見出し画像

当事者が求めることのヒント LITALICO研究所OPEN LAB#9 スカラーシップ生レポート

社会的マイノリティに関する「知」の共有と深化を目的とした、未来構想プログラム「LITALICO研究所OPEN LAB」

さまざまな分野で活躍する当事者・専門家・起業家の方々を講師としてお招きし、社会的マイノリティ領域の歴史や課題、解決策、そして未来のビジョンを探求しています。

2019年7月〜2020年3月まで、初年度全9回の講義を実施しました。

以下では、同講義の「スカラーシップ生」による第9回講義のレポートを掲載します。

OPEN LABスカラーシップ生とは
・障害や病気、経済的な困難さがあり、参加費のお支払いが難しい方
・本講義に対する学びの意欲が高く、明確な目的を持って参加できる方
を対象にした、公募・選抜制での参加枠による受講生です。スカラーシップ生は、同講義に無料で参加(遠方の場合は交通費を一定額まで支援)、講義終了後に「受講レポート」を執筆します。

第9回講義 それぞれの孤独を携えて、私とあなたが隣に「居る」こと

====


今年度最終回、第9回講義もスカラーシップ生として聴講。

冒頭の説明にあった、「解決では済まないこと」。

私の周りには、多くの「精神面での生きづらさ」を抱えて生きている人が多い。というよりは、私自身が「精神面で生きづらさ」を抱えており、どう生きていくことで「生きやすさ」に変えていけるかを多くの「仲間」と共有している。

しかし、「当事者会」と私の所属する「YPS・横浜ピアスタッフ協会」との大きな違いは、「当事者」のみならず、「支援者」「両社の資質を持った者」「研究者」等もメンバーとして名を連ねているユニークすぎる点であろう。

多くの当事者にとっての生きづらさの一つ、いや最もと言っていい大きな課題は「解決できないこと」ではないだろうか。

言語化しようにも語彙を持っていない、何かをしたくても精神面ストップをかける、相談してもヒントだけで具体的な解決を得られない。特に、言語化ができない理由としての「持っている語彙が少ない」については、精神科の初診の際に顕著である。

体温や咳、のどの痛み等、ある程度の可視化な現象から状態を自他ともに把握できる根拠が、精神医療の現場では医師の一方的な判断に委ねられることがほとんどである。症状の確認についても書面で当てはまるかどうかのチェックによるものであり、あいまいさを記述しようにも語彙不足により表現ができない不満をいくつも経験したり、聴く機会があった。

そこに起因する孤独感。本人にしかわからないものではあるが、どのような「付き合い方」があるのか。そのヒントを得たい。が今回の聴講テーマである。

そして、「解決では済まないこと」が講義のテーマ。

生きていくうえで「孤独」とはどのように対峙していくのか、興味深く拝聴した。

一人目の尾角さんのお話から。

「感情を喪失しているのが日常」とも言える鬱を抱えている当事者は口癖のように「わかってもらえない」と訴える。しかし、支援者と呼ばれる人の多くが「回復思考」への誘導をする。そして平行線の主張が繰り返され、結果、わかってもらえない当事者は「孤独」という「闇」を抱えたまま生きていくことになっていく。

しかし、「ゆらぎ」の概念を知ることにより、「孤独」からの脱出は可能ではないだろうか。講義の中であった「喪失」を「孤独感」に置き換えることで、解決とはならなくとも解決への近道を見つけることにつながるのではと思われた。当事者のみならず、支援者には当然のように知ってほしい考え方である。

また、ジャッジしないことも解決への近道であると思われる。どうしても比較した結果を気にしてしまい、そこで次に進めなくなる当事者、そこからの脱却を正しいとする支援者の存在も多いと思われ、「解決」の結果を重視する傾向そのものが、精神面での生きづらさを抱える者にとっての「未解決事項」となっている。

失った悲しみ、そして同時に生まれる安堵感。

相反する概念や現実の中でのゆらぎの中にあることを自覚できる姿勢をもつことが「解決」そして「リカバリー」へと向かっていけるのであろう。


二人目の家入さんからは、最も知りたい「起業」についての具体的なお話が聴けなかったのが残念だった。

きっかけとしての理由はおそらく孤独を感じている者は持っている感情や思考である。では、その先を作った実際の行動とは何なのか?そして、そこに解決の糸口が見出される。

主に現状についての説明が多く、何かを変えたい希望を持つ者にとっては救いの面もあり、有益と思われた。

また、その後=起業をしての孤独についても、継続させていく以上、必要な知識である。どれだけのことを考えて生きているのか、そしてどうあるべきなのかを考えさせられた。

ここまで拝聴して感じたことがある。尾角さん、家入さん。お二人はどのように「仲間」を集められたのだろう?人望がなく、囲まれたり、寄ってくる人が少ない身としては、ヘルプを出すこと、結果、サポートを受けられたこと。この2つがとてもうらやましく、その意味でも「生きづらさ」を抱えている。

いくら「ゆらいでも」解決に導けない現状を、お二人はどのように考え、そしてヒントを出してくださるのだろうか?持っているものが多いと自負し、それらをどう役立てるがこれからの生き方であると自覚しているので、そのためのノウハウ、それ以前にどう見つけてもらえばよいのか?

