学ぶ前に知りたかった、デザイン思考の話。

「デザイン思考」の根底にある思想について考える

お知らせ

改稿しました。

学ぶ前に知りたかった、デザイン思考の話(上/思想編)|いく@アートがわからない @ik_reflection #note https://note.com/art_reflection/n/n0c30d86325e2

基本的には上記をおすすめします。

こちらに関しては消しても良いのですが、自分自身の説明力の向上を示すものとして備忘録にします。

以下本編

今回のテーマは、「デザイン思考のとそのプロセスが何を目的としてデザインされているか」

デザイン思考はここ数年のバズワードなので、耳にする機会も多いかと思う。
デザイン思考が何かを調べると、デザイン思考は5つのステップだとか、デザイン思考はサイクルを回し続ける、だとか、延々とそういう話が出てくる。
しかし、デザイン思考の根底にある思想についてや、デザイン思考のプロセスがどういう目的で設計されているかについてはことさら言及がない。
ただの便利ツールとしてしか理解してない人もいるんじゃないだろうか。
今回は、デザイン思考の根底にある思想を掘り下げることで、デザイン思考をより深く理解する。

結論

・デザイン思考とは、「良いデザイナー達はいつも良いものを作るから、その考え方や方法をまとめてみた」ということである。
・デザイン思考とは、ユーザー中心主義を実現するための思考法だ。
・デザイン思考とは、単なるメソッドではなくマインドセットだ。
・デザイン思考とは、ユースケースを作るために行われる。ユースケースとは、ユーザーのインサイトとインサイトへのアプローチをまとめたものだ。要件定義にも近い。
・良いユースケースを作るためには、「圧倒的な情報量を用意する」「バイアスをなくして考える」「アイディアが自立して成長する土壌を作る」という意識が重要だ。
デザイン思考をやるために必要なマインドセットとして「ユーザー視点」「チームとコミュニケーションをとる」「作ってみる」「一つのアイディアに固執しない」「このサイクルを何度も回す」などが挙げられるが、全てはその3つのエッセンスを実現するためのアプローチだ。
・良いユースケースとは、アイディア良いペルソナと、そのあとに作成されるNarrativeによって生まれる。
・ペルソナとは、「架空の、実在しうる人格」であり、その人が好むプロダクトやサービスを作れば、似たような属性の人が欲しいものとなる。
・デザイン思考のプロセスは、そういうデザイン思考がなんたるかを理解せずとも自然と行えるように設計されている。ポストイット遊びではない。

デザイン思考って?

知らない人もいるかもしれないので。まず、デザイン思考とは何か。
簡潔にいうと「良いデザイナー達はいつも良いものを作るから、その方法をメソッド化してみた」ということだ。
良いもの、が何であるかという議論は山とあるけれど、近年はユーザー中心主義、HCD (Human Centerd Design)などと言われる、「ユーザーの体験を中心にデザインされたもの」をさすように思う。
ユーザー中心主義に関してはここら辺を読んで欲しい。
お客様第一主義とユーザー中心デザインの違い

さて、我々の周りの物は常に変遷を続けている。

大量生産の時代では、ものは作り手が強く、これらの時代は製品中心主義と呼ばれていた。
効率的な生産できる形が重要であり、ユーザーは二の次だったが、それでもユーザーはその選択肢の中から選ぶしかなかった。
ヘンリー・フォードが最初に車を売る時に行った有名な「顧客の望む色はどんな色でも売ります--それが黒である限り」という言葉は、製品が作り手の都合で用意されていることを物語っている。
大量消費の、選択肢が乏しい頃はそれで良かったのだ。それでもユーザーが買うから。

時代が現代に近づくにつれ、ものが多くなり、ユーザーはたくさんの選択肢から買うものを選べるようになる
作り手に不自由させるものは売れなくなり、徐々にユーザーの好まないものは淘汰されていった。
淘汰に対する対応として、次第に価格競争の波がやってくる。
安く商品を作る、ユーザーが買う。さらに安く商品を作る、そしてユーザーが買う。
しかし、価格競争は最初から限界が見えている。

価格競争が持続可能でないと気づいたデザイナーたちは、どうにか、価格が高くてもユーザーがえらんでくれるものの模索を始めた。
既存の価格競争から逸脱し、ユーザーが声にできなかった、真にユーザーが欲しいものを目指す。それこそが所謂破壊的イノベーションである。
ユーザー中心主義はその辺りで思想として確立されたように思う。レッドオーシャンを捨ててブルーオーシャンを探し出す挑戦でもあり、いかにユーザーに寄り添いユーザーが欲しいものを作るかという、大いなる航海の船出となった。
デザイン思考は、ユーザー中心主義を実現するための思考法だ

