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【長編小説】さよならが言えたら#5

【時代背景】
江戸時代後期ごろ。(現代ではありません。また、歴史に基づいた物語ではないので、時代だけ頭に入れていただけるとすんなり読めるかと思います)

【キャラクター説明】
[桜空]
15歳。一年前の夏祭りの日、事件に巻き込まれて両親を亡くす。近藤に引き取られ彼の営む剣術道場で暮らすようになる。
[総司]19歳。近藤の剣術道場に居候している。
[近藤]剣術道場を営んでいる。
[すみれ]近藤の妻。医療担当。
[敬助・三哉]
桜空と総司の友達。近藤の剣術道場に通っている。

[あらすじ]
 総司と夏祭りに来ていた桜空。しかし、途中で総司とはぐれてしまう。場所を分担し、敬助、三哉とともに総司を探している桜空。そんな桜空の脳内には、過去の記憶がちらついていた。

[本文]

 この先に総司さんがいる、そう直感した。
 もう間もなく、道場に到着する。
 先ほどよりも速度を上げて、走る。
 月が、雲に隠れて足元がより見えなくなってきた。
 時折、自分がどこに向かっているのかわからなくなる。
 真っ暗で何も見えないような暗闇を、走って、その先に、本当に総司さんがいるのか。恐ろしくなって、心細くなる。
 道場に到着した。
 引き戸に手をかける。
 風が止まった。
 かけた右手が震えだす。また耳鳴りがして、追いやったはずの記憶が舞い戻ってくる。
 うきうきして、ワクワクして、そんな感情で家の扉を開いたあの瞬間。
 忘れることができないそのあとの光景。
 今でもたまに思い出してしまう。
 もし、この扉を開いたら、道場のみんなが血だらけで倒れていたら。
 今度は記憶を追い出せそうになくて、唇をかむ。
 そのまま、意を決して扉を開いた。
 腕に力が入っていたようで、思いのほか大きな音を立てて扉が開いた。
 広い道場に木と木がぶつかる音がこだまする。
 縁側の障子が全開になっていて、再び吹き始めた生温かい風が、道場に吹き込む。
 ぞわりと鳥肌が立ち、嫌な感覚を覚える。
 ぎしぎしと音の鳴る床に、足を踏み入れる。
「だあれぇ?」
 一瞬、金縛りにあったように体が凍りつく。体が動かないのはこのためかと思うほどに頭の中がとてつもないスピードで回転し、刹那の間に百も二百も考え事が飛び交う。
「何か用かしらぁ?」
 ねちっこい、絡みついて離れない蛇のような、女性の声。頭の中で、聞いたことのある声に検索をかける。結論は、知らない人の声。
 強い風が吹いて、雲が切れ始める。
 銀に輝く満月が姿を現した。
 月の光が照らしだしたのは、一人の女性の姿だった。漆黒に輝く長髪、藤の花をそのまま閉じ込めたかのような淡い紫色の小袖を身にまとった女性。
しかし、その瞬間、戦慄する。

[告知]
次回!
 道場にいた、知らない女性。彼女の正体は!?
 そして、総司の行方は。
 さよならが言えたら#6 お楽しみに!

そして今さらなのですが…
この物語、時代設定は江戸後期のつもりです。ですので、携帯もなく現代とはかけ離れた部分があります。しかし、現代の言葉や現代のものなど、時代錯誤なものが出て来ますが、目を瞑っていただけると幸いです

私のミスでした。申し訳ありません。
これからも
【さよならが言えたら】
蜜焚りな 
をよろしくお願いします。


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