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Vistasというバンドの『Everything Changes in the End』というアルバムが尋常じゃなく良かったという話

今日も今日とてまだ知らぬ自分好みの音楽を発掘するべくSpotify巡回中に1枚のアルバムが目に留まった。理由はいたってシンプルだ。

「めっちゃ涼しそう」

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全裸でそんな勢い良く飛び込んだら陰茎を痛めないのか?左の人は一体誰と遊んでいるのか?右の人実は帰りたいんじゃないのか?色々と思うところはあるがとにかく涼しそうだし何より海で全裸になりたい今の気分に完全に合致していた。僕も海で裸になりたい。そう思いながら再生ボタンを押した。

最初に聴いたのはこの曲。センチメンタル。意外だった。予想としてはギターにうっすらコーラスリバーブをかけてちょっとR&B/シティポップテイストを入れた最近よくある系のバンド(それはそれで大好きだけども)かなと何の根拠もない勝手な偏見で待ち構えていたがイントロから聞こえてきたのはカラッカラに乾いた2枚のギターによるキレはあるがどこか可愛げもあるキャッチーなリフだった。

「へぇ~」と思いながら聴き進める。イントロのリフにそのままベースが重なり曲は進行していく。「あれ?結構良いかも。これで1分以内に強いフックが来たらめっちゃ好きかもしれない」そんなことを考えていたら0:35~フック開始。

「めっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっちゃ良いじゃん!!」

とにかく分かりやすくてキャッチーなメロディが書けるバンドに弱い僕は一発でファンになった。今風のサウンドやリズムへの目配せなど全く気にしてないどストレートなバンドサウンドなのも琴線に触れた。兎にも角にもメロディが良い。自然に体が動いてしまう。最近ヒップホップばかり聴いていた自分の中のギターロック大好き侍が刀を抜く音が聞こえた。

今にも人を斬り殺しそうなテンションで騒ぐ侍の下腹部を蹴って落ち着かせ別の曲を聴いてみることにした。浮かれるのはまだ早い。アルバム中の1曲だけ会心の出来で他は微妙なんてのはよくある話だ。今回もどうせ…

「はれぇーーーーーーーーーーーー!?(四宮かぐや)」

えぇ…この曲もめっちゃ良い…やだぁ…イントロのオーオーオーオッオッオーオーオー+ハンドクラップからもう名曲感出てる…やだぁ…Aメロの途中の倍刻みのフロウに裏声重ねるやつ好き…バックメンバーの掛け声でフックに入るやつ好きぃ…0:45からのフックの鬼キャッチーな歌メロと疾走感めっちゃ好きぃ…2周目のドラムをダツダツするやつ好きぃ…フック抜けてオーオーオーに戻るやつ好き…ええ…めっちゃ好きなやつ…やだぁ…好き…やだぁ…

適当に2曲聴いた時点でもう完全にやられていた。というか普通に感動していた。少なくともメロディセンスに関しては疑いようもない逸材だ。心の中のギターロック侍が斬り殺した町娘の頭部をボールにして高速ドリブルを開始した。

勢いそのままにタイトルからして明らかに推し曲っぽいやつを聴いてみることにした。PVまである。間違いない、きっとこれは勝負曲だ。だけど勝負曲というのは往々にして「やり過ぎ」だったりして意外と微妙なことが多…

「嘘…だろ…?」

えぇ…クソ良い…特大青春アンセムじゃん…疾走感と切なさと共に"あの頃の僕達"が青空に溶けていくやつ(偏見)じゃん…えぇ…何このアルバム…気持ち悪い…名曲しかない…やだぁ…だって若手のインディバンドのアルバムって話題になったシングル曲以外イマイチじゃなきゃ嘘じゃん(偏見)…しかも2分38秒で終わる…最高…最高過ぎる…

後で調べてみたらこれは去年リリース時に耳の早いインディロックファンの間で話題になったらしく「そりゃそうだよな…」と。いや良い。これ以上エモさを出すとちょっとクドくなっちゃうギリギリの一番美味しい部分を見事に形にした傑作だと思う。そんな凡庸な感想しか出てこない自分を尻目に心の中のギターロック侍が斬り殺した町娘の頭部をゴールに叩き込んだ。

