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書評:科学者が消える ~効率化の先に低下する日本の研究力~

今回ご紹介の書籍
岩本 宣明 著 「科学者が消える ノーベル賞が取れなくなる日本」 東洋経済新報社

概要 ここだけ読めば内容把握

 皆さんは日本の研究力がどれくらい高いかご存知でしょうか?2000年代から毎年のように日本のノーベル賞受賞者が発表され、やはり日本は技術大国だと思われている方も多いかと思います。今の段階では確かにそうです。しかし、この日本の研究力、技術力は失われつつあるという危機感が本書には込められています。
 日本の研究力、技術力の衰退は、大学のランキング(発表する研究の論文の質が直結)の低下によって如実になっています。原因は基礎研究の先細りにあるそうです。じっくり時間をかけて「役に立つかもしれない/学術的な意義がある」研究が許されず、「すぐに結果が出る/必ず役に立つ」研究を促されているためだとされています。これは、「そういうトレンドだ」とかと言うよりは「そうしないとお金を渡しません」という政府の政策が背景にあるというのです。
 研究費という生命線が不安定になった研究者たちは、研究費獲得のために申請書類の作成に追われ、本来注力するはずの研究活動(実験・調査・論文執筆)に割く時間を減らさざるを得ない状況に陥っているそうです。
 そんな政府の失策ともいえるべき背景もあり2000年に入り、毎年のように日本人のノーベル賞受賞に沸く日本ですが、30年後の2050年には受賞者数は1/5に激減すると予想されています。もう科学立国であるとか技術大国であるとは言えない状況になるでしょう。
 さらにマズいことに、魅力のなくなった日本の大学に優秀な人材(国内外から)は集まらず、日本が主に外貨を獲得しているハイテク産業、製造業で活躍できる優秀な研究者は減少の一途をたどることが予想されています。「ノーベル賞が取れなくなる」「研究者が減る」という限られた人たちの問題ではなく、日本の国力の低下につながる恐れがあると考えられている大問題なのです。

本書が浮き彫りにする問題点「ノーベル賞が取れない日本は飯が食えない」

 本書を読んで、科学技術力の低下とノーベル賞受賞件数の減少は分けては考えられないと思いました。「ノーベル賞を取っても目で見える金銭的なメリットは賞金くらいなのでは?」と考えてはいけません。日本は資源国ではありませんから、天然資源のほとんどを輸入に頼っているのです。日本の貿易の特徴(こちらのサイトに非常に分かりやすくまとめてありました)から考えるとこの傾向は一目瞭然です。
 日本の貿易輸出品目はハイテク製品、自動車に頼っていることを考えると、技術を駆使して原料を加工して付加価値をつける能力が必要なのです。「日本が保有する資源は人的資源だけである」といっても過言ではありません。今のインフラ、生活水準、文化水準を維持するためには外資を稼いで、お金で資源を買うしかないのです。電気を作るには石油が必要です。農業で作った作物も、トラックなどを用いて流通させないと行きわたらないので「外資獲得→石油、資源を購入」というステップは必須です。
 ノーベル賞が取れない低技術国になった場合、日本は今のような高付加価値の製品を輸出し続けられるのか(外貨を稼ぎ続けられるのか)、甚だ疑問です。
 もう一度述べますが、日本が保有する資源は人的資源だけだということです。これを前提に考えると、日本の学術界から魅力がなくなることは良くないことだと強く言うことが出来るでしょう。

下がる日本の大学ランキング:魅力がなくなった大学には優秀な人材が集まらない

 世界中の大学を上位200校までランキングした「世界大学ランキング」において日本の大学は、そのほとんどがランク圏外であるとされています(本書p96参照)。2019年のTimes Higher Education (THE)ランキングの評価でランクインしているのは東大(42位)と京大(65位)のみとなっております。THEランキングは独自の審査基準(論文被引用回数、教育、産業からの収入、国際性、研究の5項目)に照らし合わせて評価しているそうです。
 日本の大学の世界大学ランキングは2016年に審査基準の改定により日本の大学の世界ランクは軒並み下落しました。東大京大も例外ではなく、2015年まで二十位前後を推移していたランキングは現在の水準まで落ちたそうです。このランキングの下落で考えられることは大学のブランド力の低下と人材が集まらないことだと考えられます。JASSOの報告によると、現状では日本の大学に留学する外国人は増加し続けておりますが、大学ランキングの低下に伴い、他国の大学に優秀な学生が流れていく可能性も考えられます。

外国人留学生推移

国を豊かにするのは創造性の高い人材の密集

 ここで、本書とは別の書籍ですが、谷本真由美著「世界のニュースを日本人は何も知らない」にて論述されている内容を少しご紹介です。本書の第二章で、国の経済の発展を促すのは創造性の高い人材の密集にあるとの論述があります。例えば五大湖周辺のシリコンバレーなどが代表的で、創造性に富む優秀な人材(特に外国人比率が高く、全米比2.8倍)が集まったことによって、莫大な富を生み出す結果を生んだというのです。
 興味深いことに、スタンフォード大学の調査によれば、創造性に富む人たちには以下のような特徴があるとする見解もあるそうです。
1. 移民
2. 同性愛者、男性的な女性、女性的な男性
3. 病弱

さらに、UCバークレーのエンリコ・モレッティ教授は彼の著書「年収は住むところで決まる―雇用とイノベーションの都市経済学」において高度な教育を受けた移民はその国に高い創造性をもたらし仕事を生み出すので、自国民の仕事が増えるとも述べられているそうです。
 優秀な移民を増やす手段、それは優秀な外国人留学生を多数受け入れ、日本で働くことに興味を持ってもらうことだと考えます。優秀な外国人留学生の受け入れは、優秀な移民の増加につながるのです。

つまり、日本の大学に魅力がなくなれば国力が落ちる

 しかし、日本の大学ランキングが低下するとどうでしょうか?海外の若者は「日本の大学に入学しても得られるものが無さそうだ」「優れた研究が出来ないかもしれない」そう考える外国人が増えると思います。彼らが「日本で学ぶより、欧米、シンガポール、中国で学ぶ方が良い」と考えるならば、今後は外国人留学生が減っていくでしょう。
 留学生が減るということは、そのまま日本で働く外国人、しかも優秀な人材が減ることを意味し、したがって日本の産業が脆弱になる可能性が強く予想されるのです。

パート1はここで終わり、次回は大学の研究の衰退の原因について解説します

 記事が長くなるので、一旦ここで区切ります。次のパートではそもそも何故、日本の大学ランキングが下落しているのか、そしてその病巣はどこなのかを本書に従って解説してまいります。深いところで我々一人ひとりが関係する内容だと思いますので、次回の内容を読んでいただくか、本書を手に取っていただけたら幸いです。


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