラリーダンスのワークショップやレッスンでは、その点にフォーカスしたワークが多く取り入れられていると思います。

また、マインドフルネスや認知行動療法では、過去や未来についてあれこれ推測して考え過ぎることはせずに、「今・ここ」の自分の体や心の状態を見つめ、耳を澄まし、それをそのまま受け止めるという手法が取られると捉えています。

そのため、ダンスのワークで、自分の体は今ここがこわばっているとか、呼吸が浅いとか、大きく動けないとか、思いっきり表現できないとか(またはできるとか)、他の人の体や呼吸はどうなっていて、自分はそれをどう受け取るか、または受け取らないか、呼応できるかしないか、周囲の空気はどうなっているか、どんな音が聞こえるか、といったことに注意を向けることは、自分の現状把握やリラックスに役立ちます。

上記は私の実感ですが、下記のような本からもこの実感を補強できると考えています(他にも資料があれば知りたいです)。ダンスだけではなく、お笑いや呼吸法、演劇レッスンの記述からもヒントを得ました。「身体性」において共通点があるからです。

■『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』(乗越たかお著、作品社)より

・「そこへ登場した”暗黒”舞踏は、「どうあがいても日本人の身体でしかない」という逃れようのない事実を突きつけ「日本人の身体だからこそ生まれるダンス」を圧倒的な迫力で提示して見せたのだった。長いこと「みっともない身体」だと思っていた日本人の身体を、舞踏は再発見したのだ。ここでダンスは「本場のダンスに詳しい先生から習う」ものから「自らの身体で探るもの」になった。この価値観の転換こそ、舞踏の革命的な点である。何の訓練もしていない身体にも無限の可能性があることをいきなり示され、日本の若者は、こぞって舞踏の元に走った」(p. 10)

・「勅使河原(三郎[引用者注])のバニョレ国際振付コンクール(58ページ)入賞は、特別な意味を持っていた。それは、西洋が日本人である勅使河原を「自分たちと同じダンスをする者」として認め、評価したということである。これは、後に続く若いダンサーの呪縛を解き放った。もはや「ガイジン(ママ[引用者注])のように踊れる」ことを目指す必要もないのだ。舞踏のように「東洋の身体」を掲げる必要もない。勅使河原は「どこにも属さない、そのかわりそこにある他はない唯一の身体」によって踊らされるものこそがコンテンポラリー・ダンスであることを、身をもって示したのである」(p. 10)

■『ビジネスマン 「うつ」からの脱出』( 楠木 新 著、創元社)より

・(子どものころから好きだったお笑いを見て[引用者注])翌日の朝、昨夜までと異なり、夜中に目覚めず六時までぐっすり眠れる。それは久しぶりの感覚だった。
寝床では、昨日まで全く聞こえなかった鳥の声が耳に入ってくる
(中略)
家を出て、坂をゆっくりと下り駅方面に歩いて行く。小高い丘の木々の間から、やはり小鳥の声が心地よく響く
お腹から笑ったことで初めて夜中に目覚めず、もう習慣化していたようなマイナス思考のループから解放された。顔にあたる春の風が心地よい
これ以降は、一時的に体調がすぐれない時や落ち込むことはあったが、マイナス思考のグルグルした堂々巡りはなくなった。
小学校近くのパン屋に行く。食パンの美味しいことでお評判の店だ。家族用にパンを買って、駅前の小さな池のほとりを歩く。そこから見た、朝もやに包まれた木々の緑の美しさは忘れられない。何か、「大丈夫だ。いけるかもしれない」との感覚があった。(pp. 37-38)

