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ブラックな自分との戦い

最初にお伝えしておきたいことは、「その人がつらいと思ったら、つらいのだ」ということです。

私自身、不満を漏らしている人を見て、そんなに恵まれた環境なのに、そんなに容姿端麗なのに、そんなに頭がいいのに、そんなにお金があるのに…

贅沢言ってんなよ!!!!!

と心の中で怒り狂っていた時期もありました。

でも、歳を重ねるごとにそれは間違っていたことに気づいたのです。

どんな状況でも、人間は不満や不安を感じるものなのだと身を持って知ったからです。むしろ、恵まれていると分かっているのに、不満を持ってしまう自分自身に不満を持ち、自責の念に苛まれることの方が多いのかもしれません。

それは、世の中のことをだんだん分かってくるから、なのでしょう。


1. 高校生の分際で打ち上げするな


例えば、高校生の私には門限がありました。ある時、部活動の大会後に部員で集まってワイワイ飲み食いする「打ち上げ」のため、門限を破ってしまったことがあります。

家に戻ると、父は怒りに満ちた様子でこう言いました。

「高校生の分際で『打ち上げ』ってなんだ。打ち上げっていうのは、お金を稼ぐ社会人がやるもんなんだよ!」

何かにつけ、ぶつかっていた父に対し、当時の私はその言葉に大きく反発しました。

「高校生の分際で」なんて、バカにするな!

大人にはわからない悩みが、こっちにはあるんだよ!

そんなことを言う大人に、私はなりたくない!

そう啖呵を切って、部屋のドアをバタンと強く閉めた記憶があります。

あれから、30年…

父の言葉が分かってしまうのです。

年月が経ち、自分が社会人になった時、こう思ったものです。

「学生って、なんてお気楽な立場だったのだろう…。」

通勤電車に揺られ、朝から晩まで働いて、やりたいこともやりたくないことも、とにかく全部やらなくちゃいけない会社員生活。その生活を、続けても続けなくても自分の自由だけれど、社会の歯車から逸脱する勇気もなく、毎日が過ぎていく。

そんな鬱屈とした毎日から思う学生時代…

おめえら、「打ち上げ」なんて、生意気なんだよ!!!!
何に対して、何を打ち上げてるんだよ!!!!!
誰が稼いだお金で、打ち上げのお菓子買ってんだよ!!!!

尾崎豊の15の夜にさえ、「15のお前は、まだ何にも縛られてなかったんだよおおお!!」と噛みついてしまうほどの怒りがこみあげました。

…私は、かつてあれほどなりたくないと思っていた大人の感覚が、分かってしまったのです。

2.子供が病気で仕事休むって何よ?


その、社会人時代。

会社には派遣さんやワーキングマザーの人が数名働いていました。20代独身貴族の私には、彼女たちの大変さが分かりません。

やれ、子供が病気で休みます。
やれ、子供のお迎えで早く帰ります。

その後の仕事って、誰がやっていると思う?うちらだよ?
私たちが残業して、よく分かっていない業務をこなしてるんだよ?

仕事終わりの飲み会では、どれだけ自分らが頑張っているかを熱弁し、まるで会社は私たちのおかげで回ってますと言わんばかりの無敵状態でした。

それから年月が経ち、自分が子供を持つ立場になったときに、当時の自分を思うと、赤面に次ぐ赤面。

子供抱えて、働くことがどんだけ神がかった行為であることか!!!

「子供が病気です」の一言の裏に、どれだけの葛藤があるか。

元気だった子供が、一晩で泣くわ吐くわの大騒ぎになる。
熱は?咳は?呼吸はしてる?緊急病院に連れて行くべきか?
心配が心配を呼び、一睡もできずに看病して夜が明ける。

だいぶ良くなったけれど、学校にはとても行かせられない。
いや、無理すれば、行けるかもしれない?
どうする?
仕事休む?子供をいかせる?どっち?

