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きっかけは子どもでも、今では二人の趣味に。坂本家が家族で関わるライフセービングとは?

ライフセーバー名鑑No.8 坂本靖さん・千佳子さん

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坂本 靖さん・千佳子さん
西浜SLSC所属

家族4人全員でライフセービング活動に携わる。きっかけは子どもでも、今では二人の趣味に。
ライフセービング活動をしている人なら知らない人はいないであろう、坂本一家のご両親にお話しを伺った。

ライフセービングと出会ったきっかけ


子ども二人が通っていたスイミングスクールでは、冬の2か月間、8回限定でライフセービング体験ができるプログラムが組まれていたという。
そこで初めてライフセービングという存在を知った。
当時は湘南・茅ヶ崎に住んでいても、ライフセービングと聞いて「海で救助する人」くらいの認識しかなかったそう。

しばらくはそこでしか関わりがなかったが、陸さん(兄)が小学6年生の頃に西浜で年間のジュニアプログラムが始まった。
数か月先に始めていた友達もおり、二つ返事で参加を決めた陸さん。
佳凪子さん(妹)もはじめは躊躇していたが、友達に誘われて参加するようになった。

身近ではあるが、海に入ること自体には慣れていない状態でのスタート。
ご両親として不安はなかったのだろうか?


「まったくありませんでした。見てくれている人もいるし、なにより楽しそうにやっているからやらせてあげたいと思った」

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活動の中では「挨拶をしましょう」「器材は大切に使いましょう」といった基本的なことも教えられており、時には厳しく叱られる場面もあったそう。

器材の一つに、コンペキャップ(コンペティションキャップ)がある。
コンペキャップとは、ライフセーバーが監視活動をする際にかぶる赤と黄色のパトロールキャップをもとに、競技用に、チームごとに作られたものである。
パトロールキャップは混雑した海水浴場でもライフセーバーだと一目でわかってもらうための重要なものだ。

10年ほど前までは、競技中にコンペキャップを失くすと失格となるルールがあった。

子どもたちも、特に波のあるコンディションでレースをする際は、頭を押さえて上がってくることが普通であった。

今でこそ自然に取れてしまった場合は失格にならないが、故意にキャップを外した場合には失格となる。
それほどライフセーバーにとってはキャップが重要だということを、幼い子にも教えてきたのだ。

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ジュニアの活動では競技がメインになることが多いが、競技だけではなく
「なぜ泳ぐのか」「ライフセーバーとは何者なのか」を意識して活動してほしいという思いの元、そのように厳しくしてきたのではと想像する。

また、大会ではほかのクラブの子に「勝つ」よりも、仲良くなることを一番に教えられていたそう。
一緒にレースをする人は『敵』ではなく、『協力して救助や活動をする仲間』ということを意識してほしい。
そんなコーチの思いが伝わってくるようだ。

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オフィシャルを始めたきっかけ


西浜のジュニアクラブは「習い事」という枠ではなく、「地域で行う活動」のような認識だったとのこと。
だからこそ、子供をコーチに預けてまるっきり任せきり、ではなく、参加する子供たちの保護者達もみな、「私たちにも何かできることはないか?」という思いが強かった。

また、当時はジュニアのころからライフセービング活動をしている子は、今よりもぐんと少なく、クラブ活動や大会の中では非常に目立つ存在であったこともあり、クラブを問わず多くの大人たちが陸さんと佳凪子さんを可愛がっていた。

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そのような中でご両親にも「ライフセービング活動にも、まわりのライフセーバーにも恩返しができるようなことをしよう」と思うようになり、靖さんが千佳子さんを誘ってオフィシャルの資格を取ったのだそう。

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はじめは子どもたちが出場する大会は、応援とビデオ撮影のためオフィシャルとして参加はしなかった。
のちに子供たちが大学生になってからは、大学のチームで応援・ビデオを担当してくれるので、と、子供たちが出場する大会でもオフィシャルを請け負うようになった。


保護者として、オフィシャルとして、観戦マニアとして


「一番良い観戦席ですよね。観戦マニアなんです」
と嬉しそうに靖さんが語ってくれた。

声を出しての応援はできないが、ほかの誰からも遮られることなく観戦できるのがオフィシャルの醍醐味だという。

でも、オフィシャルをやっていると、陸さんと佳凪子さんのレースを見られないこともあるのでは?

