餞別
もうすぐで娘に会えなくなってしまう。
だから、娘にとびきりのプレゼントをあげることにした。
娘は小さい頃から、洋服やアクセサリーが好きだった。誕生日やクリスマスにはふたりで買い物に行った。
大きな包みを両腕に抱えて満面の笑みで、「ママありがとう!」と伝えてくれる。それが私にとっての幸せだった。
神様がくれた、私の一番大切なプレゼントは娘だった。
娘は元気に育った。母の日にはお花をくれたり、誕生日にはケーキを焼いてくれた。
大人になった娘はブランドやジュエリーが好きだから、きっとそれをおねだりしてくるはずだ。
最後のプレゼントだから、欲しいと言ったものならなんでも買ってあげよう。
病室を訪ねてきた娘に、問いかけた。
「あなたの一番欲しいものを買ってあげようと思うの。何がいい?」
娘はパッと嬉しそうな顔をして考え出した。なのにすぐ、泣き出してしまった。
「どうしたの?なんでもいいのよ。」
娘はしゃくり上げながら、
「お母さんと、もっと、ずっと一緒にいる時間がほしい」
そう言った。
どんな大金を払っても、どこを探しても、買ってあげられないものだった。
「大丈夫よ、これからも一緒にいるから」
母がもうすぐ、私の元を去ってしまう。
だから私は、人生で一番のおねだりをすることにした。
油断すれば泣いてしまいそうになるから、病室の前で深呼吸をして笑顔を作る。
母は私の笑顔を見て嬉しそうだった。
「あなたの一番欲しいものを買ってあげようと思うの。何がいい?」
これまでもらったプレゼントは、いつも私が一番欲しかったものだった。だから本当はもう欲しいものなんてない。今までくれた分、私が全部返してあげたいくらいだ。
でも、これだけは母も無理かもしれない。
「お母さんと、もっと、ずっと一緒にいる時間が欲しい」
母の顔が曇った。ああ、やっぱり、こんなお願いするべきじゃなかった。
でも私が欲しいのはこれしかなかった。だって母がいなくなってしまったら、一緒に買い物をすることも、母の喜ぶ顔を想像しながら花束を選ぶことも無くなってしまう。ベッドで窓の外を見つめる母より、ショーウィンドウの中にあるキラキラしたバッグやワンピースを見つめる母と一緒にいたい。
「大丈夫よ、これからも一緒にいるから」
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