このOPEN LABを通じてさらに考えたり行動のチャンスを得ようとした。ひとつの手段として「発信し続けること」があり、このレポートもひとつである。

東畑さんの講義は興味深いものであった。心理テストライターとしてカウンセリングの知識を持っている者としては、健常者なら、もしくは人生経験が少ない者にとっては自己解決に導くヒントを与える役目として機能し、必要とされると思われる。

これが当事者であるならば、コミュニティとしての当事者会やそれぞれの専門家の集合体である「オープンダイアローグ」が有効であろう。しかし、第1回の熊谷氏の講義の中でもあったように「周縁化するメンバー」が出てくる以上、完全な形としてのコミュニティは存在しうるのか、という疑問が出てくる。

これは、どのコミュニティに参加しても「周縁化メンバー」を実践する自分自身の存在により、深く理解していることである。そして残念だったことは、私自身がマンガを読まなくなり30年になることである。その意味で理解できない部分があり「孤独」を感じざるを得なかった。

だが、銀行強盗プロジェクト、小舟の集まり、についての説明には納得するだけで、なによりも節操なく多くの「居場所」に顔を出すことが安定を生み出しているのだと思われた。

「ナイショ」の関係では、幼少のころから裏切り続けられた記憶の持ち主として、傷つきたくないが今の人間関係を現していると思う。不利益を被る関係、それが私にとって「小舟に二人で乗り込む」行為であり、おそらく人生でたった一回のそれを求めたのが結婚であり、傷つけあった結果の離婚だと結論付けられる。

パネルトークを拝聴し、いかに所属が重要となってきているかを感じた。

現在、新型コロナウィルス影響下でのリアルなコミュニティを開催できない状況下、SNSでの当事者グループ内ではもともと行き場のないメンバーの不満が投稿としてあたりまえのようになっている。

シェアする相手が存在しないため、一方的な言葉の投げかけとなっており、はけ口としての役割でしかなく、ここに「ナイショ」の関係は生まれにくいであろう。

共感が生まれる土壌であったのが、それぞれの違いが明確になり、それを認める余裕がない状態である。ゴールが見えない不安と理解されない不満。当事者性にはこの2つが存在しているのだが、個別に共通性を見いだせないため、SNSにおけるコミュニティは破綻へと向かうようでもある。

ここに「専門性」が持ち込まれたらどうなるのだろう?孤独感が高まる中、当事者性を持たない存在は、救いの主として「解決」へと導くことが可能であろうか。
 
振り返ってみて、個人の在り方、つながり方をどうとらえていくかで「孤独」から次のステージに移ることができるのだと思う。そのためには、何を共有していくを明確にし、最も合うリーダーのコミュニティに参加することであろう。また、自分自身を発信者としてコミュニティを形成するのも策である。そのためのヒントを大いにいただいたと感じるパネルトークであった。

これまで何度もこのOPEN LABを受講し、そのすべてでスカラーシップ生としてお世話になってきた。会場での質問を取り上げていただいたり、稚拙なレポートを披露していただいたり、多くの失礼もしてきた。今回も締め切りから遅れてしまい、ご迷惑をおかけし、申し訳なさでいっぱいである。

今後もこのような機会が多く開催され、受講そしてその後の発信からより多くの理解とリカバリー、そして理想的な社会の実現に向け生きることを選択した活動を続けていきたい。

関係者の方々、登壇された講師陣、受講生同志、そして尽力されてらっしゃるみなさんにお礼申し上げます。

どうもありがとうございました。

-----------------------------------------------------------------------------
LITALICO研究所OPEN LAB#9 スカラーシップ生
佐藤 孝 (さとう たかし 50代男性)

画像2

プロフィール:
・昭和40年代生まれ
・北海道出身・現在神奈川県民
・28歳の時にうつと診断され、10年後に躁が入っていることも判明
・40歳のときに手帳取得
・仕事も車も家族(妻)も失い、絶望しかけるが、「欲の塊」であることを 思い出し、「なりたい自分」になる=「リカバリー」にむけ、横浜ピアスタッフ協会=YPSのメンバーに。
・心理テストライターとしてTV番組で採用された実績あり
・就労移行支援事業所「LITALICOワークス」元利用者


LITALICO研究所OPEN LABについて

「LITALICO研究所 OPEN LAB」は、社会的マイノリティに関する「知」の共有と深化を目的とした、未来構想プログラムです。

さまざまな分野で活躍する当事者・専門家・起業家の方々を講師としてお招きし、社会的マイノリティ領域の歴史や課題、解決策、そして未来のビジョンを探求します。2019年7月〜2020年3月まで、毎月一回、全9回のシリーズ講義を実施しました。

現在、2020年度の講義の開講準備中です。昨年度の活動レポートは以下をご覧ください。

LITALICO研究所OPEN LAB特設サイト

昨年度の講義のダイジェスト動画(無料公開)

OPEN LABの講義レポートや運営報告をまとめたnoteマガジン


OPEN LABでの取り組みを踏まえて、「学ぶこと」にまつわるさまざまな障害と、それらを解消するための方法を調査・分析・共有する、「アクセシビリティ」に関する研究プロジェクトもスタートしました。

ご関心のある方は以下のnoteもぜひご覧いただき、研究にご参加ください。


この記事が参加している募集

イベントレポ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?