デザイン思考とは、メソッドではなくマインドセットだ。

デザイン思考は、道具じゃなくて、思想だ。
道具(デザイン思考で提示されるプロセス)は思想を体現するためにすぎず、思想を学んでおけば、道具は簡単に扱える。
何故これをするのかがわかれば、それをしなくてもいい。別のことをしてもデザイン思考のプロセスたり得る。
メソッドとしてのデザイン思考は、デザイナーでない人が脳死でそれをできるように整えてくれているだけで、デザイナーたり得たいならそれではいけない。
「デザインシンキングなんて糞食らえ」。ペンタグラムのナターシャ・ジェンが投げかける疑問|Webマガジン「AXIS」
デザイン思考の思想を理解していれば、こんなトンチンカンな批判をしなくてよくなる。デザイン思考とはポストイット遊びではないのだ。
そして、ここで言及されるような、成果に結びつかないデザインをしなくてすむ。

デザイン思考のプロセス

いわゆるオーソドックスなデザイン思考のプロセスとはこんな感じだと思う。
【初心者向け】ビジネスに必要な「デザイン思考」とは何か?プロセスをイラストで紹介!

デザイン思考-02

1.デザイン思考のプロセスは、『ユーザーの視点を理解する』ところからはじまる。
2.その後に問題を提起し、こう言うものがユーザーに求められるんじゃないか?と仮説を立てる
3.仮説からアイディアを作る
4.プロトタイピングする
5.プロトタイピングしたものが優位だったか検証する
6.このサイクルをぐるぐる回す

デザイン思考には数多の流派があるようなので、僕が行なってるデザイン思考はこういうものだよ、という具体的な補足をする。これはあくまで僕の解釈だデザイン思考-03

1.ユーザーの視点を理解する / 仮説を立てる

   市場調査
   周辺技術調査
   ステークホルダーの洗い出し
   PhilosophyとVisionの設定 / 修正
   フィールドワークの設計
   観察 (エスノグラフィー)
   5モデル分析
   メンタルモデルの作成
2.仮説からアイディアを作る
   アイディア出し (ブレストやKJ法、サービスエコシステム、コンセプトスキームなどを使うことが多い)
   ペルソナを作る
   CJMを作る(customer journey map)
   Narrativeを描く
   ユースケースを作る(コンセプトの完成)
------------------ここまでがデザイン思考のプロセス------------------
------------------ここからはデザイン思考の実装のプロセス------------------
3.プロトタイピングする
4.プロトタイピングしたものが優位だったか検証する
5.このサイクルをぐるぐる回す

のちに言及するが、実を言うとKJ法だとかブレストだとかはどうでもいい。それらは全て、デザイン思考のエッセンスを実現するために行われているに過ぎない。とりあえずデザイン思考の思想を実現するためのアプローチとしてKJ法だとかブレストが優位性を持っているから使っている。だから、デザイン思考の思想を実現できるなら、他の方法でもなんでもいい。

デザイン思考はなんのために行うか。

結論からいくと、デザイン思考の最終目標は、ユースケースを作ることだ。
これができれば、多分”デザイン思考”の役目はおしまいで、あとはそのユースケースから外れないようにものをデザインする。もちろん端々にデザイン思考は必要になるけれども、それは枝葉である。
いかにユーザーに寄り添ったユースケースが作れるかが、そしてそのユースケースを作れるようチームをファシリテートできるかが、デザイナーとしての力量が問われるのだと思う。

つまり、デザイン思考における、ユースケース以前のプロセスは、全てユースケースをデザインするために設計されている。

ちなみに、ユースケースが完成する、とは、要件定義が完了した、ことを意味する。
世にいう''デザイン''のような、単純なものの形のデザインは、ここから始まる。

良いユースケースをデザインする。

良いユースケースをデザインするためには、良いペルソナが必要だ。
ペルソナとは「架空の、実在しうる人格」であり、その人が好むものを作れば、似たような属性の人が欲しいものが作れる、という考え方だ。
ユースケースは、ペルソナが欲しいもの、欲しい機能、欲しい体験をまとめたリストだ。

だからデザイン思考における、ユースケース以前のプロセスは、厚みを持った、実在しうる、良いペルソナをデザインするために設計されている、と考えている。

デザイン思考のエッセンス

その上で僕は、デザイン思考という思想におけるエッセンスを
「圧倒的な情報量を用意する」
「バイアスをなくして考える」
「アイディアが自立して成長する土壌を作る」

の3つだと考えている。
「圧倒的な情報量を用意する」「バイアスをなくして考える」は、良いペルソナを作るために必要であり、
「アイディアが自立して成長する土壌を作る」は完成したペルソナからユースケースを作るために必要だ。

