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高EQで心理的安全性のある環境で話せるということ LITALICO研究所OPEN LAB#6 スカラーシップ生レポート

社会的マイノリティに関する「知」の共有と深化を目的とした、未来構想プログラム「LITALICO研究所OPEN LAB」

12月16日に第6回講義 障害者雇用の現在と未来 – 「自分らしさ」と市場経済のはざまで を開催しました。

以下では、同講義の「スカラーシップ生」によるレポートを掲載します。

OPEN LABスカラーシップ生とは
・障害や病気、経済的な困難さがあり、参加費のお支払いが難しい方
・本講義に対する学びの意欲が高く、明確な目的を持って参加できる方
を対象にした、公募・選抜制での参加枠による受講生です。スカラーシップ生は、同講義に無料で参加(遠方の場合は交通費を一定額まで支援)、講義終了後に「受講レポート」を執筆します。

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このたびは、スカラシップ枠で受講させていただき、誠にありがとうございます。

私は発達障害当事者で、フリーで取材・執筆・翻訳をしています。受講して感じたことを執筆することでOPEN LABの活動認知や障害者が活躍できる社会に貢献したいと思います。

LITALICOの昆野さんとは面識はありませんでしたが、LITALICOワークスを見学したり、支援員への取材をしたりした経験はあります。グリービジネスオペレーションズのことはNHKの報道などで見聞きしており、大変評価の高い特例子会社ということで、ぜひ福田さんに詳しいお話を聞いてみたいと思っていました。セールスフォースの松浦さんはSNSで盛んに発信されていることで知っていました(時には驚かされるような活動も発信されています)。この3人のお話を聞けてとても良かったです。

いま、障害者の採用や定着に関わる人事や支援機関は健常者であることがほとんどです。昆野さんや松浦さんのような、健常者には気付きにくい障害当事者ならではの気付きを仕事に反映させていける人が増えたら、より障害者雇用やダイバーシティマネジメントの精度は高くなっていくでしょう。まさに、この講義のタイトルにもなっている、自分らしさ(当事者の視点)を経済性(仕事)にフィットさせるということです。

【「LITALICO仕事ナビ」営業部マネージャー・昆野祐太さん(上肢障害)】

昆野さんのエピソードで、「健常者に負けたくない」という思いでは持続しないこと、「障害」だけがその人を構成するわけではないこと、ビジョンに向かって仕事をすることの大切さに共感します。「支援者としては、既存の障害者雇用を当たり前とするのではなく、本人の個性を経済性に導ける支援者になろうと模索する姿勢、企業や社会にも変化を促そうとしている」と言っていたところも興味深かったです。

正直、既存の障害者雇用枠でも、どうしてもはまらない人もいる、という疑問がありました。例えば障害者雇用で多数派の事務や軽作業には関心が向かず長続きしないが、ある秀でた特技を持っている人、何かの考えを強く持つ人など。そのような人の受け皿となるような支援の多様化がほしいです。昆野さんがそれを一層実践していっていただけることと期待します。

【グリービジネスオペレーションズ代表取締役社長・福田智史さん】

企業には「現場にいかにして障害者雇用を理解してもらうか」ということで困っている人が多いなか、福田さんはそれをよく実践されています。

障害者雇用は社会貢献であり損得勘定を持ち込むのは良くないという空気がまだまだあります。ですが、このことが義務感の取り組みにつながり弊害も生んでいるのでは、と感じていました。グリービジネスオペレーションズでは、ゲーム会社ということでゲームへの興味を活かせる仕事を作り出すことや、従業員と中身のあるコミュニケーションを取ることや、決算報告を行うなど、従業員が本社との一体感や貢献感を持ちやすくする仕掛けが色々されています。特例子会社については様々な意見がありますが、グリービジネスオペレーションズは発達障害者を活かすインキュベーションセンターとしての役割を果たしており、他の企業が参考にすべき点が多いと思います。

【セールスフォース・ドットコム 障害者採用専任・松浦杢太郎さん(先天性小耳症、重度のアトピー性皮膚炎、ASD/ADHD)】

セールスフォースは急成長中の米国発グローバルIT企業で、大手転職会社による「働き甲斐のある会社」ランキングで頻繁に上位になるなど大変評価が高い企業です。

松浦さんは、障害者の外資就労を日本企業では得にくい収入や働き甲斐や人間関係が得られやすいメリットと捉えてアピールし、一方で従来の外資になかった就労定着支援との連携やミーティングを通してのコミュニケーションにより脱落者を出さないようにする取り組みなどにコミットメントしていると感じました。

