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おかゆのしあわせ/2021年冬

釜ヶ崎芸術大学の、食の講座として、2016年から担当させていただいている「おかゆのしあわせ」。8回目となる今回は、緊急事態制限が継続しているため、オンラインでもリアルでも参加できるような内容にしてほしい、というリクエストがあった。

これまで、健康状態に関わらず、誰もが口にすることができる「おかゆ」という料理を入り口に、さまざまな国や地域のおかゆのレシピを通して多様な食文化に触れてもらうこと、まるごとの食材を通して、食と自然のつながりに思いを馳せてもらうこと、参加者それぞれの、おかゆをきっかけに思い出される食のエピソードを分かち合うこと、を試みてきた。

それらはやっぱり、一緒につくって、同じものを食べるという、体験の共有が前提になっている。同じものを見て、聴いて、触って、かいで、味わっているということが、それを成立させていたけれど、オンラインで参加するとしたら、体験の共有はできない。いろいろと悩んだ結果、逆転の発想にした。オンライン、リアルを問わず、全員が違う体験をし、それをシェアしあう場にしてみたらどうだろうと考えた。

それぞれの場所でシンプルな白いおかゆを火にかけたあと、これまでの「おかゆのしあわせ」でつくってきたさまざまなおかゆを振り返り、イメージを広げたあと、キッチンにあるさまざまな食材(会場参加の人たちには、ココルームや私のキッチンから持ってきたもの)の中から、三種類のトッピングを選んだら、それぞれおかゆのコース料理をつくって、じっくり味わってもらう。食べ終わったあとに、振り返って一句。この一連の流れを、食卓で旅ができたらいいという願いを込めて「おかゆの旅」と名付けた。

開催当日は、想像していた以上にリアル参加者が多くて、オンライン対応は思った通りにはいかず、楽しみ上手の参加者の方々に助けていただいた感じだった。ただ、オンライン、リアルを問わず同等の体験をすることにこだわったからこそ生まれた今回のプログラムは、参加者の方たちに小さな食の冒険を提供する機会となった。

トッピングを選ぶ時間、参加者は、さまざまなスパイスや調味料、乾物などの説明を聞き、興味津々、あるいは、おそるおそる、はたまた、隣の人に勧められて、味見をしてみる。そうしているうちに、何かを思いついたような表情を浮かべて、合わせてみたいと思うものに手をのばす。そして、実際におかゆに入れてみて、自分のアイデアを確かめる。もちろん、お気に入りの定番を選ぶ人もいたけれど、想像していたよりずっと、いろいろ冒険していた。オンラインでの参加者も、世界のさまざまなおかゆの話を聞いているうちに、甘いおかゆに興味が湧いて、家にあった蜂蜜を試してみたそう。

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食べ終わったあとの一句からは、それぞれのお茶碗でくり広げられた、それぞれのおかゆの旅路が垣間見られて、興味深かった。

講座の終了後、参加者のひとりが「まるで食のDIYみたいな時間だね」と、言っていた。おかゆのトッピングを選ぶというのは、シンプルではあるけれど、それも立派な料理だと私は考えるし、自分にちょうどいいものを、自分でつくるという意味では、まさにDIYだ。

もしもこの先、参加者の方たちに、日々の食卓に飽きたり、倦んでしまったりするタイミングがきたときには、この「おかゆの旅」の体験が、そこを抜け出す何かのヒントになったら嬉しいなと思っている。

おかゆのしあわせ/Happiness of Porridge(釜ヶ崎芸術大学2020)
日時:2021年2月7日(土)14:00〜16:00
会場:ココルーム&zoomオンライン
メニュー:昆布がゆ&トッピング(スパイス、ナッツ、塩、糖、乾物など)




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