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民法思考力養成17 混同・添付     予備校や市販本では省略気味の分野

 この分野は予備校の授業では省略気味で、また、市販テキストで掲載していたとしてもごくわずかな簡易解説なため、出題されると解けない受験生が大多数です。しかし、他の法律系国家試験の受験生は勉強している人がむしろ多数派であり、実はコツをつかめば結構簡単に理解できます。

ではスタート。
混同」は、簡単に言うと、不要となった権利が消えるしくみであるが、
混同には、物権混同と債権混同の2種類があるので、それぞれ説明する。

 「債権」混同は、債権と債務が同じ人に帰属した場合(つまり、債権者と債務者が同じ人になった場合)に、その「債権」が消滅するというしくみ
例えば、貸金債権者である父親Aが死亡し、AのこどもBが単独相続した場合、Bには債権と債務が帰属することになるが、Bは自分が自分に請求して右手から左手にお金を払っていも意味がないため、債権は消滅する。
この「債権」が消滅するしくみのことを「債権混同」(民法520条)という。
🔴覚え方 
事例問題で相続(債権譲渡等)が発生し、債権者と債務者が同じ人になったら、債権混同で債権消滅。

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 では、「物権」混同の説明に入るが、前提として物権の基本知識が必要となるので、まずは土地所有権を例に物権のイメージを説明する。下の図を見て欲しい。左半分は土地の利用権(使用収益権)で、右半分は土地の処分権である。これら全体を支配している権利が土地所有権である。

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 では、このうち、左半分の土地利用権だけを支配できる権利があり、典型は地上権という物権である。地上権は民法の規定により自動的に発生する場合もあるが、多くの場合は土地所有権者との間で土地利用する契約を結んで発生する(地上権設定契約とよぶ)。地上権を有している人は、土地を自ら使用したり、誰かに土地を使わせて賃料をもらって収益をあげることもできるが、土地を売却(処分)できる権利ではない。
 他方、右半分の処分権だけを支配している権利のわかりやすい例として抵当権という物権がある。抵当権は、約束の日に金銭の支払いを受けられなかった場合に不動産を処分できる権利であるが、土地を自ら使用したり誰かに利用させて賃料をもらう権利ではない。
 このように、土地所有権は土地を全面的に支配できる権利で使用収益処分できる権利だが、地上権や抵当権などのその他の物権は部分的に土地を支配できるイメージとなる。

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「物権」混同は、物権と他の権利(物権又は賃借権)が、同一人に帰属した場合(つまり、2つの権利を同じ人が持つことになった場合)、存在する必要がなくなった一方の権利が消滅するしくみ
例えば、地上権者(土地を利用できる物権)Aが、土地所有権者Bから土地所有権を譲り受けると、地上権と土地所有権が同じ人(A)に帰属することになるが、Aは土地所有権(土地を全面的に支配でき、土地を自由に使用収益処分できる権利)の他に地上権(土地利用権)をもっている必要がないため、存在する意味がない地上権は消滅する。
このように、土地所有権と所有権以外の物権の権利者が同じ人になった場合に、存在する意味がなくなった「所有権以外の物権」が消滅するしくみのことを「物権混同」(民法179条)という。これが原則論である。

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 次に、土地所有権と所有権以外の物権の権利者が同じ人になっても、例外的に所有権以外の物権が消えない場合を見ていく。例外的に消えない場合というのは、その権利が消えてしまうと誰かが困る場合である。例えば、先ほどの例で、地上権者Bが自分の地上権についてCに抵当権を設定していた場合である。この場合は、Bの地上権が消えると、抵当権者Cが将来担保として期待していた財産(Bの地上権)がなくなり、Cが債権回収の際に困るので、例外的にBの地上権は消えない。つまり、先の原則的な事例では、地上権が消えても誰も困らないが、この例外の事例では地上権が消えると、Bは土地利用では困らないが、抵当権者Cが債権回収で困るので、地上権が消えない。

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 さらに、所有権がまったく登場しない場合の物権混同を見ていく。
例えば、Aの地上権について、Bが抵当権の設定をAから受けていたとすると、Bは地上権を担保に持っている抵当権者ということになり、Aは自分の財産である地上権を担保に差し出している人という関係になる。Bは債務者から約束の支払日にお金の支払いがなければ、抵当権を行使してAの財産(地上権)を売却し代金から優先的にお金を回収できる。
 このとき、地上権者Aが地上権を抵当権者Bに譲渡した場合、以後は地上権はBの財産となるため、抵当権者Bは自分の財産である地上権に抵当権を設定していることになるが、Bが自分の財産である地上権を将来売却して現金化しお金を回収しても、財産の形態がかわるだけで自分の財産の総和は変わらないので、抵当権を持っている意味がない。そこで、誰にとっても意味なくなくなった権利は消えるという発想から、この事例では、物権混同により地上権は消えることになる。これが原則である。

