7章【7】 他人を前にして自分の欲に没頭したら危険な理由
人を騙そうとしたり、自分の都合の良いように相手を持って行こうとしたりするときには必ずその人の欲が表れる。欲が表れたときには、身体が緊張して、声のトーンも変わる。内容ではなく、相手の身体や動作の変化に、同調しながら意識を向けていると、そういう相手の欲が見えるようになる。
もし話の内容から嘘を見抜こうとすると、その話の内容に没入して、相手のそうした身体的な違和感を捉えることができなくなる。頭の中で、相手の話を咀嚼するために、自分なりのイメージを形作ってしまっているのだ。そのイメージに集中しているために、意識が自分の考えだけに向き、目の前の相手の様子は見ることができなくなってしまっている。騙されまいとすることで、そうやって自ら騙されやすさを作ってしまっている。
相手に身体を合わせて同調していると、ちょっとした声のトーンの違いや、緊張、不自然な仕草に気がつくようになる。
合わせてくる相手を騙すことはできない。反対に、良いアドバイスや情報が欲しいと欲に駆られている人は騙しやすい。相手は自分自身の考えや目先の欲に集中して、自分の内側に意識が向いてしまっているから、僕が言っていることが僕の誠実な思いであるかどうかよりも、それによって自分の思い通りの結果が得られるかどうかばかりを想像しているからだ。
だから、依存させたり、騙したりするためには、相手が何を望んでいるのかを丁寧に聞くことが大事だ。
いきなり良い話を持って行っても、相手は反応しない。相手が期待しているイメージを捉えて、そのイメージがより膨らむように話を進めていく。お金が欲しいなら、
「何が欲しいか」
は大事だし、寂しいのなら、
「人からどう思われたいか」
が大事だ。そして
「きっとこんな風になるよ」
と相手の未来のイメージを膨らませていく。そうやって期待していることを引き出しながら、最終的には、
「(僕の言うことを聞けば、これを買えば)きっとこんな風になるよ」
に繋げていく。
こうして未来のイメージをしてもらうことはカウンセリングでも有効なことだ。決定的に違うのは、カウンセリングの場合は、そのイメージ通りになってもカウンセラーの利益がないことだ。何かを買わせるため、こちらの提案を聞いて貰い易くするために未来のイメージをしてもらうわけではない。未来のイメージを他人に促す側のメンタリティは違うものだが、プロセスとしては些細な違いしかない。
風俗のスカウトマンをしていたとき、僕の仕事を、
「大変な仕事ね」
と気遣って言ってくるような人にはお店の情報に嘘を混ぜて良く見せたり、嘘をついたりすることはできなかった。なぜならその人は、僕に意識が向いている。反対に、紹介される仕事の内容のことを細かく聞いてくる人間には簡単に嘘がつける。なぜなら、彼女は自分のことで精一杯だからだ。たとえば金銭欲に駆られた空想をしていたりして、僕のことを意識するのはやめている。反対に、僕に丁寧に意識を向けている人は、僕のちょっとした緊張や違和感のある動きに気づきやすい。だから、迂闊に嘘がつけない。
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