「そうですね。どうしても応援したい最後のインカレはオフィシャルではなく応援に徹しました。普段の大会では休憩時間が合えば見ますが、見られないこともあります。でも、みんなのレースを見たいんです。一番目にゴールする人も見たい。そして、一番最後まで頑張っている人も見たい。レースを見ていると、人間の良いところも悪いところも見えて面白いです。」

人間観察ができる、とこれまた嬉しそうに話してくれた。
たしかに競技会中は人間の素の姿が見られるいい機会である。

レース前に緊張しているとき。
仲間の応援をして熱くなっているとき。
レースで身体を酷使して疲れ切っているとき。

そんなときに余裕のある人もたくさんいるのが、ライフセーバーのすごいところであり、魅力であると教えてくれた。

一番にゴールしてきた人が、最後の競技者まで待たずにすっといなくなることもある。
逆に最後まで見守り、応援までできる人もいる。
「最後までいなきゃいけない」と残っているというよりは「一緒に練習してきた人だから応援したい」「ここまで頑張ってきてえらい」と、そういう目線で見ているのが伝わってくるのだとか。

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世界へ


子ども二人が高校生のとき。
陸さんの全日本選手権優勝(高2、サーフレース)、佳凪子さんの種目別選手権2冠(高3、サーフレース・ボードレース)など、大活躍をみせる。
高校生の時に国際大会に出たことも。

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競技を通して世界が広がった二人は、大学の長期休みを利用して海外へトレーニングに行くことになった。
どちらも自発的に「行ってみたい」と言い出し、それを快く送り出したという。
大学生一人で海外へ行くことにも心配はなく、むしろそんな力強い言葉を聞けてうれしかったそう。

また、海外でのトレーニングの成果もあり二人は競技の世界でより一層活躍を見せ、多くの世界大会や国際大会へ参加することになる。


一方千佳子さんは、オフィシャルとして世界大会への参加も果たす。

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その際に、子供たちが世界大会・国際大会でお世話になった方たちにご挨拶できたり、話しかけてもらえたり。
そうしてまた友達の輪が広がり、千佳子さんを通して日本に遊びにきて、子供たちと仲良くなったり。

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そんな、日常からは考えられない広く大きな繋がりが、子供たちを通して世界にまでつながっているのだ。


ライフセービング活動の魅力


多くの人がフラットに関わっていること。
少し前はトップ選手でも「大会の設営準備を手伝う」と言って前日入りすることもあったそう。

これまではほかのスポーツの大会を観戦してきたが、トップ選手がそうして大会運営などに関わることなんて考えられなかったので非常に驚いたと。
ライフセーバーはたとえトップ選手であっても、おごらずに一人のライフセーバーとして活動に関わっている。


今ではお二人は子どもたちの参加有無にかかわらず、ほとんどすべての大会にオフィシャルとして参加し活躍している。
そこで出会うのは20歳になったばかりの学生や、別のジュニアクラブの保護者など。

「親になってからは、子どもを介さずに新しいお友達を作る機会ってなかなかないんですけど。今は毎回多くのひとと直接出会って、大会運営をして、打ち上げで仲良くなれて・・・本当に楽しい」

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これからも楽しくマイペースに続けていきたい。
何歳になっても、これからライフセービングを始めたいと思った人が始められる環境があってほしい。

最後にそのように語ってくれた。

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西浜SLSCでは小学生~高校生はもちろん、その保護者もライフセービングを始める人も多いという。
都心からアクセスしやすく、地元のサーファーも多いエリア。
坂本さん一家のように家族でライフセービング活動に携わる人も、より増えてくるのではないだろうか。

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