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d.15 Industrial Design for Industrial People

とても暑い夏でした。実は先月から美術館の空調が故障しており、大変ご迷惑をおかけしました。ようやく修理が終わったのですが、もうすっかり涼しくなってきましたね。ええ、来年の夏はバッチリです ──。

フィンランドデザインは、工業デザインの分野でも見ることができますが、最新の流行を追ったデザインや、安さと機能に特化した大量生産のデザインではないところに、本来のフィンランドらしさがあるのではないでしょうか。そんなデザインの本質を忘れ、いつの間にか自分自身も工業化されていたような? そろそろ目を覚ます時期なのかもしれません。

オロフ・バックストロームのハサミ

オロフ・バックストロームは、ヘルシンキ工科大学で電子工学を学び、電気技師として働いていました。その後、工業デザイン製品の試作のための木彫りモデルを作るようになります。1957年のミラノ・トリエンナーレで、木製ボウルなどのキッチンウェアで銀メダルを獲得すると、彼は工業デザインの道に進むことを決めます。

Olof Bäckström, 1922-1998
1922年 キルッコヌンミ生まれ。
1957年 ミラノ・トリエンナーレで銀メダルを受賞(1960年も)。
1958年 フィスカルスのデザイナーとなる。
1967年 世界初のプラスティック製のハサミを製造。

フィスカルスのデザイナーとなった当初、彼にはデザインの知識がほとんどありませんでした。それでも彼がフィスカルスに提案したスレンレス製のキャンプ用カトラリーは、1960年のトリエンナーレで再び銀メダルを受賞しました。その翌年、彼はフィスカルスから新しいプラスチック技術を使用した家庭用ハサミを設計するように依頼されます。

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Scissors, 1967 (via Fiskers)

バックストロームは、木彫りの技術を生かし、持ち手の使い心地をテストするため、木製プロトタイプをいくつも試作しました。その模型をもとにプラスチックの型が取られ、世界初のプラスチックのグリップとステンレスの刃を組み合わせたハサミが誕生しました。フィスカルスのハサミは、従来のものに比べて軽く扱いやすいだけでなく、切れ味も飛躍的に向上しました。

フィスカルスのオレンジ
フィスカルスのハサミは、世界中で10億本以上出荷されているヒット商品です。オレンジ色の持ち手が特徴的ですが、どうしてこの色になったのでしょうか?バックストロームは初め黒か赤、または緑にしようと考えていました。しかし機械工が試作の際、すでに機械に入っていたオレンジ色の素材を使ったところ好評だったため、そのまま採用されたそうです。

アンティ・ヌルメスニエミのコーヒーポット

アンッティ・ヌルメニエミは、家具や食器などのデザインから、ヘルシンキの地下鉄、フェリーや教会、オフィス、商業ビルなどのインテリア、さらにはセウラサーリ-ヒエタニエミ地区に建てられた青い送電線の鉄塔まで、多種多様なデザインを残したフィンランドデザイン界のパイオニアです。

Antti Aarre Nurmesniemi, 1927-2003
1927年 ハメーンリンナ生まれ。
1950年 芸術デザイン学校を卒業。
1953年 テキスタイルデザイナー、ヴオッコ・エスコリンと結婚。
1956年 デザイン事務所「ヌルメスニエミ」を設立。
1960年 ミラノ・トリエンナーレの展示設計でグランプリ(1964年も)。
1963年 ヘルシンキ芸術デザイン大学の教鞭を執る。

1957年、ヴァルティラ傘下のアラビアにキッチンウェアのデザイナーとして雇われたヌルメスニエミは、その最初の年に「ぺトーリ」というポットをデザインしました。このコーヒーポットは Finel社から販売され、すぐにフィンランドデザインのクラシックのひとつとなりました。日本や米国では現在でも人気の高い製品です。

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Pehtoori, 1957 (via Bukowskis)

同時に彼は他の多くの企業のためのデザインも手がけています。1959年には Högfors社との協力が始まり、調理器具や薪ストーブ、加熱ボイラーなどを設計しました。また彼が、展示設計を担当したミラノ・トリエンナーレではグランプリを受賞し、Högforsの製品も海外で大きな注目を集めるようになりました。

今日、アンティ・ヌルメスニエミの作品は、至るところで出会うことができます。空には青い送電線がかかり、彼の設計した椅子に座り、クローゼットを開き、彼の電話で誰かと話し、ストーブで暖をとり、彼のポットでコーヒーを淹れているかもしれません。

ハンヌ・カホネンのゴミ箱

ハンヌ・カホネンは、アクセシビリティと環境への影響を第一に考えた「Design for All」というコンセプトを重視し、実用的で環境に優しい製品を数多く生み出しているインダストリアルデザイナーです。 彼は、Abloy、Suunto、Martela、Tulikiviなどの著名なフィンランド企業のほか、ボンバルディアやシーメンスなどの国際企業でもデザインを手がけています。

Hannu Oravi Kähönen, 1948-
1948年 カルヤロフヤ生まれ。
1971年 ヘルシンキ芸術デザイン大学を卒業、すぐに教師となる。
1981年 デザイン会社Creadesignを設立。
2009年 カイ・フランク・デザイン賞を受賞。

1974年から1980年までトゥルクのエルゴノミアデザイン社でデザイナーを務めたカホネンは、1981年、デザイン会社 Creeddesign を設立します。彼は、ヘルシンキ市の依頼で低床式トラムやごみ箱などのデザインも手がけました。いずれも機能や耐久性、メンテナンスのしやすさや安全基準など厳しい制約がありましたが、その機能性の高さとユーザフレンドリーなデザインは好評を得ることができました。

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Litterbins (via Creadesign)

彼は、これからもフィンランドデザインらしさを追求することが大切だと考えています。シンプルで機能的であること、美しく高品質であること、耐久性がありサステイナブルであること、木材や石など自然の素材を活用すること。アルヴァ・アアルトの家具やカイ・フランクの食器のようなデザインを受け継いでいくことが大切であると。

参考:Designmuseum, Damn Magazine, KarkkilaTurun Sanomat
カバー写真:Taivalluoto (via Wikiwand)

“Industrial music for industrial people” ©︎ Throbbing Gristle

🇫🇮 Kiitos paljon !
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フィンランドを知るには、まずフィンランド語かも。というわけで、古い参考書を紐解きながら、フィンランド語の辞典を書くことにしました。トントゥ検定3級です。 http://moicafe.com

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