7章【9】 悪口のリスク

 愚痴っぽく、内省しない状態だと他人からコントロールされるリスクがある。それは、簡単に自分の周囲の人の悪口を他人に言ってしまうからだ。

 他人からの信用を失うのは簡単だ。「あなたのことをあの人が悪く言っていた」と第三者から直接本人に伝えられるだけで失ってしまう。悪く言われた相手は、疑いを抱き、心を開き難くなる。

 こちらをコントロールしようとしている人間は、周囲に対する悪口を引き出そうとする。そして、その悪口を当の本人に伝えてしまう。悪口を告げ口した人は、当該の相手との関係を壊したいとまでは思っていないことが多い。しかし、告げ口している人間がどう思っていようが、自分の言った悪口が相手に伝わってしまったら、関係が壊れるのは必然だ。しかも、この場合、悪口を引き出して告げ口した人は、ただ誰とでも仲良くなりたいだけで、そのような悪意がなかったりする。心を開いて仲良くなるのではなく、さまざまな人と別の人との悪口を共有して仲良くなろうとしているだけだったりする。

 そして、もしうっかり悪口を言ってしまったら、そのようにして周囲との関係を破壊されるだけでなく、その悪口を本人に言うと脅されてしまうこともある。

 自分の今の環境を大切にしたいなら、周りの悪口を言わない方がいい。

 こちらをコントロールしようとしていない人でも、悪気なくそれを当人に言ってしまうこともある。そうなってしまったときには、言われてしまった人の心の傷を元どおりにすることは難しい。

 反対に、人は直接褒められるよりも、第三者からの褒め言葉の方が抵抗なく受け取り易く、こちらにも良い印象を抱く。打算的にではなく、それを自然とできるような心持ちでいつでもいられたら良いなと思う。他人を悪く言うことも、良く言うことも、無理にすることはできない。無理にしてしまったら、表情も声も緊張して、違和感を与えてしまう。どちらをしているにせよ、そのとき口から出る言葉や行動は、そのときの自分の状態が表れているだけなのだ。

 同じように、騙すことも、騙されることも、そうしようと思ってできることではない。自ずとそうなってしまうものだ。

 ナンパをして、複数の女性と関係を持ち続けていたとき、僕はそれぞれの女性に他の女性と付き合っていることは隠していた。それを隠して、恋愛が不得手なキャラを演じたり、場合によっては相手を魅きつけるために他の女性とも関係があることを伝えて、人付き合いが得意で自分のコミュニケーションに疑いを抱いたことなどないように演じたりもしていた。

そのやり方は特別誰かに教わったわけではない。女性との会話の各局面で、勝手に口が動いていた。目の前の女性を騙したいわけではない。寧ろ、騙すことは心が痛い。けれども、気づいたら相手を騙すようなことをしてしまう。

 他人を騙す罪悪感よりも、他人が自分のことを好きになって依存して欲しいという気持ちの方が優っていて、罪悪感を持ちながらもやってしまっていた。

 あるとき、ある女性が僕の嘘を見抜いた。多くの女性は嘘を見抜いたら、騙されることが怖くなったり、僕に嫌悪感を抱いたりして逃げていく。その女性は嘘を見抜いたまま、毅然と僕の目の前に居続けた。

 そのときに自分が、他人を騙してでも自分の都合の良いように持っていこうとしていることを自覚して、目の前の自分を見つめている人の前で恥ずかしくなった。

 それまでは、騙されている人は騙されるくらいに愚かなのだから仕方ないと、騙される相手のことを馬鹿にして、自分が騙したことを相手のせいにしていて、自分が何をしているのかをなるべく自覚しないようにしていたのだった。

『あなたは、なぜ、つながれないのか:ラポールと身体知』より)

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