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<子どもの英語教育>聞き流しに効果はあるのか?

こんにちは☺︎ アメリカ に来て約半年が経ちました。わたしの住むところは、山に囲まれたとても寒いところでたくさん雪が降りましたが、最近は春らしく暖かい日も増えてきました*

こちらに来てからというもの、日本に帰ってから英語を教える仕事をしたいと思って色々勉強したり調べたりしているのですが、気になる記事を見つけたので紹介します。

1. 記事の紹介:「英語が苦手な親」が「英語が得意な子」を育てるための必須条件

以下、勉強になったり、たしかに!と思ったところの抜粋です。

「英語を身につけるには、まず英語を「受信」、つまり聞いて理解できるようになることが必要です。話すのはその後の課題です。
幼児は言葉を身につける際に、まずママやパパからのメッセージを受信できるようになります。その後、少しずつ発信が始まります。このように、順序としては、まずは受信(インプット)、その後に発信(アウトプット)の順なのです。」

この記事を書いた船津洋さんは、上記のように子供の発達の特徴を挙げた上で、よくありがちな“とりあえず英会話スクールに通わせる”という選択について以下のように語ります。

「ネイティブ講師とのレッスンでは、理解できれば “Yeah“, “No“, と応えれば事足りて、深みのある会話になりません。相手の英語を理解できなくても “maybe“, “I don't know“ と言っておけば、その場はそれで済んでしまうのです。
このように一見英会話が成立しているように見えて、表面的な言葉のやりとりに終始しているケースが少なくありません。英会話は出力にはなりますが、英語を身につけるための十分な入力は別に必要となります。」

それでは、英会話スクールでなくて家庭でどのようにして英語を習得させたら良いのか?船津さんは「聞き流し」を提案します。

「意味を教えたり、発音を無理に真似させてはいけません。意識した勉強では無く無意識の獲得を促すのです。意味を教えたり、発音を無理に真似させる必要はありません。まず大切なのは、ネイティブな英語の音声を自然にかけて生活の一部にし、それを「聞き流すこと」なのです。
集中して聞くのも悪くはありませんが、幼児期の母語言語獲得になぞらえると、赤ん坊は常に集中して周囲の会話を聞いているのではありません。彼らは、周囲の音声を意識せずに聞き流しているのです。」

ちなみに、赤ちゃんの成長する過程を考え、音声教材にはセサミストリートなどの“親子が生活の中で自然に会話しているような「家庭内の英会話」”がふんだんなものをおすすめしています。

2. 記事を読んで思ったこと

記事の内容には自分がこれまで学んで来たこと、経験したことと重なることが多くてとても納得しました。

まず幼児期の言語習得について。記事の中では、船津さんが幼児はインプットから始まって、その後にアウトプットできるようになるとおっしゃっていました。わたしはUtrecht UniversityのChild Developmentのコースをオンラインで受講したのですが、そこでこんなことを学びました。

<言語形成の流れ>
生後6ヶ月:基本的な単語を理解(自分の名前、体のパーツなど)
1歳〜1歳半:↑の基本的な単語を言えるようになる
2歳半:単語に大きさや色など付け加えて言えるようになる
3歳:3語文が言えるようになる
(*1〜6歳で覚える単語数:10,000語)

このように、言葉を言えなくても、その語彙がないとは限りません。幼い頃の周囲からの語りかけの中からも赤ちゃんは言葉を拾っているのです。

ところで、赤ちゃんはどのように言葉の切れ目を理解するのでしょうか。母国語以外を学習した方はおそらく経験があると思うのですが、外国語を文字を見ずに聞いた時に、どこが単語や意味の切れ目か分からず苦労したことはありませんか。

赤ちゃんにとっても、人の話す言葉は最初"ひとつなぎの長い言葉"のように聞こえてしまいます。ただ、たくさんの会話や話を聞いているうちに、よく隣り合う音節を覚えていきます。

例えば、お母さんが“pretty baby”と言うとします。この2単語は音節にすると“pret/ty/ba/by”の4音節に分かれます。赤ちゃんは繰り返し聞くうちに、「“pret”と”ty”はセットで聞くけど、”pre”と”by”は聞かないな」という経験値が積み重なり“pretty”が1つの単語だと理解します。

また、生まれたての赤ちゃんはどの言語の音も聞き取れる耳を持っていますが、生後6~12か月ほどの間によく聞くnativeの言語の音を聞くようになり、その他の音を聞き取る能力は落ちていきます

そう考えると、話せないうちに週に1回英会話スクールで1時間英語を聞かせるより、自宅でずっと英語を聞かせていた方が赤ちゃんの「英語耳」は養えそうですね。

私自身幼い子どもが通う英会話スクールに勤めていたこともありますが、1時間のレッスンの内、子どもが先生の話に耳を傾けている時間は限られていたと思います。途中で泣いてしまったり、寝てしまったりと、限られた時間の中では聞くだけでも難しいことだと思います。

3. 本当に聞き流すだけでいいのか?

