下地理則(九州大学人文科学研究院 教授)

1976年生まれ。言語学者。九州大学言語学講座教授。フィールドワークに基づく言語記述を…

下地理則(九州大学人文科学研究院 教授)

1976年生まれ。言語学者。九州大学言語学講座教授。フィールドワークに基づく言語記述を行う。沖縄県宮古島,宮崎県椎葉村を主なフィールドにしている。

最近の記事

例文提示とグロスのつけ方:理論編

言語学における例文提示においては、形態素分析に基づき、形態素ごとの訳と文法形態素に対する略号(これらを通常、グロスと言います)、形態素境界の記号といった例文注釈(glossing)をつけることになります。この例文注釈の問題は、さまざまな言語を扱う一般言語学では重要な問題です。 言語学でよく見かける例文注釈は以下のようなイメージです。これは日本語の「映画を見て帰った」という文に対して、英語で論文を書くことを念頭に、私が注釈をつけたものです。ACCは対格(accusative)

    • 例文提示とグロスのつけ方:実践編

      Leipzig Glossing Rules理論編では、標準日本語のテ形への注釈づけを例に、個別主義的方針、普遍主義的方針、そして中道的方針をレビューしてきました。自分の専門とする言語について、そしてその中のいろいろな形態素について、なるべく中道的方針を心がけながらグロス付与を工夫していくのが肝要です。 ある程度、中道的方針に目配りがなされている用語・グロスのリストとその運用方針がMax Plank研究所によって提案されており(Leipzig Glossing Rules;

      • フィールド言語学集中講義@九大を行いました

        2023年12月25日(月曜)〜28日(木曜)の4日間、フィールド言語学に関する集中講義を行いました。九大下地ゼミ主催で、私の大学院の授業を一般に公開した形です(科研費の研究会とのコラボ企画も併せて行なっています)。写真はその最終日の集合写真。画像使用の許可を明示的に得られた方だけ、顔出ししてます(ボカシ画像になってしまった皆さん、ごめん) 講義の内容25日:基礎語彙調査と音素分析 なんのために基礎語彙調査をするのか 音素分析の実際(伊良部島方言を例に) 音節構造と音

        • (ふたたび)学振にチャレンジするときに 読んでほしいアドバイス

          学振(日本学術振興会特別研究員制度)の合否発表があり、SNS上でも嬉しい報告と悲しい報告が飛び交います。それなりに頑張って申請書を仕上げ、春に申請して、結果を心待ちにしていたはずなので、「落ちても気にするな」と声をかけるのはおかしな話に聞こえます。「気にしなかったら」次もダメでしょうし、それでもいいやと思うなら今回も受けなかったはずでしょう。気にして、反省して、作戦を練り直しましょう。 このエッセイでは、今年度は残念ながらダメだったが来年度もチャレンジしたいという人に向けて

        例文提示とグロスのつけ方:理論編

          大学院進学と指導教員

          大学院生の最強の味方は指導教員である。しかし,皮肉なことに,指導教員が最大の敵になることも,ままある。「馬鹿な大将,敵より怖い」と言うではないか。 このコラムを読めば,指導教員を選ぶ,という視座が,大学院進学において極めて重要であることがわかるはずである。これから大学院(特に筆者が想定するのはいわゆる人文系と呼ばれる分野の大学院)に進学しようと考えている者にぜひ読んで欲しい。また,自身が誰かの指導教員であるという研究者も,自問自答しながら読んでみて欲しい。 なお,私自身は

          言語が減ることって問題ですか?への私の答え

          このコラムは,『春秋』(2017年7月号,8/9月合併号)に連載した内容に,リンクをつけたり加筆修正したりして,さらにイントロを書き足したものです。 言語が減ることって問題ですか?私は言語学者である。琉球列島の言葉を専門にしている。 下地理則の研究室 冒頭の問いは,これまで何十回も,話者の人たちから,学生たちから,講演会での聴衆から,そして同業者たちから,投げかけられた問いである。同じような問いをされた言語学者も多いと思うし,自問している人もいるだろう。だから,この問

          言語が減ることって問題ですか?への私の答え