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 次に、所有権以外の物権の権利者と所有権以外の物権の権利者が同じ人になっても、例外的に所有権以外の物権が消えない場合を見ていく。例外的に消えない場合というのは、その権利が消えてしまうと誰かが困る場合である。例えば、先ほどの例で、地上権者Bが自分の地上権についてBに抵当権を設定していただけでなく、さらにBが有するその抵当権について、Cに抵当権を設定している場合(転抵当と呼ぶ)である。Bの抵当権にCの抵当権を設定するということの意味は、Aの地上権を売却してお金を優先的な回収する権利をBがもっているところ、そのお金の優先回収権をBがCに譲るイメージとなる。転抵当によりCはAの地上権の売却代金からお金を優先回収することを期待しているところ、その後、地上権者Aが地上権をBに譲渡したことで、Bが自分の財産である地上権に抵当権を設定していることになり、物権混同を理由にBの抵当権を消滅させてしまうと、Cが地上権の売却をしてお金を優先回収することができなくなる。つまり、Bの抵当権が存在し、そのBの抵当権の優先回収権をCが代わりに優先回収する構造なので、Bの抵当権が消えると、CはBの抵当権を利用して優先回収できなくなり、Cは困る。そこで、Bの抵当権は例外的に消滅しない。図解すると、下のようになる。

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まとめると、物権混同というのは、同じ人に2つの物権が帰属した際に、誰にとっても必要がない権利は消滅するが、逆に誰かにとって必要がある場合はその権利は消滅しない。このシンプルな発想で十分。


混同
についてはここまでです。

添付(付合・混和・加工)については、すぐ下のイメージ・記憶促進ノートで記述式の問題を用意しましたので、記述の訓練を積みながら添付の全体像をおさえておくとよいでしょう。
まずは目次からご覧ください。


イメージ・記憶促進ノート  添付(付合・混和・加工)
目次
👨さいしょに

 添付(付合・混和・加工)について、最低限の理解と、民法上の公式の要約を掲載し、記述式の訓練を積みたい方向けに2問用意した。途中で解説している民法の思考の筋もしっかり理解しておけば、幅広く対応できるので、丸暗記ではなく理解を優先してほしい。

STEP1
記述式問題1

 Aが所有しているウイスキーとBが所有するウイスキーを、Aが勝手に同じ容器に入れ、ウイスキーが混ざりあったことにより両ウイスキーを分離することができなくなり、また、どちらが主たる動産でどちらが従たる動産なのかがわからなくなった。この場合、両ウイスキーが混在しているウイスキー全体について、誰に所有権が帰属するか、または、誰と誰がどのように共有する関係になるかについて、民法の規定に照らし40字程度で記述しなさい。なお混ざりあったウイスキー全体のことは混和物と記述すること。

記述式正解例➀ 条文に問題文の事実をあてはめた場合
記述式正解例➁ 244条の準用を意識しつつ条文の文言で解答した場合

👨出題意図・配点
1 総論
2 解答上の表現
👨民法の思考の筋

STEP2
記述式問題2
 世界的に有名な彫刻家Bは、Aが所有する木材に勝手に彫刻しB所有の塗料を使って着色し木像を完成させた(木像制作)。この場合、どのようなときに彫刻家Bが木像の所有権を取得するか。解答欄に記載されている「加工者である彫刻家Bが材料の一部を供した場合において、」に続けて、民法の規定に照らし40字程度で記述しなさい。なお、木材と塗料については、材料と記述すること。

解答欄
 加工者である彫刻家Bが材料の一部を供した場合において、
(                            )に限り、Bが加工物の所有権を取得する。

記述式正解例➀ 人物表記を除き極力246条の表現を使用した場合
記述式正解例➁ 問題文の事実をできるだけ246条にあてはめた場合
👨出題意図・配点
👨民法の思考の筋

❓🙍受験生の疑問
 Aさんの動産とBさんの動産が一緒になった場合に、動産の付合なのか、加工なのか、行政書士用の教材や授業では説明されずよくわかりません。もしかしたら判例がないから解説がないのかもしれませんが、判例があれば教えてください。また、判例がない場合、参考になりそうな区別の仕方を教えてください❓
👨回答
  以下、判例が述べている部分までは判例を紹介し、判例の考えが不明確
 な部分は私見を述べる。・・・・

ここからは本文です。

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