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明日社長が外国人になっても、1000年続く会社を作るヒント|伝統と初心の話

不確実性の時代、VUCA時代と言われていますが、少し視野を広げると私たちの国は太平洋戦争があり、明治維新があり、戦国時代があり、ある意味VUCAより激しい混乱期を経験してきました。今の時代と、そんな極端な時代を比べられても、という意見はもっともですが、なぜその比較なのかは今日の話の後半に出てきます。

いずれにしても、私たちはある日辻斬りに遭うような時代には生きていないものの、圧倒的な競合の台頭や予期せぬ事態によって、今日明日ビジネスマンとしての生命が終わる可能性を秘めていることは事実です。

我が身はと言うと、1800年代にできた組織にルーツを持つ会社に勤めており、「いつか外国人が上司になる日が来るかもなぁ(来ないけど)。」と余裕をかましていたら、ある日社長が外国人になり、日本人はマイナー化し、まるでローマは一日にして成ってしまったかのような様相です。しかし、自分の身はどうあれグローバル競争で成長を続けるためには、そのようなドラスティックな変化は必要であると実感をしています。

歴史ある会社であっても、変身をしなければ死ぬ時代。これはまさにVUCA時代を表わす一つの事象だと思います。

一方で、変身を遂げようとしているグローバル企業には問題と課題が山積です。企業理念のような話から、日々のオペレーションまで、真面目に課題を上げたら数万はくだらない状況です。

少し話は逸れますが、私が所属するIT業界は、例に漏れず泥臭く現場感が重要な仕事です。比較的アウトプットがわかりやすい製造業で働く親には理解されず、多くのIT企業はクライアントあっての仕事なので基本的には黒子です。華やかさがなく、一見つまらない・つまらなそうな仕事と言っても過言ではありません。本当はそのような自己認識の下、プライドを持って働くことが重要なのですが、日々しっかりモチベーションを保ち、且つ「変身」を実行していくことは非常に難しいのが現実です。

「つまらない」x「競争激化」x「グローバル化」。もう頭が爆発しそうです。

そこで突然ですが「」。650年続いている日本の伝統芸能、能楽。

「つまらないから長く続いている」という能楽師の安田登さんの話が目からウロコで、自分の悩みに直結しとても参考になりました。今までの話とどう関係があるのかと疑問を抱かれそうですが、繋がってきます。

そのつまらない能が長く続いている理由は2つあると言います。安田さん曰く、それは「伝統」と「初心」。伝統とは、誰でもできるシステムを作り上げること。もし能が天才に依存していたら、ここまで長くは続きません。そして、初心とは、「初」という字が衣と刀であることが表わすように、次のステップに進むためにこれまでの自分を切り刻むこと。例えば能も、江戸時代以前は今のスピードの2~3倍でしたが、あるときを境に突然ゆっくりになることを受け入れてきました。これが本来の初心の意味です。

日本企業がある日多国籍企業になった我が身に置き換えてみます。

まずやるべきは、多国籍の社員が入り交じる環境であっても、誰でも再現できる仕組みを構築すること、つまり「伝統」を作り上げることです。そんなことは正直分かり切っていますが、本当に実践してこれたでしょうか?

私たちのこれまでの働き方は「人」に依存し、再現性に劣り、それが生産性の低下を招いてきたことも反省しないといけないと思っています。スーパースター社員による「俺が踏ん張れば良い」は長い目で見ると会社を滅ぼしかねないリスクを孕んでいることを理解しないといけません。能でリズムを取る上で重要な呼吸法、「コミ」のように、人と人の間のハーモニーは大事にしつつ、再現性を高めるシステムを作り上げることを優先しないといけないと改めて実感しました。特にコミュニケーション・ギャップが生まれやすいグローバル企業では重要です。

そして「初心」。社長が外国人になった会社に躊躇する自分自身をぶっ壊さないといけません。そして会社自体も過去を捨てていかねばなりません。安田さんの言葉を借りれば「考えてから行動するのはダサい」時代だからこそ、様々なバックグラウンドの人と新しいものを作り上げてみて、結果的にその行動が過去の自分を切り刻んでいたという状況を作りたいと思います。過去の自分を捨ててから、次のステップに行くというのはイメージが湧きづらいので、当たり前ですがまずは変化を受け入れてこれまでと違った行動を取り、それが結果的に新しい自分像・会社像になっていた、ということなのだと思っています。

変なプライドと遠慮は捨てて、突っ込んでいく勇気を、この「初心」という言葉が後押ししてくれているような気がします。

そう考えると、上記でつまらないと表現した私の仕事にも、自信が漲ってきます。先輩方が脈々と伝統を築き初心を繰り返してきたからこそ、そして「つまらなかった」からこそ1800年代から続いてきたのかなと、仕事に誇りが湧いてきます。能は、戦国時代を生き抜き、明治維新を生き抜き、戦後も生き抜き、そして今やチケットが入手困難なほど人気の伝統芸能の一つとなりました。能がなぜ今日まで続いてきたかに思いを巡らせることは、多くの企業に良いヒントを与えてくれるのではないでしょうか。

今回は、4/23の日経COMEMOシリーズイベント「日本流イノベーションの可能性 アート思考と身体」(ファシリテーター:若宮和男さん、ゲスト:安田登さん(能楽師)、藤原佳奈さん(演劇家))に参加をして得たヒントの話です。

イベントの中で、「わからないこと」をぐつぐつ煮込んでいると、ある日縁と結びついてイノベーションのようなものが起こると話がありました。歴史的名著「思考の整理学」でも言葉は違えど同じような表現が出てきます。まさに今日、私にとって普段答えがなくもやもやしていたものが、「能」と結びついて、結果大きなヒントを得ることができました。個人的には神回だったと思っています。

最後に繰り返しになりますが、長く続くために重要なことは、「伝統」と「初心」。伝統とは、誰でもできるシステムを作り上げること。そして、初心とは、次のステップに進むためにこれまでの自分を切り刻むこと。

VUCA時代を超越して、100年、1000年続く企業を作るための、本質を突くヒントだと思います。ごく当たり前なんです。ただ、現実に10000個ある課題の優先度と重要度を決めるときに、今日の2つの観点は忘れてはいけないと思っています。目の前のことばかりではなく、遠く長い未来に目を向けることができました。

【参考】イベントのレポート記事


いつも読んでいただいて大変ありがとうございます。