よく言われる「仮説を立てる」は「バイアスをなくして考える」先にある。
バイアスをなくして、ユーザーが真に欲しいものはこうではないか?と考えた結果が「仮説」となる。

また、デザイン思考をやるために必要なマインドセットとして「ユーザー視点」「チームとコミュニケーションをとる」「作ってみる」「一つのアイディアに固執しない」「このサイクルを何度も回す」などが挙げられるが、全ては先にあげてる3つのエッセンスに通じる。

そして、先にも言ったがKJ法だとかブレストだとかもデザイン思考のエッセンスでもなんでもない。
それらは全ては、この三つデザイン思考の思想を実現するアプローチとして優位性を持っているから使っている。だから、デザイン思考の思想を実現できるなら、他の方法でもなんでもいい。

さて、それぞれのエッセンスの解説をする。

「圧倒的な情報量を用意する」

デザインをする上で、情報収集は大事だ。
当然、デザイナーであるなら、情報なら集めてるよ!と反発するだろう。
しかし、本当にきちんと情報を収集出来ているだろうか?ただ単に選考事例や強豪調査をしただけではないか?ユーザーの観察はした気になっていないか?本当にそれは、有意な観察だったか?

観察を例にとる。
エスノグラフィーにもいくつか流派があるようたが、僕が学んだのは執拗に相手を見るような、一挙一動を捉えるやり方だ。
これは無意識的な行いを捉え、その裏にインサイトがないかを探るためのものである。

「リラックスできるホテルのラウンジ」のデザインをするために、コーヒーを飲む男性を観察したとする。
彼は「机からコップを取って飲み物を飲んだ」のではなく
「体重をかけていたソファから上体を起こして一瞬コップを見つめ、右手でコップを取ろうと手を動かし、持ち手の近くで一瞬右手を停止させたのち、持ち上げる。コップを口元までかかげて、最初は低い角度で、そのうち腕を持ち上げて飲み物を飲み始めた」と観察をする。
前者からインサイトを見つけるのは難しいが、後者はさほど難しくない。
『どうして上体を起こしたんですか?』
『そのままだと取りにくいから』
ソファにゆったり座ったまま取りやすい位置に机があったら、より良いくつろぎを提供できるかもしれない。

「バイアスをなくして考える」

エスノグラフィーを書いた後は、それを元に5モデル分析と、メンタルモデルの抽出をする。
5モデル分析とは、自分の見たものを 空間/使われた道具/人と人の関わり/時間の流れ//その全ての緩いつながり の5つに分解し、1つのイベントを多角的に見る行いだ。
メンタルモデルはそこにいる人がどのような行いをするかを簡易的に表したもので、これはペルソナ作成時に利用される。実在の人物から抽出したメンタルモデルを持ったペルソナは、実在しうる厚みを持つ。

また、アイディア出しに置いてもバイアスの排除が非常に重要だ
作りたいもの、例えば「リラックスできるホテルのラウンジ」を起点にアイディア出しをすると、どうしても既存の「ホテルのラウンジ」の域を出ない
それよりかは、実現したい「リラックス」をどうにか「ホテルのラウンジ」に落とし込む方が、より魅力的な「リラックスできるラウンジ」になる。

アイディア出しにおいても、情報収集においても、「リラックスできるホテルのラウンジ」のことを考えつつ、いかに「ホテルのラウンジ」という常識を打ち破っていくが大事に思う。
例えば僕が素人相手にファシリテートするなら「自分が好きなホテルのラウンジ」「自分が嫌いなホテルのラウンジ」「自分が変だなって思ったホテルのラウンジ」「どんなリラックスの形態が存在するか」「自分はどんな時にリラックスできるか」「そもそもリラックスしたいのはいつか」なんて話をする。
さらにいうなら、慣習的には「リラックス」と言われていなかった時間を「リラックス」と再定義しても良いかもしれない。習うものは無限にある。

Visionがふわっとした言葉で書かれているのはこのためであり、Visionの時点では、どんなアプローチで目標を達成するかを言及しない。細かく設定すると、アイディアにバイアスをかけてしまうことになるからだ。
Visionは多分「マッサージの施術中のように、思わず寝てしまうぐらいようなホテルのラウンジが作りたい」「個室居酒屋のように落ち着けるホテルのラウンジが作りたい」「ずっと快適にいられるホテルのラウンジが作りたい」ぐらいのものになる。

それがアイディアの段階では、「マッサージの施術中のように、音楽とアロマを提供する」とか「個室居酒屋のように席ごとに仕切りを作る」とか「人が快適に感じる環境(温度や湿度)を機械で維持し続けてくれる」とかになる