さすがにもう無いだろ。3曲聴いた時点で僕はそう思った。アルバムに当たり曲が3曲も入ってる時点でもう結構な異常事態だ。それでいい。それが自然なんだ。美味しいものはちょっとだけ食べるから美味しいのであって…

「美味しいーーーーーーー!!!!!!!!!!」

シャッフルビートだぁ…やだぁ…こういうのも出来るんだぁ…シャッフル曲大好きぃ…跳ねるリズムと推進力のあるフロウによるノリノリな展開からフックの「It takes a little conversation/To remind you that we'll never fade away」の一点で刺し殺すやつめっちゃ好きぃ……最後の最後にフックを2回繰り返す所の「これが欲しかったんだろ?」感超好きぃ…やだぁ…好きぃ…

あれですね、藤井風のさよならべいべ聴いたときにも思ったんですけどギターを「大丈夫かな…」ってくらいバリっと平べったくするサウンドが今は耳触り新鮮ですごく面白いですね。全体はポップソングなんだけどギターの音だけめっちゃ潰すみたいな。流行ってるんですかね?好き。

もう無いでしょ。いやもう絶対無い。おかしいもん。むしろハズしてほしい。彼らのハズれ曲が聞きたい。「あ、やっちゃったね」っていう人間味のあるところを見たい。よし…一番雑なタイトルの曲を聴こう…これなら…

「あぁ~…めっちゃ良い曲ぅ~…夏ぅ~…」

めっちゃ聴けるぅ~…ライブの中盤にやったらクソ映えるやつぅ…ギターロックバンドがBPM落とした曲作ったとき特有の引き出しの無さから来る退屈感皆無ぅ~ていうか普通に編曲と演奏が上手ぅ~各楽器の音に意味があるぅ…

なんなんすかねこのバンド。今の時代って「斬新さ!」みたいなインパクト先行で後はボーカルの顔の良さとかファッションとかSNS使いの上手さとか尖ったPVとかじゃないですか。なのに「シンプルに曲が良い」って…怖い…ミュージシャンじゃん…若手なのに…怖ぁ…

もう許してほしい。全13曲の内5曲を聴いた時点でそう思った。1曲くらい「この曲は入れる必要なかったねw」みたいなやつがあっても良いじゃん…それが人間ってもんでしょう?そう思いながらトラックリストを眺める。『tigerblood』か…なんかメタルバンドみたいなタイトルだな…これはもしかしたら悪ふざけで作ったバカ曲かも…これなら…

「はい疾走感~はいキャッチー~はい好き~」

あれじゃん…ライブで一個前の『summer』の後にやってフロアが再爆発するやつじゃん…Aメロの入りで一回スネアとハット抜いて歌メロを印象的にするやつじゃん…しかも裏声でユニゾンすることで謎の切なさを増すやつじゃん…そしてサビ前で一瞬止まってから小節を食って入ってくるアニソンでよくやる必殺のポップスのやつじゃん…色んな音楽に精通してるうるさ型の玄人以外は大体好きなやつじゃん…えぇ…好きじゃん…

ていうかフックの歌メロ作りの上手さちょっと異常じゃないですか?これデビューアルバムですよ?確かに音楽的な革新性みたいなものは全くと言っていいほど無いですけど逆にそれだけ散々やりつくされてるギターロックでここまで「おお!」って思わせるメロディ連発するの本当に凄くない?。この曲を大音量で流しながら海岸沿いをかっ飛ばしたら射精すると思います。

引くわぁ…デビューアルバムなのにここまで名曲しかないの本当に引くわぁ…。とはいえですよ、やっぱりデビューアルバムということもあって中規模位までのライブハウス映えするタイプの曲が多くて今後ビッグになってもっと大きい会場で全体をシンガロングさせる様なスケールの大きい曲はさすがに…

「あぁ~スタジアム全体で合唱する絵が浮かぶ~」

あれじゃん…ライブでイントロのアルペジオ鳴った瞬間にクソ沸いてから会場全体が「アーアーアーアー」って合唱しながら大きく揺れるやつじゃん…普通こういう大きいビート感の曲って売れてから2ndとか3rdアルバムのリードシングルとかでやるやつじゃん…それを聴いて古参のファンが「1stの頃の方が良かった」とか言うやつじゃん…本当になんなのこのアルバム…やだぁ…