結論から申し上げると、聞き流すだけでは十分でないと思います。というのも、TED TalkでPatricia Kuhlさんのプレゼンで逆とも言えるの研究結果を聞いたことがあったからです。

このプレゼンの中で、Kuhlさんはいくつかの研究結果を紹介しているのですが、その中にこんな研究があります。

月齢6~8か月のアメリカ人と中国人の赤ちゃんの中国語の聞き取り能力は同等です。しかし、引き続きそれぞれ英語のみ、中国語のみを聞いて生活していくと、10~12か月の時にはアメリカ人の赤ちゃんの中国語の聞き取り能力は衰えていきます。
月齢8~10か月のアメリカ人の赤ちゃんに中国語話者が絵本の読み聞かせや遊びをするというセッションを1か月の内12セッション行いました。1か月後に行った中国語の聞き取り能力テストの結果は、生まれてから中国語のみを聞いてきた同月齢の中国人の赤ちゃんと同等だったのです。

ここまでは船津さんの意見とは対峙しません。8~10か月の赤ちゃんに、外国語をたくさん聞かせたら、外国語にもかかわらずその聞き取り能力を維持向上できたという結果だからです。ところが、Kuhlさんは追加でこんな実験もします。

同様な12セッションを、①モニター越しと②音声のみで行ったところ、1か月後の結果では①②どちらも効果は出ず、聞き取り能力は発達しませんでした。

この結果から分かることは、赤ちゃんが新しい言語を学ぶ時に、人の存在は不可欠ということです。同じような絵本の読み聞かせでも、目の前で読んでもらうこと、モニター越しに読んでもらうこと、もしくは音声だけ聞くことでは結果が大きく異なりました。

これは考察ですが、赤ちゃんは無意識に聞いているのではなく、対象に意識を向けて聞いているのではないでしょうか。そのため、ただの音声やモニターよりも、実際の絵本や、目の前で話す人に注意を向けて集中して聞いた時にだけ、その言語の能力を身に着けたのだと考えます。大人でも、同じセミナーを会場で聞くのと、動画で見るのと、音声だけで聞くのでは、集中できる度合いは変わりそうですよね。そういう意味ではただの音声の聞き流しでは十分な効果は得にくいのではないかと思います。

4. 家庭での英語教育はどうあるべきか?

ここまでの内容で、子ども、特に赤ちゃんの時の英語教育について大切なことをまとめると以下のようになります。

①圧倒的なインプット量を保つ
②無理に話させず自然な会話を取り入れる
③英語を聞かせる時は、そばで一緒に遊ぶ

これに当てはまることは、①オーディオブックで読み聞かせ、②歌を歌いながら一緒に遊ぶ、の2点です。

自分で英語の読み聞かせは難しいという方は、CD付の絵本を購入して音声に合わせてページをめくってあげるといいかなと思います。最近では電子書籍もあると思うので、タブレット端末を使えば便利です。選ぶ本は、日常生活にストーリーが近いものや、身近な単語が出てくるものがいいかもしれません。

また、歌に合わせて体を動かすのもいいと思います。"Head, Shoulders, Knees & Toes"や"One Little Finger"なんかはYouTubeにもあっておすすめです。赤ちゃんが自分で体を動かせなくても、歌に出てくる体の部位を触ってあげるだけでもいいと思います。

また、今回のKuhlさんの実験ではモニター越しの読み聞かせは効果はありませんでしたが、YouTubeなどで身近になった”動画”に効果がないとは言い切れないかな..と思います。人がそばにいられるのがおそらく一番ですが、四六時中という訳にもいかないので、自分が手が離せない時は前述のセサミストリートなどの動画を流すのも手だと思います。

『子どもの未来を広げる「おやこえいご」』で、著者の小田せつこさんも動画を薦めています。理由として、①英語は言語(=コミュニケーションツール)と認識してもらえること、②英語がわからなくても楽しめること、③パパママの負担が少ないこと、の3点を挙げています。

週に1回1時間の英会話クラスだけでは十分でないように、英語を聞く機会は頻繁に保ちつつ、何年もかけて行う必要があります。親の負担が大きすぎると続かないので、できること/できないことがあることを理解して、無理のない範囲で子どもと一緒に楽しむのがいいと思います。

一緒に動画を見たり、歌を歌う中で、自分で学べるものがあったらもっと楽しくなりそうですね。学んだ言葉を使って子どもに話しかけたり、もっと上達したら海外旅行で使ったり、親子留学なんかもできると楽しみが広がりませんか。

わたしは子どもがいないので、あくまでも人の記事や研究結果から考察することしか今はできませんが、この記事が誰かの役に立てば嬉しいです:)ここまでお読みいただき、ありがとうございました!!

*トップ画はイラストレーターのサタケシュンスケさんの作品をお借りしました:)