翌朝一番に病院に連絡しても、予約がいっぱいで取れない。
子供の様子が大丈夫なのかどうなのか、まだ分からない。

会社の人たちに迷惑をかけたくない。
でも…

心が荒波に包まれながら、やっとの思いで会社に電話するのでしょう。


「子供が病気なので、休みます。」

もう…考えただけで、ワーキングママに頭が下がって、下がりまくりです。

私は、子供がいる間に仕事をしてないので、その葛藤を免れています。だからなおさら、働きながら子育てをする心労たるやいかほどか、と考えてしまうのです。

20代の小娘だった自分に、ハリセン何百回のお仕置きをしても気がおさまりません。


3.旦那のお金で暮らしてる人たち


私は学生の時から、バリバリ働く女性に憧れていました。英語を駆使して、海外を飛び回って、男性と肩を並べて働く、女性から憧れられる女性。

現実はそう簡単にはいかず、私は企業の営業事務として細々働くわけですが、それでも「自分でお金を稼ぐ快感」はたまりませんでした。毎月、通帳に印字されていく決まった数字にニヤニヤして、洋服やらご飯やら、好きなように使えるお金が嬉しかったのです。

だからこそ、働いていない専業主婦を見下していました。

自分の力で、お金を稼いでいない人たち。
旦那のお金で暮らしている人たち。

私は、そんな人には、ならない。

年月が経ち、気づけば私は「専業主婦」が10年を超えていました。

通帳を見てニヤついていた自分を、後ろから殴ってやりたい。
人を見下して、天狗のように伸びていた自分の鼻を、オノでバッサリ切ってやりたい。

天狗のお前が言う「専業主婦」って、何?

まさか、朝からソファに横になっておかき食べながらテレビ見て、旦那が帰ってくるまで自由でお気楽な存在だとか思ってないよね?

専業主婦は、社会から断絶された無力な存在。

専業主婦は、キャリアの「ブランク」とみなされる存在。

そんなイメージに自分を投影したら最後、自己肯定感は急降下。

旦那よりも格下の気がしてくるし、ワーキングママより劣っている気がするし、子供とばかり話してるから赤ちゃん言葉になってくるしで、

私って…このまま歳とっていくだけなのか?

子離れしてから…って、私そん時いくつだよ?

いくつになっても趣味は見つかるわよって…趣味が見つかれば自分が幸せなのかも不明。


怖い。怖すぎる。自分の未来が怖すぎる。

…と、まあこれはあくまでも、私個人的な感覚です。専業主婦も千差万別で、嬉々として生活している方もいれば、明るい未来を計画中の方ももちろんいらっしゃるでしょう。

しかし、私は怖かったのです。

専業主婦のイメージと、それにとらわれた自分と、囚われながら抜け出せない自分に。

これほど心がもがいているのに、家庭の中で1日、また1日と時間が過ぎていくことが。

そして、

優しい夫と、元気な子供が2人もいて、不自由ない暮らしをしている自分が、不満を抱いてしまうことに。

不自由ない暮らしを「させてもらっている」と卑屈に思う自分に。

4.ブラックな自分は続いていく


こんなふうに、私の人生はいつも地団駄にまみれていました。細かく言えばキリがありません。

不妊治療をしているときは、子育ての愚痴を言っている人に「子供がいるだけありがたいじゃない」「自分たちで作った子供なんだから文句言うなよ」とイラついていました。

実際に子育てが始まって、そんな自分を穴に突き落としてやりたいです。


それとこれとは、訳が違うんだよ!!!
子育ては、子を育てる前に、自分との戦いでもあるんだよ!!!
愛してやまない子供に対して、憎しみすら抱くほどの壮絶な毎日があるんだよ!!


日本にいるときは、海外駐在員の妻と聞くと「セレブでいいねー」「海外でツバのでかい帽子にサングラスして、優雅に紅茶でも飲んでりゃいいんでしょ」と思ってました。

実際に自分が駐在妻になって、そんな自分をサメがわんさかいる海の真ん中に吊るしてやりたいです。

言葉が通じない国で、食料調達、子供の学校、病気の対応、人間関係、お前は笑ってできるのか?
いきなり外国に行くことになって、仕事を辞める決断、気楽にできる?
その後にくる、外国でたった1人、何もない自分に悩まされる空虚感に耐えられる?

なんつーブラックな心を持った奴だ、と思われても仕方ありません。

でも、私はそうやって世の中を知ってきました。自分がいかに浅はかで、一面的で、自分勝手で、大人ぶって、なんでも分かっている気になっていたのかを、自分自身の未熟さを通して痛感してきました。

きっと、今これを読んでいる方は、こんなことを書いているお前こそ、まだ何も分かっちゃいねーよ、とつぶやいていらっしゃるかもしれませんね。

本当にそうです。

私は、これからもきっと、過去の自分自身の頭にチョップを食らわせながら、人生の機微を学んでいくのでしょう。

だから、人生って、恥ずかしくも、楽しいものだって思う。

人生最後の日まで、ブラックな過去の自分をはっ倒した分だけ、私は成長するんだろうな。

その時々で、一生懸命生きている、ブラックな自分を愛おしく感じながら。


おわり

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