「あ、ついに来たかも!別にそこまでじゃない曲!やったー!」イントロを聴いて僕はそう思った。いかにもな8ビートにいかにもなギターフレーズ…これは完全に手癖で作ったな…そうだよね…それが人間だもんね…はぁ~良かった…よ~しスキップし…

「飽きさせない工夫~」

Aメロに入った瞬間にダッダッダッダッって全体で大きく刻んで味を一回変えてからの流れるような必殺フックで殺してくるやつぅ~…凡曲どころか彼らの必殺ムーヴだぁ~…爽やかなコーラスも気持ちいい~…気づいたら口ずさんじゃうやつぅ~…海行きてぇ~…

フックの「you&me」っていう非英語圏の人間でもわかる強いフレーズに一番美味しいメロディぶつけてくる手つきも、あなた本当はCMソングとか手がけまくってる大ベテランでしょ?としか思えませんね。お見事。

ここまで聴いてきてもう正直お腹いっぱいになっている自分がいる。飲み会の後半で酒や料理よりとにかく冷たい水が飲みたい的なやつだ。何が「めっちゃ涼しそう」だ、逆に余計暑くなってここまでで3661文字を書いているぞ。果たしてここまで読んでる人はいるのか…いやそんなことはどうでもいい…水を…水が飲みたい…

「はぁ~…この水めっちゃ美味しいぃ~…」

この恐ろしいアルバムを締めくくるラスト曲。ここで今までキャッチーな激ヤバポップソングで殴り続けてきたDV彼氏が急に違った表情を見せる。彼らはリスナーの喉がカラカラに渇いてることを理解しているのだ。だから最後の最後で清涼感のある水を飲ませてくれる。優しい。「ごめんね、ごめんね」と言いながら10リットルくらい飲ませてくる。めちゃくちゃ優しい…

抑制の効いた演奏に乗せて美声を響かせるボーカルに「この人こんな顔も出来たんだ…」と横隔膜の少し上がキュンと締め付けられていく。いつも前戯めっちゃ雑なのに今日めっちゃ丁寧に舐めてくれるじゃん…何…?何があったの…?でも…嬉しい…今日の晩ご飯キミの好きなやつ作ってあげるね…

明らかに止めを刺しに来てる演奏は徐々に熱を帯びていき2:23についに爆発する。以降はもう説明は野暮。ロックバンドを組んだなら誰もが一度はやりたくなるやつを気が済むまでやって曲は終わっていく。曲を聴き終わった後に出るのは涙か溜息か。これデビューアルバムだけど…君達…解散するつもりか…?

■まとめ

これレコード屋の人、オススメPOPを作るのめちゃくちゃ困ると思います。大袈裟じゃなく本当に捨て曲が1曲もない!!全部が美味しい!!全部シングルカット出来る!!こんなことある!?聴き終わった後のまるで青春映画を見終えたかのような爽快感と切なさたるや…。コロナで陰鬱とした気分を忘れさせてくれるこの夏必聴の文句なしの大傑作だと思います!!   

世界的にギターロックやパワーポップが死ぬほど流行ってない状況下でこんなに良質でどストレートなバンドサウンドが聴けるとは思ってなかったので嬉し過ぎる出会いでした。やっぱりジャケ買いには事故みたいな運命の出会いがあるんですね…フェスが開けない状況なのが悔やまれます。

ここまで書いたなら残りの曲も書けばいいのに(アルバム表題曲を紹介しないレヴューis何…?)とは思いますが後は自分の耳で真実を確かめよう!マジでマジでマジで全曲良いです。凝縮した夏です。

というわけで、あまりに良すぎたので一切の作業を放棄して書いた紹介記事でした。ギターロック/パワーポップ好きなら本当にオススメなので是非!!

■オマケ

このアルバム以前に出していたEPの中からオススメを2曲。どっちもドチャクソかっこいいです。

今の作風よりエモ寄りで疾走感が半端ない。強メロディフック職人としての片鱗はすでに見えてますね。これはこれでめちゃくちゃカッコいい!!

現在の作風が定まってきた感のある去年リリースのシングル。フック後半の下から駆け上っていくメロディがめちゃくちゃクセになる一曲。


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