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VR住まい探し「空飛ぶホームズくん」開発裏話

こんにちは、リサーチ&デザイングループの上野です。
リサーチ&デザイングループでは、さまざまな兆しから今よりも良いあるべき未来をデザインし、プロトタイピングを進めている部署です。

XR分野も含めた構想もたてており、今後スマートグラスやHMDの発展で、バーチャルが意識することなくフィジカルとつながる世の中になった時にどのようなサービスを提供している、どのような世界にしてゆきたいかといった視点からデザインと技術研究をしています。
今回、その研究成果として、VR住まい探しアプリ「空飛ぶホームズくんBETA」Android版をリリースしました。

空飛ぶホームズくん開発の発端は、「3D間取り」の原型となった「Madori2VR」のR&Dを、物件内部だけでなく物件周辺の街並みも再現することで、どういうVR体験が可能になるのかを探索するというところから始まりました。

Madori2VR

開発当初はVRコンテンツをスムーズに再生可能なハイスペックPCとヘッドマウントディスプレイを用いた体験の検討を行い、2020年春「住まいの窓口」に設置して公開予定でしたが、コロナの影響で展示が難しい状況となってしまいました。

空飛ぶホームズくんPC版

その後、特定の場所で体験できるものから、多くの方に好きな場所で体験してもらえるように、Androidへの移植に大きく方向転換し、今に至ります。

「3D間取り」
https://www.homes.co.jp/3dmadori/#/

空飛ぶホームズくんでは、VRを活用した住まい探しの理想的な形を模索しましたが、ここではプラットフォームをPCからスイッチする際に大きな課題となった、Android版ならではのデジタルツイン実現方法と住まい探し体験の設計についてお話いたします。

空飛ぶホームズくんで実現した「デジタルツイン」

一番の課題は3D都市モデルをどうするかでした。

PC版で利用していたものは、主要な建造物が高精細に再現されているゼンリンのデータでしたが、Androidで扱うにはオーバースペックでした。また、当時は提供されていた地域が限られていたので、他のサービスへのリプレイス検討が、Android版開発開始時の大きな課題検討でした。。

当時リリースされていたいくつかのサービスについて、Android版移植を進めながらプロトタイピング検討を行っていましたが、いずれもこのプロジェクトとの相性が良くなく、決め手に欠いていた中、2020年夏頃に登場したのが「Google Maps Platform Gaming Services(以下GoogleMaps)」でした。スマートフォン位置ゲーム用としてリリースされ、メジャーなゲームタイトルでの使用も同時に発表されたことなどが大きなポイントとなり、かなり大きな期待をもってこのサービスへの移行を決めました。

ただ、このGoogleMapsを導入することですべてが解決できたわけではありません。3Dマップはは全国(全世界)をカバーしていましが、一部のランドマーク的な建造物を除いて、詳細な形状が再現されていない「無地の箱」で、そのまま利用すると無機質で広大な街並みがずっと続いてしまう状況でした。

この状況を打開してくれたのがデザインチームです。デフォルトではただこの無地の箱ですが、、独自のテクスチャーを割り付けることが可能だったので、どのようにすると生き生きとした街並みを表現できるか、かなりの時間を割いて検討してもらいました。

GoogleMapsでは「9スライス」という独自のテクスチャー生成ルールが用いられています。これによって対象物のサイズに合わせた自然な模様の繰り返しが可能となるのですが、検討開始時には、デザイナーが作成したテクスチャーを確認する方法が、開発環境のUnity上でしかできなかったため、確認作業が重荷となりました。これに対して、開発パートナーのホロラボ/デザイニウムのチームが、用意してくれたのがデザイナーが使用しているMac上で動作するテクスチャープレビュー用アプリでした。

アプリ導入によって、テクスチャーデータの適用と繰り返し回数などの確認を円滑に行うことができるようになりました。実際にどうなったかはぜひ「空飛ぶホームズくん」で体験いただければと思いますが、窓の形状や大きさなどが異なる複数の外壁テクスチャーをほどよくランダムに適用し、建物の高さに応じて屋根の色を変更することによって、実際のものとは異なるものの、「空飛ぶホームズくん」らしい世界観をもったデジタルツインの街並みを表現できたのではないかと思っています。またこの取り組みによって、VR空間内を自由に飛び回ったときの、空間を把握しやすさも大幅に向上したと考えています。