・私の回復のきっかけは、ナンバでのお笑いだったが、もうひとつ私にとって大きな要因は、西野流呼吸法の存在である。
(中略)
稽古は二時間あり、そのうち前半の一時間は、前にいる指導員に従い、足芯呼吸という、足の裏とお臍の少し下にある丹田を意識した呼吸法を行う。これには、いろいろな身体を使ったバリエーションがあって、全身が自然と緩んでくるようになっている。後半の一時間は、指導員と向かい合って一対一で軽く手を合わせ、互いに丹田からエネルギーを出すような感覚で、「対気」という「気の交流」を行う。簡単な組み手のようなものである。
前半は、静かな中で多くの人の呼吸の音だけが広い室内に充満するが、後半の「対気」になると俄然、雰囲気が一変する。指導員との「対気」に反応して、大声を上げて後ろに走り出す人、笑いが止まらない人など、各自独特のパフォーマンスが始まる。部屋の中は、いつも笑いが絶えず、雰囲気は最高である。
(中略)
また、以前から、呼吸法を行った夜はいつもぐっすりとよく眠れた。多かれ少なかれ、管理社会の中で身体が固くなりがちなビジネスマンにとっては、このような身体をほぐして緩める機会はたいへん大切だと思う。
呼吸法をするのは、自我の境い目を緩くし、固定化した自我から生じた緊張感をとりやすくして、「自分を再編集する作業」でもあるのだろう。そういう身体を伴った感覚というのは本当に大切である。(pp. 75-76)

※p. 77には、この西野流呼吸法の考案者である西野皓三のプロフィールが、西野著『「生命力」を育てる―人間の正体 その精髄に迫る』(クレスト社)から掲載されている。それによると、医学部在学中に宝塚歌劇団に入団、ニューヨークのメトロポリタン・オペラ・バレエ・スクールに留学、西野バレエ団設立、武道を経て西野流呼吸法を創始、合気道と中国拳法師範。

・今回、私が「笑い」と「呼吸法」によって体調回復が促進されたのは、自分では単なる偶然ではないと思っている。「呼吸法」は、部屋で一人でやるよりも、稽古場でみんなと一緒に稽古した時のほうが効果は大きい。これは、身体と身体が結びついて、何かをやっているという感覚が大事なのだと思う。たとえば、野球のキャッチボールをしている時に、投げたボールのやりとりが元気を増幅していくのと同じだ。
私たちビジネスマンは、とかく自分の身体を無視して、表層意識による言語的な「頭での理解」に傾きがちである。しかし、本当は五感を使い切った「身体的なイメージ」が大切で、呼吸法の「対気」では、それを感じることができる。呼吸法の参加者は身体性、共同性のイメージを持つことにより、心身のズレが修正される。
一方、人間が笑い合うとその場に統合がもたらされ、共同性が回復する。一人でも泣いたり怒ることはできるが、一人きりでは笑えない。きっと心からの笑顔は「伝染」するのだ。私が、漫才の「笑い」に触れることで、懐かしい商店街の人々が現れたのは偶然とは思えない。きっと身体性と共同性は、実は一体のものなのだろう。
(中略)
そのわれわれの身体性、共同体のイメージが損なわれた時に、人間は孤独になり、苦しむのかもしれない。(pp. 77-78)

・考えてみれば、今まで「顧客志向」や「生活実感」という言葉に何度出合ったことだろう。(中略)会社以外の場にも足を踏み入れて、生活実感も多く持とうと努めてきたつもりだった。でも、やはり自己満足の域を出ていなかった。(中略)視野も狭くなり自分のリズムを崩してしまった。(中略)生活というのが眼前とあることを改めて感じさせられる。毎日の残業で家族そろっての夕食もとらず、週末に一人でゴルフに出かけるような人には、家族と一緒に生活を楽しむ顧客の心理を理解できるはずもない。自分の生活や心の中の感情を大切にすることを、もう一度振り返ってみる時期が来たのかもしれない。(p. 94)

・私の場合は、自分の好きな「お笑い」にどっぷり浸ることで救われた。小さい頃からの好きなことに、もう一度取り組んでみることは大事ではないかと思う。
一般の書物では、治療は「薬の服用と休養」というが、患者側が主体的にやるべきことがあることを、見逃してはいけないと思う。(p. 166)

・また、歩くことも「うつ」にとって大切だ。静止した状態では、どうしても身体を使った思考ができずに、時として空論の堂々めぐりになってしまう。そういう時は、いつもよいことを考えないものだ。(p. 167)

