中心に据えたい一つのこと 〜顧客か社員かという対立を超えて〜

社内政治という言葉がある。
会社内に派閥が存在すると聞くことも珍しくない。
どうやら、会社内には政治的なものが存在するらしい。
それは、暗黙のうちに当たり前なこととして、多くの人が認識していることではないだろうか。
会社だけではなく、地域や学校など、人が集まるところには政治的なものが存在することを、私たちは経験的に知っている。

先週のリベル短編本『個の時代の政治 〜私たちが生きる二つ目の世界〜』では、ビジネスと政治の世界では、根本的な前提やメカニズムが違うということが紹介された。
そして、その違う世界では、持つべき姿勢や考え方を変えた方が良いのではないかということも提案された。

冒頭で述べたように、会社内にも政治があるのであれば、私たちの会社における活動では、ビジネスと政治という違う世界が並存していることになる。
つまり、一つの会社という場で、二つの姿勢や考え方を併用しなければいけないのかもしれないということだ。
今回は、先週の短編本の内容を少しだけ振り返りならが、その考え方が並存する世界で、どのように生きていけばいいのか考えてみたい。
そして、そのような違う考え方を器用に使い分けなければいけない状況を避けるための、方法や考え方も考えてみたい。
なぜなら、そのような使い分けは、なんだか疲れそうだからだ。

私たちが生きる二つの世界

ビジネスの世界では、マーケティング手法が一般的に用いられる。
マーケティングの定義は様々であるが、ここでは、ターゲット顧客を定めて、適切な製品やサービスを作り、顧客が購入するまでのプロセスを、企画・設計・実行していくことであるとしておく。
ここで重要なのは、ビジネスにおいては「ターゲットの絞り込み」が必然的に伴うということだ。
インフラに近い事業は別かもしれないが、多くの製品やサービスは、ターゲットを絞り込み、顧客像を鮮明にして初めて良いものが作れると言われている。

他方で、政治の世界では、ターゲットの絞り込みは適切ではない。
富裕層にとっていい政治や貧困層に寄り添いすぎた政治、あるいは人種等で差別するような政治を行った場合、いずれかの群衆の反発を生み、平和で良い社会であるとは言えなくなるだろう。
つまり、政治の世界においては、その共同体を構成するみんなにとってベターな意思決定が、良しとされると考えられるのだ。

言い換えると、ビジネスは「誰かにとってのベスト」が、政治は「みんなにとってのベター」が良い考え方であるとされる世界なのではないだろうか。

会社においては、「誰かにとってのベスト」の誰かとは顧客であり、「みんなにとってのベター」のみんなとは社員(社内)である。
つまり、向き合う相手も、ベストを求めるのかベターでいいのかという思考の仕方も異なる。
私たちは、そのような異なる考え方の世界が並存している場に身を置き、一つの場所なのに、なにか違う世界を切り替えながら会社活動をしていると言えるのかもしれない。

顧客のためのビジネス、社員のための政治

前述したように、ビジネスでは「誰かにとってのベスト」という思考が先行する。
マーケティングの代表的な手法であるSTPも、いかに他社・他サービスと差別化するかを基本としている。
STPとは、消費者をそのニーズごとに分類するセグメンテーション(Segmentation:S)、そのセグメントの中から訴求する対象を選択するターゲティング(Targeting:T)、その上で競合との違いを明確にして優位な立ち位置を築くポジショニング(Positioning:P)の3プロセスを言う。
この3プロセスで、顧客にとってのベストを追求していくのだ。
サービスのコンセプトやプロモーションなど、顧客視点で物事を考えている時、徹底的にビジネス思考で、特定の人をイメージした「誰かにとってのベスト」を追求しているのだ。

他方で、社員のことを考えるとき、特に人事制度などは政治思考が重視される。
つまり、社員みんなにとってベターを考えなければいけないのではないかと考える。
そもそも、会社内の制度は、利益の社員への再分配(給与、福利厚生等)も含めて、経営層が決めることになる。
これは、「価値の権威的配分」に該当し、政治的な考え方だ。
政治と両輪をなす社会システムである経済では、供給者と需要者の間で、「価値は自発的に交換」される。
その制度設計などに社員は考えや思いを伝えることはできるかもしれないが、基本的には決定権はないことが多い。
だから、特に経営層は、社員のことを考える時は政治的思考が求められると考えられる。
一部の人に富が偏るような考え方は避けるべきで、多様な視点から物事を考え、バランスのとれた意思決定をするべきであると考えられるのだ。
ただし、努力した人は正当に報われるべきで、年功序列のような年齢等で価値分配の多寡が決まるのは、妥当ではないと考えるが。

これらの使い分けは、簡単なようでいて、実は難しいように感じる。

顧客視点、ビジネス思考では、顧客のためにベストを尽くして考え、実行する。
顧客がどんな人柄かとか、自分と合うか合わないかなどは、とりあえず棚にあげておく。
もし定義した顧客層から合わなければ、それは対象から外せばいい。
また、社内会議などにおいて、サービスコンセプトや戦略など、顧客視点で物事を考えている時は、顧客にとってベストだと思えば、その責任者が反対を押し切って半ば独善的に意思決定しなければいけない時もある。
社員みんなが気持ちいい形で、意思決定することは優先されないということだ。
利益という明確な指標が、その判断の正しさを示してくれる。
比較的、合理思考で進めることができ、なにか顧客に向けて思考を先鋭化させていくようなイメージの頭の使い方になる。
このようなビジネス的な思考を、ここでは「先鋭的思考」と呼んでおく。

