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【北米漫画市場まとめ】北米の声優待遇問題、翻訳家による「YURI」の研究書籍が出版へ、「王様ランキング」の英語版の再翻訳へ


日々の北米漫画市場のニュースなどのまとめです。拾い切れていないものもあるのでぜひリクエストお待ちしております。感想も歓迎です。


アニメの吹き替え声優の組合化のための戦い~あるいは北米の声優待遇問題

今週、英語圏で話題になっていた記事のひとつです。アニメ配信会社CrunchyrollとFunimationの合併をきっかけに改めて関心が高まっているのが「合併後のアニメの翻訳や配信はどうなるのか」ということ。もちろん視聴者としてはよりハイクオリティな作品がどんどん配信されることを望みますが、制作側として気になるのはコストの問題です。

もともと北米圏では、アニメ(マンガも含む)の字幕翻訳や吹き替えの声優の待遇が低すぎるとして問題視されていました。もちろんファン活動から始まったという側面はあるのですが、映画やドラマの俳優に比べると圧倒的に待遇が悪い。それは吹き替えの声優が北米の映画やドラマに出演する俳優が加盟する組合に加盟していない人もおり、制作側が組合のきめた適切な出演料を支払っていないからです。(字幕に関しても、適切なフィーを払っていないという指摘はずっとされています)今回改めてフォーカスされているのは2社の合併によって制作側がより力を持ち、待遇の改善が遅れるのではないかと懸念されているためです。

アニメの吹き替えの声優は例えばコミコンなどのパネルに登壇しある意味現地でのPR役も果たしてくれます。(日本でも吹き替えの声優がPR役を担うことがあるので想像しやすいと思います)そういう意味では、吹き替えの声優がもっと報われてもいいと思います。アニメ配信会社の利益がうまく分配されることを願います。


アニメ「文化」は輸出できるか ドイツの事例

https://comemo.nikkei.com/n/n9d1b85e95398?gs=7082fe5cf263

北米ではないのですが非常にいい問題提起の記事だったので。ドイツでのアニメ『らき☆すた』のDVD/ブルーレイディスクの発売をきっかけにした広義の「アニメ文化」の輸出についてです。
新型コロナウイルスの感染拡大はありつつも、消費の形態としてはモノを買う「モノ消費」からイベントなどを楽しむ「コト消費」にトレンドとしては移りつつあります。その中でもアニメ『らき☆すた』は聖地巡礼や「踊ってみた」などのアニメそのものの周辺のカルチャーをにぎやかにしたコンテンツのひとつです。

特に聖地巡礼は観光業とも結びつきやすく、アニメやマンガそのものを楽しむところから一歩広げやすい分野です。日本では国内のアニメやマンガに関連する拠点への聖地巡礼が盛んですが日本から海外への「聖地巡礼」、海外から日本への聖地巡礼がもっと広がれば、アニメ文化が一段と浸透していくことになるのではないでしょうか。実際「遊戯王」が好きでエジプトに行ったという方もいますし。

ちなみにこの点で参考になるのは歴史オタクたちの聖地巡礼です。日本史・世界史のファンは、アニメやマンガのファンよりもずっと前から聖地巡礼を世界中で行い、観光業の発展に寄与してきました。そのあたりの知見がうまくアニメやマンガの聖地巡礼を仕掛ける側が利用できればいいのですが。

翻訳家による「YURI」の研究書籍、出版へ


翻訳家のErica Friedmanさんが百合のアニメ・マンガの歴史をまとめた研究所を出版されます。

日本のマンガやアニメの輸出というと様々なジャンルがありますが、英語圏でよく受け入れられているもののひとつがYURIです。必ずしも作り手側の意図したところではないかもしれないのですが、クィアの方々が「自分たちの物語」として受け止めています。BLとならんでYURIのマンガの翻訳も活発。背景には北米のマンガの形態であるグラフィック・ノベルやアニメには、なかなかクィアの方々の中でもレズビアンの方は登場せず、登場しても特殊な役割や性格が割り当てられていることが多いためです。日本のYURIマンガのように「日常生活の中で同性のパートナーと出会い、特別な感情を育んでいく」というのが描かれにくい。もちろん最近は彼らのために描かれた作品も出ていますが、日本のYURIコンテンツの数の多さにはまだ匹敵するとはいえません。BLとならび輸出余地の拡大があるといえそうです。


「王様ランキング」、英語版の再翻訳へ

翻訳に関連して非常に珍しいケースです。アニメで人気が出た「王様ら帰任ぐ」ですが、今年の2月から英語の翻訳版の配信が始まりました。ところが「原作の質に影響するような誤植や翻訳があった」ということで配信を一度止め、再翻訳しているとのことです。

出版社から正式にお詫びも出ています。

具体的にどのような誤植や翻訳ミスがあったのかは明らかではありませんが、原作の質に影響するということは原作の伝えたいことが適切に伝わる訳ではなかったということでしょう。再翻訳で原作の面白さが伝わる訳になって広がってくれればいいのですが。


アニメ配信市場、女性向けにポテンシャル?

急拡大の続くアニメ配信市場。この先の拡大で「女性向けのジャンルに可能性がある」と指摘する記事がこちらです。CrunchyrollのChief Customer Officerのセミナーがもとになっています。

背景のひとつが「フルーツバスケット」のヒットです。確かに足元ではマンガやアニメの人気では集英社の積極的な投資を背景に週刊少年ジャンプに連載されている少年マンガや、青年マンガの躍進が目立ちます。しかし「フルーツバスケット」や「美少女戦士セーラームーン」のヒットが示すように、女性向けの作品がヒットしてこなかったわけではありません。ということを踏まえると、今後いわゆる「女性向け」とされるアニメやマンガがヒットしてもおかしくないといえます。


ネットフリックスがけん引するアニメ人気 世界では登録者の半分が視聴



 近年のアニメブームのけん引役の1社がネットフリックスです。グローバルにアニメを配信し最近はオリジナル作品の制作も手掛けています。そのネットフリックスでどのぐらいアニメが見られているのかというのがこちらの記事。2021年は世界の視聴者のなんと半数以上がアニメをみたとのこと。それはブームにもなりますね。ネットフリックスもアニメへの投資を増やしていきそうです。


追加

この企画を始めるきっかけになった菊池健さんのマンガ業界関連の日々のニュースをまとめるマガジンです。

個人的にはメディアドゥとトーハンによる書店店頭で電子書籍販売の実証実験に期待です。書店で見つけたものはなるべく書店で買いたいけれどもできれば電子書籍で持ちたいというジレンマに応えてくれることになりそうです。

今週はここまで。引き続きよろしくお願いします。

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