・元気を失ったビジネス社会の現状を打開する一つの手立ては、効率、機能を重視するなかで排除されてきた、生活レベルの感動や感受性を取り戻す作業を行うことではないだろうか。(p. 190)

■竹内敏晴 著の本:『からだ・演劇・教育』(岩波書店)、『竹内レッスン―ライヴ・アット大阪』(春風社)、『生きることのレッスン―内発するからだ、目覚めるいのち』(トランスビュー)

■伊藤絵美 著の本:『ケアする人も楽になる マインドフルネス&スキーマ療法 BOOK1』『つらいと言えない人がマインドフルネスとスキーマ療法をやってみた。』(医学書院)、『折れない心がメモ1枚でできる コーピングのやさしい教科書』(宝島社)など

・マインドフルネスのワークとして紹介されている「レーズン(またはチョコレート)エクササイズ」「触るワーク」「香りのワーク」「聞くワーク」「呼吸のワーク」「ボディスキャン」や「歩くマインドフルネス」などは、やり方は少し違っても、コンセプトはほぼそのままに、コンテンポラリーダンスや演劇のワークショップで行われるものもある。それほど、マインドフルネスとコンテンポラリーダンスには通じるところがあると思う。

頭・思考から体・感覚へという身体性の回復と、属性を取り払った人間同士の信頼の回復

上記の本『ビジネスマン 「うつ」からの脱出』の引用で、笑いや呼吸法について、「身体性と共同性」が語られています。

ダンスでも、例えば、うつで思考が悪い方へと引っ張られる脳の状態になってしまっているとき、体や感覚に注意を向けることで、思考の悪循環から脱出できるという効果があると思います。

また、コンテンポラリーダンスのワークショップでは、(嫌な場合は、そう伝えて、しないこともできますが)他の参加者と触れ合ったり、一緒に動きを作ったりすることがあります。その際、社会で普段担っている役割は関係なく、ダンス経験の有無さえあまり関係がなくなることもあり、ただあるがままの体がある人間同士の関わりになります。そこから、ストレスやメンタル不調で生じていた他者への不信感や疑惑などが、いきなり払拭とまではいかなくても、薄まることがあると思います。

コンテンポラリーダンスには、自分の身体性と、人への信頼性を回復する力もあるのです。

五感を取り戻し、周囲の状況や変化に気付く

上記の本の引用にも見られるように、五感の感覚を研ぎ澄まし、周囲の人々の様子や自然やその他のものの変化などに気付けることは、ダンスにおいても、ストレスの軽減においても、重要です。

そのため、ダンスでそのような感覚を取り戻し、獲得していくことが、メンタルヘルスにも良い効果をもたらします。

ワークショップではどんなことをするの?ダンス経験がなくても大丈夫?

初心者・未経験者OKで、単発(1回ずつ)で受講できるコンテンポラリーダンスのワークショップは、少なくとも東京にはいろいろあります。

残念ながら、東京以外の状況は分からないのですが、東京以外の場所でのそうしたワークショップの開催をネットで見掛けることはあります。ただ、地方でも主に都市に限られてはしまうかもしれません。

初心者・未経験者OKのワークショップでは、ストレッチや歩く・止まるといった簡単な動きから始まり、単純なルールで動きを作っていったり、言葉やテーマからグループで動きを作ったり、短いフレーズ(一連の動き)をみんなでやってみたりすることが多いです。

体の感覚を確かめるように触れ合ったりすることもあります。また、体の接触から動きを作っていくコンタクト(またはコンタクト・インプロヴィゼーション)という手法を実践するものもあります。

初心者・未経験者OKのクラスには、実はダンス経験が豊富な人やダンサーとして活動する人が参加していることも多々あります。それでも、初めての人もベテランの人もそれぞれ気付きがあり、一緒に動けたりするのが、コンテンポラリーダンスのワークショップの面白いところです(例えばクラシックバレエのクラスでは、未経験者とベテランが一緒に参加するということはほとんどありませんよね)。

