いぶりがっこ

帰省から戻った先輩が、お土産をくれた。おまえこういうの好きだろう、と渡してくれのはいぶりがっこだ。
「食べたことないんですよ」
「美味いよ。きっと気にいる」
先輩は勝手に台所に立つと、ザクザクと切り、その辺の皿に乗せて持ってきた。
「コップどこ?」
いぶりがっこ食うのにコップいるんですか?
僕は意味が一瞬、わからなかった。そういえば、と思って先輩の持ってきた荷物を見ると酒の五合瓶。ああそうか。

コップに半分くらい酒を注ぐ。これも地元の酒なんだそうだ。先輩はこれがいいんだ、とコップ片手に満足そうだ。

口の中に入れたいぶりがっこはなんとなく煙の味がして、ん、と思うのだけど、作りかたをそういえばこの前のテレビで見たな、と思い出し、納得して食べ進める。
ごはんほしいな。
とはいえ、もう晩飯は食べてしまったし、そのままにするのももったいないし、なんとなくクセになるし。結局そればかり食べているという状態になってしまった。

たまに地元のもの食べないとな。自分がどこの人間かわからなくならないか?
先輩の言うことは実はわからない。それは少しだけ飲んだ日本酒のせいかもしれないし、眠気のせいかもしれないし。
「そんなもんですかね」
「お前そういうのなさそうだよな。流浪の民みたい」

よけいなお世話だと思いつつ、帰省できて、地元のものを食べたいと思う先輩が羨ましかった。

確かに地元の漬物と酒なんて大人にはいちばん地元を思い起こすものかもしれない。自分にはそういうものはないのだけれど。
「なんか他にないか?」
これあるからいいじゃないですか。そう思ったが、つまみが一つしかないことに飽きてきたらしい先輩は、僕をなにか出せと言っている。
なんかあったかなあ。
僕は台所に行くと、戸棚をゴソゴソやって、実家から送らてきたものがなにかないか、探しはじめた。

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