ちなみに僕は、どのアイディアを選ぶか迷った時は面白いほうを選ぶことにしている。

「アイディアが自立して成長する土壌を作る」 / Narrativeを描くとソファが生える。

アイディア出しをしたあとはディティールを作り込む作業だ。
エスノグラフィーと情報収集を終えたら、ペルソナを作る。
良いペルソナを作るだけの情報はもう集まっているはずだ。
さっき、良いユースケースをデザインするためには、良いペルソナが必要だと行ったが、なぜユースケースを作るためにペルソナがいるかというと、プロダクトやサービスと彼/彼女にまつわるNarrativeを描くからだ。

Narrativeとはペルソナが、どう自分たちのデザインしたプロダクトやサービスに触れていくか、出会うところ、買うところ、使うところ、そしてどう思うか、一挙一動、その時の感情、周りの反応、そういうものを、描いたものだ。CJM(customer journey map)のように流れの中の1シーン1シーンを想像するのではなく、全体を一つのシークエンスとして想像する。ユーザーの生活や人生の中でのプロダクトやサービスのタッチポイントを描く。
Narrativeを描くことを怠って、単純な図表としてのCJM(customer journey map)で終わってしまうデザインを見かけるのだけれど、Narrativeまで書かないとダメだ。ちなみに僕はいつも物語形式で書いている。僕の修論の付録には、僕が書いたNarrative、短編小説が乗っている。

Narrativeを描き始める。基本的には普通にデザインしたものと、デザインしたものに触れる接点を描くのだが、どうしても物語やユーザーの都合上、アイディアや設定を曲げたくなる。この感覚が非常に大事だ。これが魅力的なデザインになる肝だ。

僕はこれを「ソファが生える」と呼んでいる。
あなたは、「リラックスできるホテルのラウンジ」を作っている。
窓から見える景色は立ち止まって見たくなるほど綺麗で、ホテルとしてもウリのひとつだ。
ペルソナはそこを訪れ、景色を見る。思わず見蕩れてしまう。でもずっと立って見ているのは億劫だから、綺麗な景色が見える場所に座りたい。だから「ソファが生える」
文字に起こせばすこぶる単純な話なのだけど、「オーナーがロビーにソファが置きたかった」わけでも、「ソファがひとつ欲しかった」わけでもなく、ただ、デザインが自立して、そこに「ソファが生えた」。地面からにょきにょきって。

創作をする人なら味わったことのある、キャラや物語が動くってやつ。
ここで「生えたソファ」ってのは、ペルソナがそうしたかったから生まれたもので、つまり「ここに座りたかった」はユーザーのインサイトで、「ソファ」はインサイトに対するソリューションである。
ちなみに、座りたいがインサイトなのだから、必ずしも座る形はソファじゃないかもしれない。ベンチかもしれない。

Narrativeを描くと、実現したいVisonを実現するのに必要な要素がNarrativeの端々に現れてくる。
それをリストとしてまとめたものがユースケース。

ユースケースまでくるとアイディア出しはほとんど完了。プロダクトやサービスの場合は、あとは実装。

あとは、これらのVisionとユースケースからぶれないように物をデザインするだけ。


結論

これは最初に書いたことと全く同じであるが、改めて。

・デザイン思考とは、「良いデザイナー達はいつも良いものを作るから、その考え方や方法をまとめてみた」ということである。
・デザイン思考とは、ユーザー中心主義を実現するための思考法だ。
・デザイン思考とは、単なるメソッドではなくマインドセットだ。
・デザイン思考とは、ユースケースを作るために行われる。ユースケースとは、ユーザーのインサイトとインサイトへのアプローチをまとめたものだ。要件定義にも近い。
・良いユースケースを作るためには、「圧倒的な情報量を用意する」「バイアスをなくして考える」「アイディアが自立して成長する土壌を作る」という意識が重要だ。
デザイン思考をやるために必要なマインドセットとして「ユーザー視点」「チームとコミュニケーションをとる」「作ってみる」「一つのアイディアに固執しない」「このサイクルを何度も回す」などが挙げられるが、全てはその3つのエッセンスを実現するためのアプローチだ。
・良いユースケースとは、アイディア良いペルソナと、そのあとに作成されるNarrativeによって生まれる。
・ペルソナとは、「架空の、実在しうる人格」であり、その人が好むプロダクトやサービスを作れば、似たような属性の人が欲しいものとなる。
・デザイン思考のプロセスは、そういうデザイン思考がなんたるかを理解せずとも自然と行えるように設計されている。ポストイット遊びではない。

これが、デザイン思考5年目の、僕の思うデザイン思考である。

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