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肉じゃが研究レポート 〜運命の味をさがせ!!〜


みんなー!
肉じゃがは好きかー?

わたしは好きだ、肉じゃが、が。甘辛いお肉とほっくりと煮上がったじゃがいも、できたてを煮汁ごと食べるのも、翌日のしみしみ&グズグズも、 居酒屋で頼むそれもまた店によって全然味がちがってたのしいものだ。

わたしは料理編集者をしている。「料理編集」とは、いわゆる “レシピ本” を制作する仕事だ。もちろん、自分が料理をつくるわけではない。料理研究家さんや料理人さん、最近では料理上手なブロガーさんやインスタグラマーさんのレシピを、広くあまねく紹介するために本にまとめるのだ。料理以外のテーマを担当することもあるが、料理編集はわたしの仕事におけるとても太い軸であり、何よりも大好きなジャンルである。

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「おいしいレシピ、教えて!」「いい本、ない?」**

この仕事をしていると、とにかくたくさん聞かれる質問。そのたびに、わたしは困るし、悩む。なぜなら、わたしが出会うレシピは、どれだっておいしいし、いい本はたくさんたくさんあるからだ。本当においしいものに流行はなくて、素敵なレシピ本だって世界中にたくさんあるので、既刊本を読めば読むほど「レシピ本ってこれ以上つくる必要があるのかな?」と思ってしまう。肉じゃがひとつとっても、料理家さんによってレシピがちがうし、料理家さんの数だけレシピがある。もっといえば、同じレシピでもつくる人が変われば、味が変わる。つまり、肉じゃがの数だけ、肉じゃがはあるのだ。

はっ! 言い切ってしまった。
料理編集者としては「どんなひとでも、おいしくつくれる」をお約束しなければならないのに。でもね、家にある調味料もちがえば、持っている道具もちがう、料理の腕もちがうし、火加減だって、煮込み時間だって1分1秒同じくはできない。だからこそ「おいしさの安全ゾーンに着地させる」ために最大限に伝える努力をする。それがわたしの仕事だ。

「おいしい」は、相性。

それでも、これは断言できる。もしもあなたにお気に入りの飲食店があるならば、きっとあなたとそこの料理人は味覚ががっちりと合うのだろう。反対に、仮にパートナーのつくる料理が口に合わないとしても、それを「まずい」と称するのはお門違いだ。たまたまTwitterでまわってきたレシピが口にあったのなら、それは運命の出会いかもしれないから、ぜひつくったひとの名前をチェックしてもういくつかのレシピを試してみてほしい。もしも、つくったものがすべて好みの味だったら、きっとそれは舌が合うひとだ。レシピ本を出していたら、ぜひ購入を検討してほしい(と、これは料理業界にいるものとしてのお願いだ)。

わたしは、いつか「運命の肉じゃが」と出会いたいと思っていた。家庭料理の代名詞ともいえる肉じゃが、おいしくない肉じゃがには出会ったことがないような気もするけれど、自分が本当に好きなのはどんな味だろう? と。人によってどれだけつくり方がちがうのかな?と。そこで、自粛期間中のある日、肉じゃが大研究をすることにした。MY BEST OF 肉じゃがを探す研究だ。世の中にはあまたのレシピがあるので、まずは自分の家にあるレシピ本の中から肉じゃがを洗い出し、あえていろいろなつくり方を選んで試してみることにした。

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レシピをよく読み比べて見ると、本当にいろいろだった。牛肉は約2kg つかった。もちろん、豚肉や鶏肉のレシピもあった。そうよね、だって「肉」じゃがだもの、肉の指定はルールにあらず。そして最終的に6種類の肉じゃがをつくった。一度にこんなに肉じゃがをつくったのは、もちろん人生で初めてだし、とてもおもしろい体験だったので、それらのレシピの特徴と味の備忘録、参考にした本をざっと書き出してみる(編集や構成を担当した本もいくつか混ざっている)。すべてわたしがつくっているので、再現性に若干の不安はあるが、そこは大目にみてほしい。

① フライパンで煮る、和食系肉じゃが

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レシピのポイントは大きくふたつ「かつおと昆布のだしで煮ること」「牛肉を湯がいてから加えること」。牛肉のアクをしっかり抜いてからいちばんやわらかい状態で仕上げるのだ。鍋ではなく、フライパンを使うので、肉や野菜をぞれぞれブロックごとに入れ、まるですき焼きのように煮ていく。具材にこってりと味付けしながらいっしょくたに煮込む方法でないからこそ、じゃがいも、にんじん、たまねぎ、それぞれの素材の味もきわだった肉じゃがになった。スープも美しくすんでいて、盛り付けもしやすい。胃もたれとは無縁のような味わい。そういえば、油をつかっていないことに気がつく。夏はこんな肉じゃががいいなと思う。

▼レシピはこちらの本から▼


② じゃがいもが主役すぎる肉じゃが

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わたしは最近、小林カツ代さんのレシピをたくさんつくって勉強させていただいている。カツ代さんの料理は本当においしい。先に話したように「おいしい」は相性 という意味では、最高の相性だと思っているし、そうした人がたくさんいたからこそ、カツ代さんのレシピは今も変わらずに愛されているのだと思う。これはカツ代さんの肉じゃが。じゃがいも、たまねぎ、牛肉、砂糖、みりん、しょうゆ、サラダ油、必要最低限の材料しか使っていない。作り方はわたし的に目からウロコで、たまねぎと牛肉を炒めてこってりと味付けしてから、じゃがいもを加えて煮込む。まるで牛丼をつくる要領で仕上げるのだが、これがめちゃくちゃうまい! ちなみに息子であるケンタロウさんのレシピも、わたしが持っている本ではほぼ同じ。肉じゃがってやっぱり家の味なんだなあと改めて思った。