外資系企業には女性・外国人・LGBTと同様に障害者のインクルージョンでも牽引する存在であってほしいものですが、残念ながら現状はそうなっているとは言えません。いま世界のグローバル企業の90%がダイバーシティを掲げていますが、そのうち障害者のインクルージョンが伴っている企業は4%しかないといわれ、海外ではそれを変えていこうという動き(国際障害者運動Valuable500)が始まったばかりです(セールスフォースもその賛同企業に入っています)。

外資系企業の日本法人には中小企業規模で回しているところも多く、それこそダイバーシティや差別禁止を対外発信しながら、実態は短期間での高パフォーマンスを求めることに比重を置き過ぎた弊害で健常者でも生き残るためのプレッシャーが非常に大きく、障害者だからといって特別扱いしないといって定着への配慮がされておらず最悪の結果となっている企業(当然法定雇用率は万年未達)もまだまだあります。こうしたことから、障害者が「とてもついていけそうにない」と考えがちになっていたり、家族が難色を示しがちになっていたりすることがあります。松浦さんのように、外資系企業でも障害者雇用が盛り上がっていくための牽引役となってくれる人が増えれば、企業の意識も次第に変わっていくのでは、と思います。

【全体を通して】

講義には、松浦さんも話していたような「EQ(心の知能指数)が高い人」が集まっていて、当事者、企業、支援者、それぞれにとって良い場になったと思います。EQが高い人は障害者雇用に限らず、人を大切にする持続可能なマネジメントとは何か、エンゲージメントとは何か、ということを真に理解し実践しやすいと考えられます。

他の障害当事者の参加者が、質疑応答で本音ベースでの質問を積極的にしていたのも良かったです。

「就職活動への文句は就職してから」という意見もあるでしょう。しかしそうした意見に従ってばかりいては、短期的には企業の意向に合わせた就職が叶っても、長期的には定着や自分らしい人生につながらないのではないでしょうか。

確かに、就職に向けて、障害者が何も変わらなくていいとは思いません。しかしベストな生産性を出すために働きやすい環境を求めることはそんなに非難されるようなことでしょうか。特に障害者は健常者より不利な立場にあります。それを仕方がないといって何も言わず・感じずにいるのでは、自分達の立場は良くなっていきません。この講義では、声を上げることで不利にならないという心理的安全性が実現されていると感じました。

発達障害者の将来は、確実に活かす方向に向かっていると感じました。この流れは私達の想像している以上に速く進んでおり、これに乗っていかないわけにはいかないです。私も、自己理解を大切にし、使えるリソース(資源)を増やして行動していこうと思います。

一方で、それでも働く機会のない重度障害者や地方の障害者はどうしていくのかという課題も見えました。

今後もこのような学びの場に身を置き、そこで感じたことを外に発信して周囲に影響を与え、違いを活かせる社会作りに貢献していきたいです。

OPEN LABやLITALICO研究所には、今後も良い学びの場を作り出してくれることを期待しています。ありがとうございました。

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LITALICO研究所OPEN LAB#6 スカラーシップ生
長谷ゆう

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プロフィール:
・兵庫県神戸市生まれ、転勤で日本各地を移り、神戸市に落ち着く
・神戸市外国語大学在学中に広汎性発達障害の診断を受ける
・発達障害の特性と周囲との間にある問題から生きづらさを抱えてきたが、富士登山や60キロマラソンに成功し、挑戦やダイバーシティの価値を信じるように
・外資系通信社でニュース翻訳やダイバーシティ推進に携わった
・現在はフリーでビジネス、ダイバーシティを中心に取材・執筆・翻訳。いずれも障害者インクルージョンをテーマにした『Coco-Life☆女子部』『ミルマガジン』などでも執筆。
・ブログ「艶やかに派手やかに」
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LITALICO研究所OPEN LAB


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第9回 それぞれの孤独を携えて、私とあなたが隣に「居る」こと

食事をする、仕事をする、恋をする、式をあげる…何かを「する」ことで得られる日常のささやかな喜び。

その裏側でそれぞれが抱える痛みと孤独。

「わかりあえる」という期待と「わかりあえない」という諦め。

決して重なりきらない別々の人生を生きる私たちが、それでも共に「居る」ということ。

LITALICO研究所OPEN LAB、シリーズ最後の講義です。

ゲスト
家入一真さん 株式会社CAMPFIRE 代表取締役CEO
尾角光美さん 一般社団法人リヴオン代表理事
東畑開人さん 十文字学園女子大学准教授

2020年3月24日(火) 19:30〜22:00 

次回講義は、完全オンライン配信での実施となります。

チケット販売サイトPeatixよりチケットをお求めください。



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