最近では、国土交通省が取りまとめている日本全国の3D都市データ「PLATEAU(プラトー)」や、スマートフォンでスキャンしたデータなど、3Dモデルデータを気軽に利用できるようになってきています。これらのデータについても、様々な検証を行っています。これが扱えるようになることでデジタルツイン再現度が向上するので、近い将来、これらのデータを活用した「空飛ぶホームズくん」をみなさんにご案内できるといいなと思い、引き続きR&Dを進めています。

スマホならではの住まい探し体験設計

PC版空飛ぶホームズくんでは、シングルプレイヤーでホームズくんが街や物件を案内するというコンセプトでつくられていましたが、Android版では多くの人が使えるというメリットに着目し、PC版開発時には未着手だったマルチプレイヤーでみんなで街や物件を見て回れる機能を実現しました。

今までの「住まい探し」で、ちょっといいなと思った物件の情報を家族や友達とシェアするには、HOME’Sに掲載されている物件詳細情報のページを相手に送ったり、実際に不動産屋さんに案内してもらって内見するのいずれかしかなかったと思います。

空飛ぶホームズくんのマルチプレイヤー機能を利用してもらうと、離れた場所にいる人同士最大8名が「アバター」を使って物件や物件周辺の情報を共有し、ボイスチャットを使って会話をしながら「3D間取り」によるお部屋の内見をVR内で完結することができます。

マルチプレイヤー機能実現のための重要な要素である「アバター」は、デザイン検討に多くの時間を費やした要素のひとつです。一般的な人型のものからそうではないもの、また形状の複雑さやカスタマイズ性などを、様々な検討を経て採用されたものが、現在のバージョンに採用されています。

採用したアバター

また、空飛ぶホームズくんならではのものとして、内見時の「コイン型アバター」があります。街を飛んでいるときにはアバターの大きさはさほど気にならないのですが、「3D間取り」の内見時に複数名が、特に小さな部屋に入った場合に、アバターが画面の大部分を占有してしまうような状況が発生してしまいました。他のゲームやVRサービスでは、アバターを半透明化するなどの手法が一般的かと思いますが、部屋の様子をしっかりと見てもらいたいと考えた結果、大幅に小型化しつつも向いている方向を識別できる「コイン型」という独自の手法を使いました。コインアバターのデザインは、メンバーリストの色とアバターの顔アイコンを反映したものとなっています。

内見アバター

Android版への転換は、ハードウェアの処理能力低下だけでなく、画面サイズの縮小や専用コントローラーなしの操作性など、VRのUIやUXをじっくりと考える契機になりました。この領域でのベストプラクティスやノウハウが充実していない中、このプロジェクトで得た知見はまたどこかの機会でご紹介できればと思います。

さいごに

「空飛ぶホームズくん」プロジェクトは、開始当初はほぼ一人で様々なことを行っていましたが、Android版リリース直後には社外パートナーも含めて十数名が関わる大きなプロジェクトとなりました。その間、社会情勢の大きな変化を受け、ハイスペックPCで開発していたものを、Androidに凝縮しなくてはいけないという大転換があり、プロジェクトが順調に進んでいない時期もありました。そのような中で生まれた様々な制限や条件について、プロジェクトメンバーと一緒に考え、解決してゆくことで、PC版をそのままリリースしていたら得ることができなかった発見が数多くあったことは、私にとって大きな収穫です。

実現できていないアイデアや実装できていない機能がまだまだありますが、空飛ぶホームズくんには、最近注目されている「メタバース」と「デジタルツイン」を掛け合わせ、今後フィジカルとバーチャルの世界が自然に繋がり、そのどちらも自分らしくくらし、経済活動を営めるプラットフォームを実現していければと思っています。今後もみなさまからのご意見やご相談をいただきながら開発を続けてゆければと思いますので、ぜひ体験いただきご感想をお寄せいただけますようお願いいたします。(Google Playで無料で公開中です!)


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