留学の先に見えたこと~ダンスを通して~
3.5倍。
これは、2004年から、2017年までに海外留学を経験した日本人大学生数の伸び率である※1。
「内向的な学生が多い」ということはよく巷で耳にするトピックであるが、以下のグラフが示すとおり、日本からの海外留学生数は年々増加しており、協定を結んだ大学への留学生数は2017年で約66,000名におよぶ。
この数万分の一の留学者の中に、ダンスを通し海外を体感した学生がいる。その名は熊野 響花(くまの きょうか:以降 響花 [写真右])である。
今回は、そんな響花のダンスを通した留学生活に焦点を当てたインタビューをお届けしたい。
留学生数増加とその課題 / 筆者の取り組み
上述した留学生数増加の背景には、国による海外留学促進の取り組み※2があるわけだが、留学生数増加の一方で、「留学を通して学生がどのように成長しているのか」という疑問が挙げられている。「留学成果の可視化」が大きな課題となり、国・大学レベルで留学成果の可視化に躍起になっている※3。
留学成果の可視化にあたり、何かしらの能力変容を数値化して示すことが必要になるわけだが、上述した国・大学レベルで大規模なデータを収集し、留学への取り組みの結果を示すことが「マクロ視点」だとすると、留学生個々の目的・目標の達成度合いは「ミクロ視点」の一つだと言えよう。
筆者は勤務先大学で留学プログラム運営に携わっており、特にこだわりを持って取り組んでいるのが、留学の目的・目標を設定する事前研修(以下研修)である。学生は目標達成の過程で葛藤・成長し、その結果として能力変容に繋がるため、留学(学習)の核を成す目的、その留学を通して達成するための目標設定には非常に重きを置いている。
これまで数多の学生に研修を実施してきた。この研修参加者の8割型の学生が、留学の目的「語学能力向上のため」、目標「TOEIC~点をとる」といったものを掲げる。もちろん語学能力向上のために留学することは決して悪いことではないが、「ありきたり」なのである。このありきたりな目的・目標を学生たちが掲げるなか、響花の目的は「海外のエンターテインメントを学ぶため」であった。
筆者個人的な意見として、留学に行くからには語学能力向上は「大前提」であり、そのうえで何を体験するか、何を成し遂げたいかがより重要だと考えている。なので、響花の目的を聞いた際、彼女がどのような留学生活をおくるか、どのような変貌を遂げるか非常に楽しみになったことをよく覚えている。
ダンスとの出会いから留学
そんな響花のダンスとの出会いは、小学校1年生に遡る。
父親がギターリスト、母親が女優・シンガーという芸術一家で育った響花が惹かれたのが、お祭りで偶然見かけたダンスだった。 「幼稚園からバトントワリングは習っていたが、これに面白さは見いだせなかった」と語る響花。
祭りのダンスを見て以降、早速ダンススクールに通うようになり、パレードダンサー※4になることを夢みながら、大学3年生になる今日まで10数年以上ダンスに打ち込んできた。現在は大阪の某大学のダンス・サークルに所属している。(以前インタビューさせて頂いた藤村武瑠さんが所属していたサークル)
留学を決意した響花が選んだ留学先は「イギリス ロンドン」。アメリカを第一志望にしていたが、大学の協定校はどれも田舎に位置しているため、エンターテインメントに接することができ、ダンスの機会に溢れた環境が備わっているロンドンを選んだ。
「ダンス≠スキル」留学の先に見えたこと
自身が居住する地域で通えるダンススクールを事前に調査し、留学中は週4日程度継続して通い続けた。
上のビデオは、ダンススクールで恒例となっている「Pick Up Movie」である。響花が通っていたダンススクールでは、そのレッスン内で一番うまく踊れていた者が数名選ばれ、PV撮影を行うということが恒例となっていた。
毎回のようにPV撮影に選ばれていた響花であるが、留学前に「かっこいいPVにでて踊る!」と豪語していただけあり、この有言実行具合は、留学前から彼女の成長を見守っていた筆者としては非常に嬉しいことである。
約4ヶ月の留学を終えた響花に、日本とイギリスのダンスシーンについての違いを聞いたところ、意外な答えが返ってきた。
「ダンスのスキルでは日本のほうが上」
「ダンスのスキルは日本のほうが上だが、日本人よりイギリス人のほうが圧倒的に長けている部分がある。それは『表現力』」
こう述べた響花が行き着いた答えが、「ダンス≠スキル」である。
これは決してダンスをする上で技術が不必要という訳ではなく、そのスキル(ダンス)を「どう見せるか」がより重要という意味であり、ダンスの見せ方に長けた外国人のダンス(表現方法)を学ぶこともこの留学の狙いであった。
「歌手のバックダンサーは、基本的に歌手をたてることが大事になる。だけど、パレードダンサーは『お客を楽しませる』ことに重きが置かれているため、パレードダンサーにより魅力を感じるし、楽しませるうえでの表現力が非常に重要だと考えている」
こうインタビューを締めくくった響花は、昔から夢見るパレードダンサーになるため、今日も踊る。
■響花のSNS情報■
インスタ :https://www.instagram.com/kyoka_bear17/?hl=ja
ツイッター:https://twitter.com/K_Styles17_dir
※1:参照
https://www.jasso.go.jp/about/statistics/intl_student_s/2018/index.html
https://education-career.jp/magazine/data-report/2019/number-study-abroad/
※2:2013年に文部科学省より「若者の海外留学促進実行計画」が打ち出され、2020年までに日本人留学生を6万人から12万人へ倍増させるという目標を掲げ、日本人の海外留学促進に努めている。
※3:語学力の事前事後変容だけでなく、対人力、忍耐力といった非認知能力も含めたコンピテンシーの可視化が求められている。
※4:東京ディズニーランドや、Universal Studio Japan(USJ)のパレードなどで踊るダンサー。響花はUSJのパレードダンサーになることを目標としている。
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