他方で、社員視点、政治思考では、いろいろな人がいることを受入れなければならない。
モチベーションの高い低い、ワークライフバランス、能力の種類の違いなど。
それらを絞り込んだターゲティングは適切ではなく、その会社という共同体にいる既存社員の、みんなにとってのベターを探すことが求められる。
もちろん、合わない人は解雇してしまう方法もあるのだろうが、日本では解雇は難しいし、近年では少子化により新たに人を採ることも難しい。
また、構成社員があまりに一様すぎると、何らかの環境変動に対応できない可能性が高いので、多様性は保っておくべきだ。
今は働かない人も、危機に瀕した時、動き出す場合もある。
それらも踏まえて、いかにして、社員のモチベーションを上げるのか、その総体としての力をいかに最大化させるかを目指す。
こちらは、合理思考だけではなく何か人間的態度のようなものも必要であり、社員に対して包容的な思考であると言えるのかもしれない。
このような政治的な思考を、ここでは「包容的思考」と呼んでおく。

テレビなどで見る、やり手経営者はキレキレな風貌だが、政治家はどこか大らかな感じがするのは、普段の頭の使い方が違うからなのかもしれない。
そのような風貌にも表れるような思考の違いを、会社内の活動においては、両輪で求められている可能性があるのだ。
この視点の切り替えは特に経営層には必要な局面があるのだろうし、一般社員もその切替ができなければ、やりきれなさやストレスを感じると考えられる。

しかし、そのような切り替えは難しく、それ自体がストレスであるし、その半ば相反する態度は、社員同士の信頼関係に影響を与える可能性があるとも考えられる。
なにか別の良い考え方はないのだろうか。

顧客か社員か、ではなく中心にミッション

ここまで右往左往しながら考えてきた問題は、顧客か社員か、という対立のもとに考えているために生じているものなのではないだろうか。
これを、ミッションを中心とした考え方に切り替えれば、そのような対立が解消するのではないかと思うに至った。
ミッションを中心に据えて、社員も顧客も含めた、「みんなにとってのベスト」を追求するという考え方だ。

以下の図が示すところは、ミッションに対して創り手として関わっているのが社員であり、使い手や買い手として関わっているのが顧客であるということだ。
ただ、社員も顧客も共通しているのは、そのミッションや世界観、価値観が「いいな」と思っているということだ。
つまり、「みんな」とは、ミッションに共感する社員と顧客みんな、ということになる。
(ちなみに、この図や考え方は、「北欧、暮らしの道具店」の方が、とあるイベントで紹介したものに大きくヒントを得ています。)

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このような考え方に立てば、社員はミッションに共感する顧客でもあるので、顧客主義か社員主義かという議論は起きにくい。
いちいち顧客か社員かという向きを変える必要はなく、ミッションに対して忠実かだけを考えていればいい。
実際に、明確な世界観を打ち出している企業やプロダクトでは、一顧客から熱狂的なファンになり、そのまま転職して社員となったという話も聞く。
このケースでが、顧客の延長線上に社員があったということだ。
つまり、ミッションに共感している前提で、「みんなにとってベスト」を目指すという一方向的な考え方は、決して非現実的なものではないと考える。

社員第一主義の意味

経営理念において、顧客を優先すべきか、社員を優先すべきかという議論がある。

会社はビジネスを行うためにあるのだから、顧客を優先すべきだというのが、一見妥当と思える。
しかし、LCCの先駆けであるサウスウエスト航空や、継続的に高い利益を上げているスターバックスコーヒーは、顧客よりも社員を、大事にすべき対象として上位に掲げる。
社員にとって良い内側の環境を整えることが、結果的に顧客のためにもなり、会社の利益にもなるという考え方なのだろう。
つまり、経営者は、いろいろな能力、事情、モチベーションを持つ社員のみんなにとってのベターを考え、そのための制度を設計し、権威的に価値や、良い働く環境を整えているということだ。
経営理念において、社員を上位に掲げるということは、経営者の仕事も必然的に社内環境を整えることに大きな割合が割かれるということだろう。

これは前章の考え方に基づけば、ミッションに近いのは社員だから、顧客よりも社員を優先すべきというのは納得感の持てる考え方になる。
ミッションに対する貢献度が高い社員を優先するのは、当たり前のことだ。
ただし、社員がミッションに共感しているということが前提になる。
別の言い方をすると、経営者やリーダーの役割は、ミッションを定義し、それを社内に浸透させる、あるいは共感してくれる仲間を集めるということだとも言えるのかもしれない。
ミッションの定義自体がかなり困難なことだと感じられるが、それができれば、ミッションだけを見据えた組織づくりが可能となる。

今回は、半ば感覚的な話になってしまったが、顧客か社員かという分離や対立をなくしミッションを中心に据えることで、「ミッションに共感するみんなにとってのベスト」という一つの考え方で生きていくことが、可能になるのではないかと思うに至った。
短編本『個の時代の政治 〜私たちが生きる二つ目の世界〜』では、私たちが生きる社会には、異なる前提を有する二つの世界が存在すると考えられた。
それは、ビジネス(経済)と政治の二つの世界だ。

しかし、近代的な国家システムが出来上がる前、日本では古墳時代頃までは、経済と政治を隔てた考え方はなかったように思われる。
つまり、人類の営みはもともとは一つだったのだ。
したがって、それらを分離しない社会システムも実現可能であるとは考えられるが、それでも時代を経て分離してきたということは、そこには何か大きな理由があるはずだ。
可能性として、どのような社会システムの選択肢がありうるのか、今後も考えを深めていきたいテーマだ。

願わくば、ミッションに忠実である集団の中で生きていきたいし、そのような集団を形成していきたい。

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リベルは、もっと自由な発想や思考を持ち続けたいという願望から、始まりました。考古学や生物学などの、ビジネスから離れた専門の先生から、新たな視点を得ることを目指しています。 ここでは日々思ったこと、考えたことを書いています。 https://liber.community/

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