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私たちにとって「ゆっくり、いそぐ」とはどういうことか?

「意志ある経済」なんて大上段から振りかぶった概念を打ち出してきた。論理の棍棒でボコボコにしてやりたいという賢者もいるかもしれないが少し待ってもらいたい。

僕、荒川はNPO業界で3年ほど働いてきた。ソーシャルという言葉に踊り、キャリアのステージを踏み外しながらも自分らしく歩いてきたのではないかなと感じている。

少し、僕の見ている風景をお伝えしたい。議論の荒さは承知しているが、僕が作りたいのは変化だから。一緒に未来を見据えた上で、真摯に語り合いたい。

非営利組織の経済学

このような言葉を提唱した人がいるのかないのかわからないが、「非営利組織の経済学」について少し語りたい。

経済学とのお付き合いは短いので、あまり専門的な言葉はわからない。それでも「経済学」と称しているのは経済というのは社会の1つの側面であり、その側面に非営利組織が飛躍するヒントが隠されている気がしてならないためである。

経済は1つの生態系だ。調達するもの、加工するもの、販売するもの・・・。様々な企業体がそれぞれの仕事の連鎖によって利益を獲得し、生息している。Webを生息地とするものもいれば、日本全土に広がるもの、希少種のごとく地域に根ざし、独自の生存戦略を持っているものと様々だ。

彼らの主食は市民やその市民たちの関係性である社会、環境資源である。市民は時に消費者として、労働者として企業体の養分やエンジンとなり働いている。

環境資源はその養分やエンジンと化学反応を起こし、生体の維持に貢献している。

この企業体たちの生態系は食物連鎖ではなく、お金で繋がっている。お金が通過する経路が経済というのが僕の理解である。

僕の財布も経済の1つの経路である。非営利組織に託された助成金や寄付ももちろん経済圏に入っている。

ところが、最近この経路は随分悪者扱いされている。色々な人がいるが、話しぶりからは市民を消費者として貶め、労働で使い潰し、環境資源を食べ尽くしている悪者。それが経済や企業。そんな「ニュアンス」を感じることがある。

僕もそう思う面があるのも確かだ。そんな悪者に囚われたくなくてNPO業界にやってきたのだから。だけど、今日、僕が服を着て、ご飯を食べて、眠りにつくまで企業の経済成長を抜きに受けられる恩恵はおそらくない。

こんなに豊かな生活を享受できる環境を作り上げた経済には当然、良い面がある。何事にもいい面も悪い面もある。

非営利組織の仕事と経済

経済をそんな感じで捉えたときに感じるのは「なぜ、非営利組織にお金が巡ってこないのか?」を真剣に考えている人はどれだけいるのだろうか?

非営利組織はその事業活動で挙げた利益を出資者に配分する仕組みがないだけであって、利益をあげることが否定されているわけではない。いうまでもなく、収入を得て良いし、人件費をもらって良い。

しかし、どうも「非営利」という名前もあってか、お金に対して潔癖すぎるところがあるように思う。

またこんな疑問がある。

お金を受け取るだけの価値がある活動はどれだけあるのだろうか?

非営利組織がこの問題に答えるためには「公益性」について真剣に考えないといけない。「その値段。高いか?安いか?」で仕事について問い直さないといけないと述べた。これは非営利組織にも言えることである。

公益性とは関わる人全員に価値があることだと思う。「お金を払ってくれたら価値を提供しますよ」というのがビジネスだとしたら、非営利組織は「私たちはあなたが誰であろうとこの価値を届けますよ」というスタンスなのだと思う。

その意味では行政に近い。しかし、行政サービスと違うのは取り組む課題の特殊性である。行政は私たち市民のインフラを支えている。本当に市民全員にとってサービスを提供する。

非営利組織は課題はあるけど、行政と比べると少し特殊性の高い課題を解決することがその使命である。例を挙げると「障がい」「貧困」「環境保護」など様々だ。

僕自身が業界全体の課題だと考えるのは、社会課題の発信をする人々の情報が自団体が取り組む課題の分野に偏りがちだいうことだ。

経済や政治的なアジェンダなどについて意外なほど関心を持っていない人が少ないし、そこに対して恐ろしいほどの洞察力を持つ人はさらに少ない。そういう全体を俯瞰せずに自団体の課題にだけ注力をするとどうしても視野の狭い戦略、活動になってしまいがちである。

大きな視野で細部を考え、戦略を語り、ローカルに活動することによって非営利組織の仕事は随分変わると思う。

「ゆっくり、いそぐ」とはどういうことか?

