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羞恥を晒した赴任前健診の話①

わたしの夫がスペインに駐在が決まり、赴任前健診を受けることになった。帯同家族ということで私も検査を受ける対象になった。会社負担で大きい病院であちこち診て頂けるというのはありがたい。(*ご飯中の方は以降読まないことをおススメします。)

検査項目は人間ドックほどではないのだが、自分の会社で毎年受けていた健康診断よりも細かかった。心電図に眼圧検査も。極めつけは、30歳になる年であるということで、「胃腸の検査」が入ることがわかった。胃の検査ではバリウムを飲み、大腸検査をするために2日分の便を採って持参しなければならない。どちらも初めてで不安でいっぱいだ。夫は1歳年下なので胃腸の検査は対象外。くー。うらやましいよー。

事前の2日間分の採便は当時便秘ではなかったこともあり、簡単に採ることができた。身体のリズム的に便秘になったり快腸になったりするので、いいタイミングでホッとした。ただ、夫が「とってくるのね?」「とってきたのかい?」「どこにしまったんだい?」など横から茶々を入れてくるので羞恥プレイのなにものでもなかった。夫はわたしが恥ずかしがるところを見るのが大好きなのである。二人とも検査の対象だったらよかったのに。

当日、二人で検査へ向かった。そっか、夫婦だと一緒に受付してもらえるのか、家族になるって凄いな、とくすぐったく嬉しかったのもつかの間、受付のおばさんに、「便は2本とってきましたか?」と大声で訊かれ、赤くなりながら、「はい、とってきました」と答える。すぐ近くに待っている人たちもいるのだから、そんなみんなに聞こえるように言わなくてもいいのになぁ。。とやりきれない思いだった。バリウムを飲む検査までは、視力検査でやや難儀ではあったものの(ど近眼なので)なんとか無事に終わった。

いよいよバリウムの検査である。

今度バリウムを飲むんです、と職場の先輩に話したところ、シュワシュワする発泡剤とどろどろのまずいバリウムを飲んだ後いかにげっぷをおさえながら身体を動かすあの検査がしんどいか、という話をしてくれた。どんな流れかは大体わかったものの、ぶつけ本番でわたしにそのような芸当がなせるものかと不安が高まっていた。

軍手を渡され、検査の動きがわかる動画を見た。先輩が話していた通りだ。名前を呼ばれ、小さな白い部屋に入る。そこに自分以外の人はおらず、マイクを通した声だけ聞こえてきた。わたしはその光景にすっかり怯えてしまった。指示通り発泡剤数粒とバリウムを飲んでいく。バリウムそのものは薄いバナナシェイクのような味で、思ったよりどろどろしていなかった。早く飲み終えなくちゃ、でも発泡剤で胃からなにかこみあげてくる、怖い。

そのとき、うっ、ゴホッ、といってむせてしまった。

マイクの声がやんだ。部屋に女性が入ってくる。どうやら、私は誤嚥といって、バリウムを気管にいれてしまったらしく、そうなると胃の検査は中止、肺のレントゲンをとってバリウムの入り具合を確認しなければならないらしい。胃の発泡剤でげっぷは止まらないわ、周りの医療スタッフが慌てふためいているのを見て益々不安になるわで鬱々としていた。お医者さんからは誤嚥の場合の対策シートを渡され、「バリウムは石膏ですから、口から出さない限り体内に吸収されることなく残ってしまいます。気管に炎症が出れば発熱などが起こりますから、頑張って外に出すようにしてください」と説明され、挙句の果てに、「誤嚥は非常にレアケースで、お年を召された方ならまだあるけれど、特に若い人は珍しいのですよ。飲み込むことに不安があるようでしたら、今後はバリウムは飲まない方がいいでしょうね」と苦い顔をされる始末。検診で「もしや不健康」になってしまった自分が恥ずかしいやら情けないやらで悲しい気持ちになった。

早々に検診が終わった夫のもとへ行き、誤嚥について話すと、「だめじゃん!」と笑ってくれて、なんだかそれでかえって力が一気に抜け、救われたような気がした。昼食はわたしのリクエストでとろろ定食。同じようにどろどろしていても、とろろは全く別物。絶品なのだった。

診断から4か月ほど経ったが、幸いなことに今のところ発熱などは起こっていない。

②へ続きます。

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