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愛するふるさとの話~「鬼滅の刃」は実在した。

只今、鬼滅の刃ブームの真っ最中です。
竈門炭次郎が鬼を倒すアニメのお話は、皆さんのほうがずっと詳しく知っておいででしょう。
ところで鬼滅の太刀が実在していたことを、皆さんはご存じでしょうか。
時は平安時代。アニメ「鬼滅の刃」の設定した大正時代よりずっとずっと、星のかなたくらい古いお話です。

じつは、日本刀で鬼を切るというお話はふるくからあって、そのとき使われたとされる太刀も残っているのです。

この物語は、多くの古文書に書き残されています。
たとえば、太平記にはこう書かれています。


「頼光くだんの太刀を抜きて、牛鬼の頭をかけず切て落す。その頭中に飛揚がり、太刀の峰を五寸喰い切りて口に含み乍、半時許跳び上がり〇〇唸りけるが、遂には地に落ちて死にけり」


これは有名な、一条戻り橋での鬼の襲来と返り撃ちのお話です。

頼光というのは源頼光のことです。平安時代の清和源氏3代目の棟梁です。

私はまだ会ったことはありません。

(源頼光が、太刀を抜いて鬼の頭を切り落とした。その頭は空中に飛びあがって、太刀の峰を15センチ食いちぎって口に含みながら、飛び上がって唸っていたが、最後には地に落ちて死んでしまった)


平家物語でも同じ題材が書き留められています。

平家物語では、渡辺綱という源氏の武将が斬ったことになっています。源頼光配下の有力武将です。
この時使われた太刀のことを、太平記では

「之に依りその名を鬼切と伝ふなり」

と書いています。(これにより、その名を鬼きりと言う事になった)
さらに、この太刀の作者は

「伯耆の国相見郡に大原五郎太夫安綱と伝鍛冶」

と伝わります。(伯耆の国=鳥取県西部会見郡に大原五郎太夫安綱という鍛冶)

この人は、坂上田村麻呂のソハヤの剣を作ったというお話も残っていたりして、刀に初めて反りを付けた刀剣の始祖とされています。

この人の刀の握り(茎)には安綱と銘が刻まれていて、日本一古い銘の入った刀でもあります。
ではこの鬼切(鳥取県西部の大原安綱という人が作って、源氏が鬼を斬った)という太刀は、その後どうなったのでしょう。
歴史の上でも、この安綱が作った鬼切丸という刀が、たびたび出てきます。
北条氏にあったのを新田義貞がとったとか、さらに斯波氏が奪ったとか、足利尊氏が強請ったとか書かれています。

有名な人ばっかりが登場します。

そして、この太刀が最後に現れたのが、2019年12月28日。
場所は奈良県春日大社。
重要文化財 太刀 銘安綱 (号 鬼切丸 髭切)

京都府北野天満宮所蔵


また、鬼滅伝説のある刀がもう一振。
室町御伽草子の中に出てきます。
それは、童子切のお話です。
大江山に住む酒呑童子という鬼の親分を、源頼光が斬ったというお話。
この太刀も春日大社の刀剣展に出ていました。

国宝 太刀 銘 安綱(号 童子切)
東京国立博物館所蔵

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(写真はレプリカ)

その後、童子切は豊臣秀吉の手に渡り、徳川家康に下賜されます。そして、徳川家を転々としながら、現在は東京国立博物館に保管されています。

その由緒故、大事に扱われており、普段は保管庫に収められているのですが、時々特別展で展示されます。

あたしは、この春日大社に行って、実物を見てきました。
もし見逃した方がございましたら、地団駄踏んで悔しがってください。
安綱の刀の特徴ですが、黒い地肌に強い腰ぞりがあります。手元からグイっと力強く反っています。刀身に模様として浮き出ている板目や波紋が美しいのですが、専門的なことは奥が深すぎてよくわかりません。一応知ったふりをして見ていました。
周りの人たち(その多くは若い女の子)も、ふんふんと頷いていましたが、きっとわかっていないだろうとにらんでいます。御同輩です。
しかし、太刀はこれが鉄かと思えるほど美しい。
思わず触ってみたくなるのは私だけではないでしょう。
触れば、おそらく血まみれになってしまうのですが……

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鬼切丸と童子切
どちらも門外不出になっていますので、この特別展を見逃したら、もう二度とこの兄弟太刀が並ぶところを見ることはできないでしょう。

なお、伯耆の国にはこの刀鍛冶である安綱伝説の場所が、5か所ほどあります。
安綱には多くの弟子がいたので、あちこちに弟子が展開していたのではないでしょうか。
また伯耆には、当然のことながら、良質の鋼の産地がたくさんあります。


昔から、武家の棟梁が奪い合って持っていた太刀だから、相当高価だったのだろうな。
お宝鑑定団に持っていったらどうなるんだろう?

私が夢のようにそんなことを考えていたら、鳥取県観光課から「炭次郎が斬った岩を見に来たいのだけれど」とオファーがありました。
そう、真っ二つになった巨石が、伯耆のど真ん中にあるのです。
これはまた、つぎのお話です。

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