ワークショップ参加におすすめのダンサー・振付家

上記のようなことが行われる、初心者・未経験者も参加可能な、そして私がメンタルヘルスやストレスにも良い効果があると(勝手に)考えているワークショップをしているダンサー・振付家を紹介します。

振付を覚えるのが私は苦手なため、動きを覚えられなくても楽しめるものが中心になっています。

他にも良さそうと思っている人はいるので、参加して実際に良かったら、随時追加していきます。

なお、単に「初心者にも良いコンテンポラリーダンスのワークショップ」は、他にもあります。

青木尚哉
スタジオアーキタンツなどで最近は定期的に開催。「目」にフォーカスする、など、多くの気付きを得られる。実はかなり高度なことを、実践しやすいレベルに落とし込んでくれている。

池田扶美代
普段はおそらくヨーロッパ在住で、スタジオアーキタンツなどでたまにワークショップを開催。他の参加者の体に触れ、触れられる「ボディスキャニング」は、まさにマインドフルネス的。

岩渕貞太
studio RADA(スタジオラダ)では基本的に毎週土曜に開講。新たな感覚が開いていくような不思議な体験ができる。ちょっと魔術みたいに思えるときも(!)

黒田育世
初心者向けのワークショップを行うことはまれなようなので、機会があれば参加してみることをおすすめする。私が参加できたのは、舞踏やコミュニティダンスのワークを取り入れたもので、良かった。主宰するBATIKのサイトに開催情報が載るかも?

小池博史
定期的に単発のワークショップを行っているわけではなく、公演の関連イベントとして数日間のワークショップとミニ発表を行う場合などがある。素人の参加者からも短期間で個性を引き出し、パフォーマンスの創作へと持っていく手腕が見事。がっつり参加したいなら、夏合宿や、「学校」形式の「パパ・タラフマラ舞台芸術研究所(P.A.I.)」もある。

手代木 花野
studio RADA(スタジオラダ)で月1回開催。接触することから動いていくコンタクトのワークショップ。初心者には結構大変なことをすることもあるが、無理しない範囲で参加すれば大丈夫。冒頭にペアで相手の体を触るワークはリラックス効果があり、眠りそうになることも。

向 雲太郎
不定期に時折開催するようだ。舞踏と聞くと、白塗りで怖いイメージがあるかもしれないが、怖くはない(笑)。ゆらゆらと程よく力を抜きながら、丹田などに力を込め、感覚が鋭くなるかも。

(※名前の50音順、敬称略)

メンタルヘルスの維持・回復プログラムに、コンテンポラリーダンスのワークショップを取り入れては?

うつなどのメンタル不調による症状は、休息や投薬、そして場合によっては認知行動療法などにより緩和が目指されます。また、回復してきて復職を目指す人のためのリワーク・プログラムというものが行われることもあります。

メンタル不調からの回復や、ストレスへの耐性を強めるには、(ある程度調子が上向いてきてからは)能動的に自分の体や心にアプローチしていくことも大切だと思います。

その際に、ここで紹介したようなコンテンポラリーダンスのワークショップは有効だと考えています。

だから、コンテンポラリーダンスのワークショップを取り入れた、良好なメンタルヘルスやストレス対策のためのプログラムがあればいいなあと思うのですが、どうでしょう?

すでに実践例も、もしかしたらあるのかもしれません。

単に「ダンスで体を動かして表現することは心身に良い」というだけでなく、「マインドフルネス、認知行動療法的な観点から、ある種のコンテンポラリーダンスの実践が効果的だ」、という視点を生かしたプログラムができたらと考えています。

セレノグラフィカ(隅地 茉歩+阿比留 修一)さんが京都で、無職の(就業を希望する)成人向けに行っているという「じぶんみがきダンス」にはそういう要素があるのかもしれないと、気になっています(私はセレノグラフィカのワークショップにはまだ参加したことがないのですが)。

※トップ画像は、PexelsJackson David による写真。

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