▼レシピはこちらの本から▼


③ 毎日でも食べられる、やさしい肉じゃが

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具材を順番に炒めていき、水を加えてフタをしたら、コトコトと煮る。奇をてらわない方法。シンプルイズベスト。きっと、この作り方をする家がいちばん多いのではないだろうか? 肉と野菜のうまみが鍋の中で手をつないだやさしい味わいの肉じゃが。実は、今回つくったすべての肉じゃがを兄の家族(妻、0さい、3さい、6さいの娘の5人家族)にも試食してもらったのだが、「家族みんなで食べるならこれ! 0さいの娘にも食べさせられる!」と妻のひとがコメントをくれた。すごく正統派の肉じゃが。そうそう、こんにゃくを入れるか、いんげんを入れるか、もつくる人次第ですよね。

▼レシピはこちらの本から▼


④ 出会ったことのない変化球の肉じゃが

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フレンチシェフがつくるとあって、とにかくたくさんの技術が集合しているレシピがこちら。もちろん珍しい材料はつかわないものの、ほかの方がやらないひと手間がいろいろ。中でも特筆したいのは、塩とごま油で具材を炒めること&しょうゆを少し焦がして仕上げること。下味をつけながら仕上げていく方法は、シェフならではだなあと思う。そして油のセレクト。加えて、このレシピでは、しょうゆを焦がしているので “香り” という軸もある。複雑な味わいを持つこれまでに出会ったことのない肉じゃがだった。

▼レシピはこちらの本から▼


⑤ ラードで炒めて酒で煮る、つまみ系肉じゃが

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牛肉とじゃがいも、たまねぎ、調味料のベースはしょうゆ。主な材料は変わらないのに、こんなにちがう味になるんだという料理のおもしろさを教えてくれるレシピ。ラードで炒めて、酒で煮る。先に紹介したごま油で炒めた肉じゃがから、さらに突き抜けた世界観を持っているのがこちら。わりとしっかり砂糖も入っており、日本酒で煮ているので、けっこう甘めの味付けなのだが、これがとにかくお酒のアテにぴったりの味! たまねぎだけでなく、わけぎを加えているのがまた呑兵衛にはたまらないポイント。シャキシャキ!

▼レシピはこちらの本から▼


⑥ レンジでチン! 甘辛豚肉じゃが

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耐熱コンテナに材料を入れてチンするだけ。本当にほんとうに簡単で美味しくできたこのレシピは、今をときめく料理コラムニストの山本ゆりさんによるもの。実は、カツ代さんだけでなく、山本ゆりさんのレシピも勉強させてもらっているのだけれど、本の中に『「肉じゃがは副菜」という衝撃発言もこの手間なら許せる』という一文を見つけたときに、山本さんのレシピの“読みもの”としてのおもしろさと、生活者としてのブレない姿勢を見つけて脱帽したものだ。レンチンでつくった肉じゃがは煮崩れもしないし、加熱ムラもなく、数分チンしたとだけと思えないほどの味に仕上がった。ちなみに兄の3さいの娘は「この味がいちばん好き!」と言ってモグモグおいしそうに食べたそうだ。

▼レシピはこちらの本から▼


いろんな肉じゃがができた。
そしてハイボールを片手に試食をした。

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肉じゃがの数だけ、肉じゃがはある。

冒頭でわたしはこう書いた。間違いなかった。たった6種類の肉じゃがをつくっただけでも、ぜんぜんちがう味になったし、それぞれの肉じゃがのよさだったり、こだわりだったりが浮き彫りになった(つくり方のポイントは太字にしている)。もちろん、特に好きな味の肉じゃがは選べる。でも、みんなちがって、みんないい。みんなちがって、みんなおいしい。それがわたしの結論だ。

そういえば、母の肉じゃがはどうだっただろう? どうやってつくっているか、聞いたことはなかったな。「大したことしてないわよ」「普通のつくり方よ〜」と絶対にいうだろうけれど、実は意外に重要なポイントが潜んでいたりするんだよなあ。そして、それが “家の味” を形つくっているんだよなあ。よし、帰省できる日がきたら、肉じゃがのつくり方を見せてもらおう。

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じゃがいもは、北海道出身の友人から紹介してもらい、産地直送 10kg1000円+送料で送ってもらった。スペシャルサンクス、じゃがいも農家の𠮷本さん。じゃがいもがおいしいから、肉じゃがもとってもおいしくなりました。ありがとうございました!

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食事がたのしいものでありますように。これは、料理編集者であるわたしの願いでもあり、いち生活者としても目指すところだ。時短で簡単なごはんを求めるひとも、安くておいしい食材を好むひとも、手間ひま時間をかけたこだわり派のひとも、それぞれの今の環境、置かれた状況を踏まえた上で、しっくりくる方法やレシピと出会うことで「たのしい」が生まれる。もちろん「そもそも料理はしない」という選択肢があったっていい。

しかし、どこでだれと食べる料理だとしても、そこにはつくったひとが必ず存在している。さかのぼれば、農家さんだったり、畜産家さんだったり、漁師さんだったり、もう書ききれないくらいの人たちが関わって目の前の食事はできている。

おいしいものに出会える。それだけで運命だ。だから、運命の肉じゃがだって、きっとたくさんあっていいんだと思う。ここまで飽きずに読んでくださった肉じゃが好きのみなさんなら、きっとわかってくれるにちがいない。家の味、店の味、じぶんの味、だれかの味。何かにしばられることなく、人の目を気にすることなく、これからもおいしい肉じゃがを愛でていきたい。







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