さて、経済の話から脱線して、非営利組織の仕事について書いてきたが、僕が提案したい考えが「ゆっくり、いそげ」である。

「ゆっくり、いそげ」は1つ1つ丁寧に仕事をすることが結果的に早く目的地までたどり着くことをイメージした言葉である。書中では2008年北島康介選手を応援する平井コーチが「勇気を持って、ゆっくりいけ」と声をかけたことなどが引用されている。1ストロークを丁寧に、大きくすることで進むスピードは速くなる。

発想としてはシステム思考に近いのではないかと考えている。システム思考とは1つ1つの要素をバラバラに考えるのではなく、その要素間のつながりや関係性に目を向け、全てを繋がりあったものとして捉え、考える思考法である。

「ゆっくり、いそげ」とはこのシステム全体を動かすことが重要だと考えている。例えば、お金をかけて、広告宣伝を打てば、たくさんの人に一瞬で知ってもらうことができるかもしれない。一方で、一人一人のお客さんを感動させられれば、口コミでどんどん情報が広がっていくかもしれない。

たくさんの要素に働きかけるのではなく、一点に強く働きかけることで、全体を動かしていく。そんな大きな1ストロークが非営利組織には求められていると思う。

我に支点を与えよ。さすれば地球をも動かさん。

と、物理学者アルキメデスは語った。僕たちは様々な情報を整理し、お金が通過する経路である経済圏のどこに支点があるかを見通し、心ある仕事でその点を動かす。

ビジネスで社会を変えるソーシャルビジネスが一時期ブームになったが、必ずしもビジネスでなくていい。経済システムを動かす一撃が必要なのだ。

私たちにとって「ゆっくり、いそぐ」とはどういうことか?

僕が「意志ある経済」と述べたのは企業の生態系でもある経済を私たちが創りたい社会に向けてデザインしなおすためだ。

社会活動家にビジネスモデルはない。だけど、システムを動かす大きな一撃を持つことができるなら、十分に全体に影響を及ぼすことができるだろうと僕は思う。

その一撃は課題に直面する当事者を支点にすることができれば理想的だけど、難しければ、組織として持っている「資源」を効果的に使うことが望まれる。

施設や場所を持っていれば、その場所を使って貢献できるかもしれない。環境保護に関する知識を持っていれば、環境負荷を低減する提案が企業にできるかもしれない。

これからの社会運動は怒りではなく、贈与を持って始まる。

非営利組織は社会貢献を考えるために、周囲のステークホルダーにどのように貢献できるのかを真剣に考えなければならない時代にあると僕は思う。

つまり、「その仕事は相手の心を動かす仕事(贈与)か?」である。

その問いは企業も非営利組織も変わらない。

贈り物というのは、したがって、与えなくてはならないものであり、受け取らなくてはならないものであり、しかもそうでありながら、もらうと危険なものなのである。それというのも、与えられる物それ自体が双方的なつながりをつくりだすからであり、このつながりは取り消すことができないからである。  ーマルセルモース「贈与論」より

贈与は非営利組織が社会を変える武器になる

と僕は思うのだ。

あとがき

自分の本分はこれだと思い定めたことで迷いがなくなった。いつでも帰れる場所のある安心感が生まれた。全てを自分一人で担う必要はないと肩の荷が下りた。依って立つ原則を手に入れた。そうしてぼくは今、遠くまで行ける気がしている。ー「ゆっくり、いそげ」あとがきより

さて、あとがきに始まり、あとがきに終わる奇妙な連載企画が終わろうとしている。影山さんが書いたこの文章を読みながら、僕自身思いを定めたところはあると思う。それでも容易くぐらつき、足元をすくわれ、まだまだ未熟だなと思い知らされる。

そんなことを繰り返しながら、この文章は生まれてきた。この連載があなたと僕をつなぐ、「僕からのGift」になれば幸いである。

PS
弊社代表小山が影山さんに連絡をとり、僕は近々、影山さんに会いにいく。
何を語り、何を聞き、どこへいくのか。ただの巡り合わせか何かの縁か。

もし、この続きを書くことがあるとすれば、それはきっと新しい始まりだと思う。

長く、暑苦しい文章を最後まで読んでくださってありがとうございました。
この文章が何かの役に立てば幸せです。

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この連載シリーズはNPO法人Giftの以下の企画に紐づいた企画です。よかったらチェックしてみてくださいね。

〜学校では教えてくれないお金の話 vol.1〜

「ゆっくり、いそげ」から学ぶ新しい経済の在り

【学校では教えてくれないお金の話】は全6回のシリーズとして、お金や経済に関する勉強会・講演会・読書会などを企画していきます。
参加費:2,000円(もし難しい方は、一度ホストまでご相談ください)
人数:12名

【大阪開催:定員に達しました。】
日時:2019年6月29日(土)14:00~17:30
場所:フューチャーファシリテーションカフェ
   大阪市西区西本町1-8-2 902号室
   (エレベーターで8階までお進みください。その後階段で9階へ登ります)
https://www.facebook.com/events/443734346359903/

【東京開催】
日時:2019年7月7日(日)14:00~17:30
場所:カフェスタジオmagari
東京都中野区本町6-24-5
https://www.facebook.com/events/649021238857779/


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